「シュタイン(SSSTEIN)」と「ヨーク(YOKE)」は都と日本ファッションウィーク推進機構(JFWO)が主催する「ファッション プライズ オブ トウキョウ(FASHION PRIZE OF TOKYO)」を共に受賞(前者が2024年、後者が25年)し、26-27年秋冬パリ・メンズ・コレクションでそろってショーを披露した。
10年代後半、ストリートラグジュアリー全盛の中で立ち上がった両ブランドは、決して目を引く派手さはなかったものの、服好きの男性の支持を広げ、その後も着実に歩みを進めてきた。
美しく丁寧に作られた素材、陰影が際立つシルエット、控えめで実直な美学。両者には通底する魅力がありながら、“探求”と“共鳴”という異なる美学、表現のアプローチを深化させている。
モノクロームの世界に宿る温かみ
偏愛を貫く「シュタイン」
浅川喜一朗がクリエイティブ・ディレクターを務める「シュタイン」は、16年にスタート。パリメンズで3回目のランウエイとなった26-27年秋冬は、公式スケジュールに名を連ねた。浅川が身耽ってきた海外の写真集などを着想源に、静寂や建築的な冷たさ、モノクロームな美しさを感じさせる服を作ってきた。今シーズンは、そのクリエイションに人間的な温かみが宿った。
テーマは「日常のシーンにおける情緒」。写真家ジェイミー・ホークスワースの大自然の風景や、公園で見かけた老夫婦の着込んだ服の記憶。そうした郷愁を、くたっとしたツイードや天日干しのニュアンスのコーデュロイ、アーガイルニットのふんわりとしたシャギー感で表現した。
ファッションデザインの専門的な学識は持たずとも、名作と呼ばれるビンテージウエアの解体を重ね、独学で美しさの理由や根拠を紐解いてきた浅川。ブランドの発足当時から人気を博したのは、生地のドレープで陰影を作るトレンチコートやガンフラップ付きのチェスターコートといった、ミリタリーを再解釈したアウターだった。今も、ミニマルな見た目の中にマニアックな技術や素材使いを忍ばせ、美しさを探求する姿勢は変わらない。
柔らかなフラノで仕立てられたラグランスリーブのコートは、ドレーピーなシルエットを首元で「締める」ため、襟の裏側にスエードやレザーを貼ることで緊張感を持たせている。ビビッドなレッドのウールダブルフェイスブルゾンには、内側から手縫いを施すことで、表からステッチを一切見せないようにした。
近年は、シャギーカシミヤ、セーブルカシミヤ、ドスキンウールといった、浅川が解として“腑に落ちた”素材を、同型のコートやブルゾンに乗せ替えて提案している。例えば今季のウールハーフコートは、3つの素材違いで作った。ゆえに展示会でのアウターの型数が多くなってしまう傾向にあるが、基本的にドロップ(生産中止)はしないという点にも、浅川の生地に対する探究心と執着を感じさせる。
パリのバックステージにおける浅川の振る舞いにも、ブランドの姿勢が表れている。メディアの取材に対し、彼はあらかじめ用意したビジネスプレゼンテーションのように流暢な説明はしない。自身の内奥から、適切な言葉を一つひとつ探し出し、丁寧に紡いでいく。分かりやすさや堂々とした自信を求める海外ジャーナリストからすれば、もどかしく映る場面もあるかもしれない。しかし、その不器用なほど誠実な姿もまた「シュタイン」らしい。
ここ数シーズンで強化しているレザーアウターは、ブランドの新たな顔となりつつある。凝ったビンテージ加工が施されたシープスキンやラムスキンのカーコート、フライトジャケットなどは日本円で15万円前後。「アフォーダブル」であることを浅川自身がどこまで意図しているかはさておき、その魅力は海外バイヤーにも確実に伝わっていそうだ。現在は海外の卸先数(65)が国内(51)を逆転し、ベルリンの「アンドレアス・ムルクディス」やパリの「レクレルール」など、世界の名店で有力デザイナーズブランドと肩を並べている。今季からはXSサイズを本格展開し、ウィメンズへのアプローチも強めていく。
「ギミック」を「アート」へ進化
パリ継続を見据える「ヨーク」
一方、18年に寺田典夫デザイナーが立ち上げた「ヨーク(YOKE)」は、芸術や思想を柔軟に取り込み、洋服という“立体物”を通してより雄弁に語るアプローチだ。
ブランドがこれまで得意としてきた、ボタンやファスナーで取り外したり、繋げたりして変形させる「機能的なギミック」は、ショーというフォーマットを通して、「アートの表現」へと進化を遂げつつある。パリでの初ランウェイとなったコレクションでは、彫刻家ジャン・アルプへのオマージュを捧げ、「自然界に直線は存在しない」という彼の思想を、意図的な「ねじれ」や「膨らみ」を持たせたパターンメイクで表現した。
「少し気の利いた『いい服』を作るだけなら、今の時代、インフルエンサーにもできる。だからこそ、デザイナーズブランドがやる意味として、服の奥底に確かな背景やフィルターを感じさせなければ」。これはブランド立ち上げ以前、アパレルOEMの生産現場で数々の服の裏側を見てきた寺田デザイナーが抱く、リアリスティックな課題意識なのだろう。
しかし、彼が目指すのは突飛なアバンギャルドではない。あくまで「日常着の延長線上」にありながら、素材やディテールで「少しの違和感を与える」というチューニングだ。既存の枠組みから少しだけ外れ、新しいものを生み出す。その実験精神が「人と服が繋がり、空間と共鳴し、その瞬間にしか生まれない有機的なフォルム」(寺田)を形作ると考える。
パリでの初のショーでは、照明が想定以上に暗く、実際に服のディテールがよく見えないというハプニングにも見舞われた。「でもそれで『展示会でもう少ししっかり見たい』とバイヤーたちが興味を持ってくれたのかもしれない(笑)」。結果として、これまでパリ・ファッション・ウイーク期間中に展示会を実施してきたものの、新規開拓は限定的だった状況が一変。英「ハロッズ」や「セルフリッジ」、伊「アントニア」、デンマークの「ストイ」といった世界的な名店からの関心・オーダーを取り付け、初のパリショーに確かな手応えを得た。
海外の卸先はすでに30店舗を超えているが、「ファッション プライズ オブ トウキョウ」の支援が受けられる次回6月のショーまでに、50店舗を目標に見据える。「ただ数を追うのではなく、本当に置いてほしい店を選び抜きながら」自力資金でのパリコレ継続を見据える。
“わかりにくさ”は繊細な美学の証
自身の内奥に潜りながら、素材やシルエットへの偏愛を極める「シュタイン」と、衣服の構造を彫刻し、より外に開かれた実験的なアプローチを模索する「ヨーク」。“ミニマル”や“ベーシック”といった形容詞で一緒くたにされがちな両者だが、それぞれ異なる表現を磨き続けている。華やかなパリのファッションシーンでその魅力は伝わりづらいだろうが、その「わかりにくさ」をも両者の繊細な美学として貫き、ミニマリズムの先にある景色を見せてほしい。