ビジネス
連載 中国電脳コマース最新情報 第26回

「AIスマホ」の衝撃、中国のIT大手が「仁義なき戦い」

有料会員限定記事

ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、ファッション&ビューティと小売りの視点で中国専門ジャーナリストの高口康太さんが分かりやすくお届けします。今回のテーマは「AIスマホ」。先日ZTEから発売されたAI搭載スマホ「nubia M153」の登場が、アリババやバイトダンスなどネットの巨頭を揺らし、大騒ぎになりました。「AIスマホ」登場は、何を変えようとしているのでしょうか?(この記事は「WWDJAPAN」2026年1月19日号の転載です)

「このシャンプーが欲しい。ネットモールを巡回して、一番安い商品を注文して」―人間がやるのは、音声で指示するだけ。後はAIがスマートフォンを操作し、実際に複数のアプリを開いて商品名で検索。価格を比較した後に一番安いショップで購入ボタンを押すところまでやってくれる。昨年末に発表された「豆包手机助手(ドウバオ・スマートフォン・アシスタント)」のデモ映像だ。「豆包(ドウバオ)」はティックトック運営企業のバイトダンスが開発しているAI(人工知能)で、一般的にはチャットGPTと同様の対話型AIアプリとして利用されている。同社はほかにも画像生成、動画生成など多くのAIアプリをリリースしており、その最新版だ。12月1日に発売されたZTE製スマートフォン「nubia M153」が初の搭載機種となる。

中国はスマートフォン大国だ。エンタメはもちろん、仕事から日常生活までほとんど全ての用がスマホで済む。便利ではあるが、ずっとスマホをいじり続けるのは面倒でもある。もし、音声入力だけでAIがスマホ操作を代わりにやってくれるならば、その価値はかなり高い。デモ動画では「お気に入りのポッドキャストが更新されてないか確認して。新しいエピソードがあったらプレイリストに入れておいて」「車のトランクを開けて」「夜8時半に**のスペイン料理店を予約しておいて」と指示すると、AIが指示通りの作業を進めていく。多くのことをAIがやってくれる夢の未来世界だ。初期ロット3万台は初日に売り切れ、数倍の価格で転売されるほどの注目を集めた。

ただ、実際にはデモ動画ほど便利ではないようだ。ガジェット・インフルエンサーのレビューは総じて不評で、「AIの操作は遅く、しかもよく間違える。とても任せられない」というコメントもある。ZTEも開発者向けのテストモデルとして販売しており、一般ユーザーが実用的に使えるまでにはまだ時間がかかりそうだ。

AIがあらゆるウェブサービスの全てのポータルに

現時点では実用性の低いプロダクトだが、AIスマホ・アシスタントの登場は思わぬ波紋を呼んだ。発売翌日にはメッセージアプリのウィーチャットが、「豆包手机助手」を無効化。ネットショッピングのタオバオ、フードデリバリーのメイトゥアン、さらには金融機関からゲームまで多くのアプリがこの動きに続いた。アプリを操作できないのであれば、AIスマホの価値はない。「nubia M153」の価格も暴落した。

なぜ、各社はこれほど迅速に対策したのか。AIアシスタントがデジタル業界地図を塗り替えかねないリスクだと認識したためだ。デジタルマーケティングには「Traffic is king(トラフィックが王様だ)」との金言がある。消費者がどのドラマを見るのか、どの商品を買うのか、どこに旅行するのか、どのニュースを見るのか、プラットフォーム企業はその選択を誘導する力を、広告事業の利益の源泉にしてきた。だが、人間の代わりにAIが検索や操作を担うようになれば話は違う。全ての商品を見比べるのは面倒くさいからと上位に表示されたものを適当に選ぶようなことはなく、AIは根気よく一番目的に合致したものを探し出し、その結果だけをユーザーに届けることになる。20年以上にわたり続いてきたデジタルマーケティングのルールを揺るがしかねない事態というわけだ。

他の中国企業も負けてはいない。「豆包手机助手」にノーを突きつける一方で、独自のAIポータル構築を始めている。成功例として注目されているのが、アリババグループの関連会社、アントグループのヘルスケアAIアプリ「阿福」(ローンチ当初の名称は「AQ」)だ。健康面に特化したAIである。病院の検査結果を分かりやすく解説したり、(患部の写真をアップして)「どう処置したらいい?」と質問すると一般的なアドバイスをくれたりもする。専門的な知見が必要になると提携病院の医師にオンラインで相談できる。ほかにも病院の予約、公的医療保険の支払い手続き、現在飲んでいる薬の管理などの機能がそろっている。有料での医師によるオンライン相談や薬のデリバリーなどの機能を持つヘルスケアアプリはいくつもあったが、無料できがねなくAIに相談できる点が画期的で、「阿福」のMAU(月間アクティブユーザー)は1500万人を突破、1日に500万回以上のチャットを処理するまでに成長した。このまま成長していけば、阿福におすすめされるかどうかで、病院の患者数や薬品の販売量が左右されるする可能性もある。

AI時代のポータルを握るための戦いは各所で起きている。メッセージアプリのウィーチャットにはAI検索が統合された。ブログや業界紙的な専門メディアの多くはウィーチャットのオフィシャルアカウントで情報を発信しているが、AIを使えば検索よりも楽に目的のコンテンツにたどりつける。SNSのウェイボーにもAI検索が搭載された。芸能人関連の情報が柱のプラットフォームということもあり、AI搭載で手っ取り早くゴシップ情報が収集できるようになった。結婚、離婚、浮気、不倫などのゴシップをAIがさくさくと要約してくれる。「吃瓜神器」(ゴシップ収集の神ツール)と呼ばれるようになったほど。つまり、「豆包手机助手」のように、自社の縄張りに踏み込んでくるAIは断固撃退するが、その一方で自分の領域内ではAIをトラフィックの中心へと置き換える動きが進んでいる。

日本にも「AIスマホ」の衝撃が来る!?

日本でも、デジタルマーケティングの世界では、AIO(AI検索最適化)という言葉をよく聞くようになった。チャットGPTやグーグルのAIサーチが、自社のブランドや商品を取りあげやすくするように情報公開するテクニックを指す。AIがデータを処理しやすいようなFAQを用意する、構造化したデータをサイトに載せておくといった施策が中心だ。

中国ではこのAIOがさらに熾烈だ。大手AIサービスに対応するだけでは足りず、ネットモールも旅行サイトもSNSも全てにAIが搭載されるようになっているのだから、それぞれのAIに何が効くのかを模索する必要がある。この過剰なまでのAIシフトは日本企業にとっても参考になる。今の中国は1~2年後の日本の姿だろう。買い物も、ゴシップ情報収集も、病院の予約も全てAI。トラフィックを握る王の座が変わろうとしている。そう遠くない未来に、この現象は日本にも上陸する。

紙版を定期購読中の方も閲覧することができます。
定期購読についてはこちらからご確認ください。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

売り上げでも知名度でもない、熱狂を生むブランドの条件とは 世界のデザイナーズブランド最前線

「WWDJAPAN」1月19日発売号では、「熱狂を生む世界のデザイナーズブランド」を特集します。世界各国のファッション・ウイークを取材する記者たちが、「いま、面白い」と感じるブランドを掘り下げました。キーワードは、「エモーショナル・コネクション」。売り上げ規模や知名度では測れない、感情的で本質的なファンコミュニティーを築き上げているブランドたちに光を当てました。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。