「アークテリクス(ARC'TERYX)」は9月19日、中国・チベット自治区のヒマラヤ山脈で中国人アーティストの蔡國強(ツァイ・グオチャン、Cai Guo-Qiang)と花火のインスタレーションを実施した。自然との共生をテーマにした壮大なパフォーマンスだったが、批判の声が多数上がり、2週間を経た現在も物議を醸している。
同ブランドはフィンランドのアメア スポーツ(AMER SPORTS)の傘下で、2019年には同社を中国のスポーツウエア大手であるアンタスポーツ(ANTA SPORTS)が買収。以来、「アークテリクス」は同国のSNSなどで“アウトドア市場のエルメス”と称され、アウトドアスポーツブームとともに人気と売り上げを着実に伸ばしてきた。最近開催した投資家向けの説明会で、スチュアート・ヘセルデン(Stuart Haselden)=アークテリクスCEOが「30年までに売上高を50億ドル(約7400億円)に倍増させることを目指しているが、その成長は中国と米国でほぼ半々となる見込みだ」と述べたように、同ブランドは中国市場で大きな存在感を放っている。
今回のインスタレーションは、標高5000メートル以上の山岳地帯を舞台にした初の試みだ。「昇龍」をテーマに、虹色の龍、水の龍、そして全長2500メートルの金色の龍といった三部構成でアートを展開した。蔡は「創作の意図は自然と共創すること。たとえ作品を手掛けなくなったとしても、自然が魔法のように残りを完成してくれると思う。変化の激しい今、この飛翔する龍は、世界に希望とエネルギー、そして祝福を広げるためのものだ」と語った。さらに、同作品は「アークテリクス」が中国市場に向けたプロジェクト“スプリット アップワード”の一環として、消費者のウェルネス向上を目的としている。過去には、雲南省シャングリラの標高3000メートルの山頂で開催されたランウエイショーや、チベット・ナムチャバルワ山で行われた音楽イベントなどの事例がある。
しかし、中国で人気を集める両者は今回、SNSで批判的な声にさらされることとなった。例えば、「微博(ウェイボー)」では関連投稿の閲覧数が200万以上となり、山を爆破している、環境意識の欠如、聖なる山々への冒涜などと非難された。「小紅書(RED)」では、「これは高原の脆弱な生態系を深刻に傷つける行為だ」「生分解性だと言っているが、プラスチックは1万年かけてようやく分解される。このような無責任なアーティストを支持しない」などの批判も上がった。同ブランドが掲げていた自然保護への取り組みに逆行するものだと指摘する声も多く、さらにこのインスタレーションを許可した現地政府に対しても批判の矛先が向き始めた。
一方で、「使用された花火は環境に配慮した素材であり、悪影響の心配はない。現地政府からも承認を得ており、現時点では生態系への損害は確認されていない」と説明する関係者も。また、今回の活動は経済と環境とのバランスを考えた上での取り組みであり、地域の発展に大きな助けとなると支持している人もいる。
現地の環境への影響についてはまだ調査中だが、批判を受けた数日後、蔡と「アークテリクス」はそれぞれ声明を発表し謝罪した。蔡は、「今回の芸術創作に対する批判を謙虚に受け止め、皆様の関心とご指摘に心から感謝する。今後、第三者機関や関係当局と積極的に協力し、作品が生態系に与える影響について包括的な評価を実施していく」と反省の意を示した。また、同氏が運営するスタジオも、「私たちは常に自然に対する深い敬意を抱いており、もし環境への影響が確認された場合、修復・回復のために尽力するとともに、現地の生態・文化観光の発展を支援していく」と発表した。
「アークテリクス」は、「チベット高原でのインスタレーションは、ブランドの価値観に沿うものではなかった。私たちが大切にしている理念やファンの皆様に対してあるべき姿と真っ向から反するものだった。このような事態が起きたことに心から謝罪する。今回の件について、関わった現地のアーティストや中国チームと直接対応し、同じことが二度と起こらないよう今後の活動を見直していく」と述べた。