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連載 中国電脳コマース最新情報 第17回

「ニューリテール」はもはや死語!? 中国発シン・小売に「赤信号」【高口康太・中国連載】

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アリババが提唱し、中国発の次世代小売りの大本命といわれた「ニューリテール(以下、シン・小売)」が大異変を迎えている。リアルとネットを融合し、スマホ決済やロボット配送などと組み合わせた次世代の小売り業態に何が起きているのか。

「シン・小売(ニューリテール)」とは、2016年10月に中国EC(電子商取引)大手アリババグループの創業者ジャック・マー(馬雲)が提唱したコンセプトだ。AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータなどの技術を活用し、既存のECや小売を一体化、改革していくことを指す。この発表の1カ月後には、中国政府は「リアル小売イノベーション転換に関する意見」を発表した。その内容はオフラインとオンラインの融合、ビッグデータによる需要分析、都市中心部のショッピングセンターを小売の場から家族が楽しみ文化を享受する場へと転換すること、コンビニを物流や金融、公共サービス活用のハブに変えることなどが盛り込まれている。また、この時期には無人コンビニも爆発的な注目を集めている。

多士済々のシン・小売の象徴的な存在とみられてきたのが、アリババ傘下の新型スーパー、フーマーフレッシュ(盒馬鮮生)だ。店舗はネットスーパーの倉庫も兼ねていて、注文が入るとピックアップ担当者が商品を集める。その商品は天井に設置されたレールを通じてバックヤードに運ばれ、配送員に渡される。注文から最短30分で自宅まで届くという触れ込みだ。実店舗とECの融合以外でも、店内の水産物売り場は巨大水槽に美味そうな海鮮がぎっしり。購入した商品を店内で調理してくれるレストランは爆発的な人気で、数時間待ちの行列ができることもざらだった。海鮮の品揃えの良さはコールドチェーンの整備と商品管理の徹底がもたらしたもので、この能力を生かした「日日鮮」(入荷当日売りきりの生鮮商品。売り残りは廃棄とアピール)コーナーも魅力的だった。

他にもキャッシュレス・セルフレジのみの決済(人民元での支払いを受け付けないのは違法行為なので、後に現金にも対応)、プライベート商品の強化や、契約生産地のフーマー村など新機軸新技術が続々と導入された。日本メディアの注目も高く、2019年には河野太郎外相(当時)も視察したほどだった。フーマー以外でも、アリババは買収した百貨店、小売チェーンの改造を進めたほか、他社ブランド向けのオムニチャネル・ソリューションの提供、コンビニや家族経営の零細店向けの卸売EC「LST」など、シン・小売を大々的に推進してきた。ところが今、フーマーをはじめとするリアル小売を「非核心事業」として売却する方針が明らかとなっている。ジャック・マーは4月10日、アリババ社員向けに「改革とイノベーションについて」とのメッセージを発表。アリババは多くの間違いを犯してきたが、問題に直面し痛みを伴う改革という正しい道に進んでいるとコメントしている。

3大企業のECシェア率の推移

確かにアリババグループの存在感は低下している。EC事業のシェアは2017年の61.2%から2023年には40.7%にまで低下する一方、この間に台頭したのが新興勢力だ。格安商品をSNSの情報拡散で売りさばくソーシャルコマースのピンドゥオドゥオのシェアはこの間、1.8%から16.7%へと拡大。同社は越境ECのTEMUも猛烈な成長を続けており、昨年末には一時的ながらピンドゥオドゥオの時価総額がアリババを上回る時期もあった。加えて、動画アプリ「TikTok」(中国版はドウイン)を展開するバイトダンス、その同業のクワイ(快手)は動画配信とネットショッピングを融合させたライブコマース、インフルエンサーの活用と興味関心と商品のマッチングを主軸とするインタレストコマースで急成長を続ける。

小売&外食売上高とEC化率の推移

そもそもシン・小売は「リアル小売の生き残りを賭けた変革」が表向きのテーマだが、隠されたテーマは「ポストECの成長スポット」だった。そこでリアル小売と融合することでEC企業は成長を継続しようと考えたわけだが、実際には「ECの次のホットスポットは新型ECでした」という予想外の着地をしてしまった。

無人コンビニも撃沈、結局は「セルフレジ」!?

前述したとおり、シン・小売に取り組んだのはアリババだけではないが、競合企業は一足早く沈没している。一世を風靡した無人コンビニはほぼ全滅。品だしや清掃に人手がかかる以上、無人化をしても設備投資に見合うメリットはでない。もう少し現実的な形が模索されていった結果たどりついたのはセルフレジ、日本のコンビニでもちょくちょく見かけるアレだ。

新型スーパーも空ぶった。フーマーのライバルとされたJDドットコム傘下の7Freshは大幅縮小、同業の永輝スーパー傘下の超級物種は破綻状態だ。生鮮ECの草分け的存在の毎日優鮮はナスダック上場からわずか2年あまり、2023年12月に上場廃止。そのライバル、叮咚買菜はカバー地域を大幅に縮小する撤退戦を強いられている。

地方で急成長した「コミュニティ型EC」もあえなく沈没

また、日本ではあまり話題にならなかったが、シン・スーパーや無人コンビニと同様に中国発のリアル小売イノベーションとして注目を集めたのがコミュニティー型の生鮮ECだった。ネットで生鮮食品を注文すると、翌日には住宅地近所のピックアップ拠点に商品が配送されてくる。個別配送よりも送料が安いことに加え、消費者の顔なじみでもある拠点オーナーがチャットアプリで「今日のオススメはこれ!」と、商店街の老舗魚屋よろしくセールストークをかましてくるのが効果的で、これまで生鮮ECとは縁遠かった地方や郊外、あるいは中高年にも売れるようになった。2020年にはJDドットコムがコミュニティ生鮮EC大手の興盛優選に7億ドルを投資したほか、大手企業が大挙参入するなど大乱戦となったが、今ではほとんどが潰滅。今ではフードデリバリー大手の美団とバイトダンスが二強として残っているが、どちらも業務拡大よりも縮小してでも利益確保を目指すという元気のなさだ。結局のところ、リアルの商売はコストがかかる。ITビジネスのノリで大々的に参入しても利益を出すことは難しい。

いま最もホットな小売りは、なぜか「コストコ」!?

では、今の中国でもっともホットなリアル小売は何かというと、それは会員制倉庫型店舗。米ウォルマート傘下のサムズクラブ、米コストコが絶好調だ。日本でもコストコ代理購入ビジネスは人気だが、“転売ヤーの国”中国の活況はそれ以上。「サムズクラブ転売で月収200万円!」といった景気のいい文句が飛び交っている。中国企業も後追いで同様のビジネスを展開した(たとえばアリババはフーマーXという同業態の店舗を展開している)が、どうもうまく行かない。サムズクラブ、コストコは赤字を出さずとも安売りできるサプライチェーンを構築しているほか、変なものは売っていないから安心できるとのブランド力が備わっている。安売り力はともかく、ビジネストレンドが変わるたびに大挙参入、一気に撤退を繰り返しているようではブランド力を育てるのは難しい。

「シン・小売からコストコへ」、中国小売トレンドの転換は地に足がついたビジネスが新たな流行となることを示しているのだろうか。それとも、「地に足」トレンドも1~2年で過ぎ去るのか。

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