「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」の川久保玲ほど、率直に時代へのメッセージを服にのせて発信しているデザイナーはいるだろうか。ある時には怒りを、またある時には祈りを。「ブラックホール」と題した「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」の2026-27年秋冬コレクションは、混沌とした今の世界を捉えながらも未来への希望や強い意志を感じるものだった。
ショーは、ラペル部分にラッフルをあしらった黒のロングジャケットに、襟ぐりの深い白のワンピースを合わせたルックからスタート。ラッフルは綺麗に成形されたわけではなくいびつで、続いて登場したジャケットも生地をクシャクシャにしたようにランダムな凹凸を描く。その歪んだフォルムは、ブラックホールの大きな重力によって、縮められたかのようだ。加えて、今季も提案の核となったテーラリングは、背中や胸元を大きくくり抜いたり、生地を折り返したり、前身頃をサイドに吊り上げて留めたり。異なる素材のパーツを組み合わせて再構築したようなデザインもあり、クラシックなデザインの大胆な再解釈がカギになった。
合わせるのは、テーラード仕立てのジャンプスーツやシンプルなワンピース、前から後ろにかけて斜めにカットしたショーツ、フレアラインを描くバミューダなど。黒を基調としつつも、エナメル加工やラメを織り込んだ生地、ベルベット、メタリックなパイソン柄、スパンコール刺しゅう、ファンシーツイードなど、きらめきを放つ豊かなテクスチャーを取り入れた。
そんな服をまとうモデルたちは皆、ホラー映画「13日の金曜日」の殺人鬼ジェイソン・ボーヒーズ(Jason Voorhees)を想起させるようなアイスホッケーのマスクを着用。正面が割れたように顔はあらわになり、マスクからはみ出るウィッグはグシャグシャに広がる。その不気味な姿は、見る者の恐怖をあおる。
一方、「キッズ ラブ ゲイト(KIDS LOVE GAITE)」と協業した、アッパーが二重になったレザーのレースアップシューズには、「WEAR YOUR FREEDOM」や「LIVE FREE」「STRONG WILL」といった川久保が継続して掲げる言葉をハンドペイント。揺らぐことのない信念を込めた。
私たちが生きるこの時代は、確かにブラックホールのように真っ暗と言えるかもしれない。しかし、川久保のメッセージは悲観的なものではなかった。それを表現するように、ショーの最後にはミッシェル・ポルナレフ (Michel Polnareff)の「愛の願い(Love Me, Please Love Me)」が流れる中、白で再構築した8体のルックが登場。その姿は、闇に差し込む希望の光のように感じられた。ショーノートにコレクションのタイトルと共に記されていたのは、「Let’s get out of the black hole.(ブラックホールから抜け出そう。)」という一文。川久保は、先が見えない世界の中でも諦めることなく出口の光を探す強い意志を、“現代社会“というブラックホールの中で生きる人々に示したかったのだろう。