ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、ファッション&ビューティと小売りの視点で中国専門ジャーナリストの高口康太さんが分かりやすくお届けします。今回は「W11(ダブルイレブン、独身の日)」商戦における日本ブランドの状況について。中国のデータ分析のプロであるNintの堀井良威(よしたけ)さんに対策のカギを聞いています。(この記事は「WWDJAPAN」2025年12月22・29日合併号の転載です)
毎年11月11日に開催される中国最大のセール「W11」(ダブルイレブン、独身の日)。この商戦を分析すれば、中国消費市場全体の動向、日本ブランドの立ち位置、そして今後に必要な戦略が読み取れる。中国大手ECモールのデータ分析サービスを手掛けるNintの堀井良威(よしたけ)経営戦略担当に話を聞いた。
PROFILE: 堀井良威/Nint経営戦略担当

―デフレ、消費低迷が懸念される中国経済だが、「W11」のGMV(総流通額)は前年比14.2%増の1兆6950億元(星図データ調べ)。セール期間が延びたとはいえ、過去最高を更新した。
堀井良威(以下、堀井):Nintは返品を除去した実売データを集計しているが、それでも同5.1%成長と推計している。ただ、売り上げ全体は伸びていても売れている商品の価格が下がっている傾向はある。例えばメンズスキンケア・カテゴリの流通額は同4.2%の減少となった。販売件数は前年と同じだが、単価の下落によってマイナスとなった。だが、高価格帯ブランドが売れなくなった、各社が大幅に値下げしたと判断するのは早計だ。近年、新興中国ブランドの躍進が目覚ましい。メンズスキンケアでは「Kans/韓束」「海洋至尊」「谷雨」などの中価格帯の中国ブランドが伸びており、じわじわと高価格帯のブランドのシェアを奪っている。全体では単価の下落と見えるが、その中身は勢力図の変更の可能性がある。なお、高価格帯でも「ディオール」やロレアル傘下の「ビオテルム」など、シェアを伸ばしているブランドはあり、全てが苦戦しているわけではないことは言い添えておく。
―日本ブランドの現状は?日中関係悪化の影響は?
堀井:25年1〜11月期の日本ブランドの売り上げは横ばい。21年から続くマイナスがついに下げ止まった。ただ、今年の年間売り上げは最盛期である21年比で80%強にとどまる。来年以降、5%成長を続けたとしても21年を超えるのは2030年以降となる。その意味では「黄金時代」の復活は遠い。EC売り上げをみる限り、日中関係悪化の影響はまったくない。23年は福島原発処理水の海洋放水ではネガティブな影響があったが今回は違う。健康被害への懸念と政治家の発言という差なのかもしれないが、現時点では分からない。ただ、少なくともデータ上の影響はゼロだ。
―2010年代にはW11の売り上げが前年比倍増は当たり前という「ぬれ手で粟」時代があった。
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