ファッション

ミラノサローネに花咲くミラノの街へ行く 後編 【トラベルライター間庭がハコ推し!】

旅の質が重視され、その場でしかできない体験が求められている。今回は家具とデザインの祭典、ミラノサローネが開催される花咲くミラノの後編。デザインウイークに訪れるからこそのプライスレスな体験がかない、リアルであり、没入感があるイベントの数々をレポートする。

最終日となる2日目のミラノも
デザインウイークの華やぎに酔う

ミラノ2日目。取材予定のトリエンナーレの鑑賞ツアーは午後からなので、24時間切符を活用して、ドゥオーモ(ミラノ大聖堂)へ。ステンドグラスからの光は、朝が一番美しいと聞き、朝一番の入場券をネットで購入した。イタリアといえば、何をするにも時間の列で入場するまでひたすら耐えないといけない、という20年以上前の悪しきイメージがこびりついていた。なのに、今やQRコードを見せるだけですいすい入れる。事前予約により、入場時間が分散できるのも快適に拝観できるメリットだろう。

9時よりかなり早く着いたので、アーケードを歩いてみた。ヴィットリーオ・エマヌエーレ2世のガッレリアのガラス天井は朝の光が降り注ぎ、まだ人通りが少ないため、床のモザイク画も見えやすく、映えた。

大聖堂は涙が自然に出るような神々しさ。これはリアルだからこそ響く色、光、波動。生きていると実感した。そしてルーフトップからの眺めも壮観だった。真剣に撮影に挑む若者も多く、ここでも時代の流れを感じたが、混雑していないので、ぼーっとしながらただただ過ごすことができた。なんて贅沢。

ドゥオーモ脇では、映画「プラダを着た悪魔2」のキャンペーンで巨大な赤いハイヒールのオブジェがあり、格好のフォトスポットとなっていた。プラダ本店があるからかな、なんて思っていたが、続編ではミラノが冒険の舞台となっていたことを帰国後、映画館で見て知った。映画ではニューヨーク郊外の高級避暑地・ハンプトンや、ミラノのリゾート地・コモ湖なども登場するが、そのあたりも憎い。「社交」はリゾート地で起きているからだ。ミラノでさまざまな「社交」を目にし、映画以上の没入感を感じた。それこそ贅沢。

トリエンナーレでの展示で
アンドレア・ブランツィの世界観を知る

午後は建築家兼デザイナーのアンドレア・ブランツィ(Andrea Branzi)の回顧展が開かれているトリエンナーレ・デザイン・ミュージアムへ。ここはミラノの建築的ランドマークであるパラッツォ・デッラ・アルテにあるデザイン専門の美術館。中世ミラノの繁栄期を象徴し、街のシンボルとして歴史を伝えるかつての古城「スフォルツェスコ城」や、デザインウイークに開放しているキッチンメーカーのショールームなどを見学しつつ、トリエンナーレのエントランスへ。イタリアのデザイン界のレジェンド、アンドレア・ブランツィの企画展示をキュレーターが解説するメディア向けツアーに参加するのも、今回のイベントの一環なのだ。

展示を見て驚くのがブランツィの多才さ。それぞれに作風もアプローチも全く違い、同じ人によるものとは思えない。多重人格なの?いったい何人存在したの?と疑うほどの作品数で、まさにマルチなクリエイティビティー。集合住宅や家具、食器、照明などありとあらゆるものを世に生み出し、人々の生活を変えてきた。フレームとしての役割も果たし、収納棚としての役割も果たし、その存在そのものがアートピースとしての作品などもあり、アイデアグッズのような朗らかなものから、悲壮感が漂う彫刻まで、作風もいろいろ。この展示は10月まで開催する。

常設展にもイタリア・ミラノのデザイン史をたどれる展示が。年代ごとにディスプレーされ、ブランツィの代表作品がいくつも展示されていた。もちろん、あの和紙のランプもだ。ネオンアートの照明もPOPだった。これもブランツィの作品とは!

自然光が入り、曲線が多い空間の豊かさ、そしてランチとして訪れたカフェの美しさ。私は夜のディナーを考慮し、その後もフルで活動したかったので、前菜のサラダだけにしたのだが、パワフルな各国のメディア関係者は当然のようにパスタやメインまで同時にサーブしてもらい、平らげていた。向かいのドイツ人の美女ジャーナリストは、私がもたもたサラダを食べるまでにメインまでさらりと完食。Coooool! こんなにしなやかで、洗練されたルックスなのに頼もしい。そして笑顔で颯爽と次の取材へと向かっていった。各国の人が集まる場では、こんなリアルな瞬間に立ち会える。

キッチン、バス、水回りのブースの
体験型展示も絶妙な没入感

2日目にして最終日なので、ラストスパートとしてもう一度ミラノサローネの会場へ。昨日、見切れなかったキッチンやバスなど、水回りのセクションを巡ってみた。キッチンやバスはいかに機能するか、どのような技術が搭載されているかを伝える必要がある。シェフによる実演や仕上げた料理の試食など、TVショー的な参加型プレゼンテーションが目立った。またブランドの歴史をミュージアムのように展示するブースなどもあって見ごたえがある。

BBQに特化したアウトドアキッチン、蛇口、ZENスタイルの石の洗面スペースなど、焦点を絞った展示も多い。見入ってしまったのはトレーニングマシーン、サウナやジャグジーのブランドだ。実例取材などに行って感じるのは、コロナ過以降、プライベートジムやサウナを備えた自宅が多くなったということだ。豪邸というほどではなくても、趣味の時間の質を上げるために、予算をとる施主が増えたと感じる。またサウナ設備に力を注ぐホテルが増えてきた。流れるように「作品」を鑑賞するデザイン家具と違って、機能を伝えるためには対話も必要で、スプマンテやちょっとしたタパスをふるまって、和やかに交流するようなブースもあった。(中にはショールームの中にバーやカフェを解説していた会社も!)ミラノサローネが単なる発信の場ではなく、相互に情報交換するようなインタラクティブな場である証のようで、興味深かった。

最後の夜はアートの中で語らう
一夜限りのディナーセッション

世界各国のメディアが招集された今回のプレスツアー。そのメーンイベントと言うべきなのが、2日目の期間限定の特設ギャラリー「Object That Speak」をその日限りのレストランと見立てたディナーだろう。名付けて「A Dinner a Mongst Curious Minds」、訳すると“好奇心旺盛な心の人々が集う晩餐会”。まさにこのプレスツアーの結びにふさわしく、それこそ「プラダを着た悪魔2」に登場したシーンそのもの。ミラノサローネのために集まったデザイナーや建築家、メディア関係者が一堂に会した。ミラノの人気レストラン「ランゴステリア(LANGOSTERIA)」からケータリングし、トマトスープやシーフードサラダ、スズキのパッケリ(パスタ)などのシグネチャーメニューがコースに。

有機的なフォームを描くアート作品が多いことに合わせてか、長い長いテーブルも緩やかなアールを描くように配置している。さまざまなデザインのテラコッタ色のベースに花を生けて連ねるアイデアも秀逸だ。インテリア関連のスペシャリストが、今年のミラノサローネはテラコッタ色が目立ったと語っていたが、こんなコーディネイトでもお目にかかれるとは。トレンドってつながっているのだなあ。
暮れゆく夕陽とキャンドルの炎、そしてアート作品のハーモニーが絶妙で、夢の中にいるようだった。デザートはローズウッドらしく薔薇の花をかたどったソルベ。華やか!ミラノの長い長い夜はまだまだ続きそうだったが、明日の出発が早い私は、お向かいに座っていたソウルから来たエディターとともにホテルへ。

今回、滞在した1927年創業の最高級5つ星ホテル「プリンシペ ディ サヴォイア(Principe di Savoia)」もまたクラシカルで、イタリアらしい老舗のホテル。流れるような時間を過ごしたが、ミラノにローズウッドホテルが開業したら、どんなケミストリーがうまれるのだろう。進化していくこの街に、またなにかうれしい変化が訪れるかもしれない。

なぜ今、イタリアであり、ミラノなのか
本質に触れられるというプライスレスな旅

実質48時間の究極の駆け足滞在だったが、ミラノ滞在はぎゅぎゅぎゅっと凝縮したような他にはない体験となった。これはオンラインではありあえない。なんといってもデザインウイークのミラノにはさまざまなセレンディピティーが点在している。「ミラノサローネの外」を意味する“フォーリサローネ”のほうがむしろ見どころがあるという。毎年、この時期のミラノをリサーチするジャーナリストの方々が評していた。ミラノサローネも関係者やメディア以外も入場できる日程もあるが、“フォーリサローネ”は、より自由! 今回、ローズウッドホテルが企画した期間限定ギャラリー「Object That Speak」も、ディナーなどのイベント以外はオープンパブリック。街ゆく人は誰でも立ち寄り、鑑賞できる。街中にあるインテリアのショールームが開放され、アペリティーボを楽しんでいる中に私も紛れ込んだ。これはデザインウイークならでは。この時期に訪れている、思わぬセレブリティーに遭遇するかもしれない。ニューヨーク・コレクションのあるファッション・ウイークも同じこと。仕事として取材に駆け回っているときはそのありがたさに気づかなかったけれど、通常ではありえない景色を見て、体験して、交流する。これぞプライスレスな旅。

街のシステムが進歩して、さまざまなロスがなくなったことも効率のいい滞在を可能にしている。入場や移動のアクセスはスムースになり、多くの情報を得られることで選択肢が広がった。
今回、イスタンブール乗り換えのターキッシュエアライン便で向かったのだが、これにもびっくり。成田に去年できたラウンジも、大開発中のイスタンブールの空港のラウンジも、ここを旅の目的にしてもいいのではないかというほど上質。かつトランジットもラクだった!1枚のチケットで別のフライトで乗り継ぐ場合、次の便の搭乗ゲートにそのまま進めばよく、パスポートの手続きは不要だ。トルコはEU加盟国でこそないが、空港内で24時間以内の乗り継ぎでは、いろんなことが簡略されるようだ。ヨーロッパ旅行、ぐんと身近になったかも。

結論 円高であれ、物価高であれ
行きたいときには旅をせよ!

サージャージも驚くほど上がり、相変わらずの円高。さらには物価も高騰というトリプルパンチ。それでも旅したいときには旅すべし、と強く実感した。というのも、その一瞬の風景や体験はこの身だけのもので、100回オンライン上で繰り返すより、リアルが一番パワフルだからだ。とはいえ、なかなか行きたいときに行けるものではなく、私も招待で、取材でなかったら躊躇したことだろう。それでもこの強烈な体験ができたことで、行きたいベストシーズンに無理してでも行こうと心に誓った。

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