ファッション

新生「ヴェルサーチェ」は直感的なセクシーから“ジワる”アティチュードを目指す ジャンニの面影が現代に蘇る 【26年春夏 新デザイナーの初コレクションVol.4】

ダリオ・ヴィターレ(Dario Vitale)がチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務める「ヴェルサーチェ(VERSACE)」が、彼による初めてのコレクションを発表した。

その解説をする前に、まずはこれまでの「ヴェルサーチェ」が置かれている状況を話してみよう。ブランドは、ジャンニ・ヴェルサーチェ(Gianni Versace)の妹であるドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)が30年以上に渡り牽引してきたが、この間に時代の流れとは若干乖離。特にクワイエット・ラグジュアリーのムードが色濃くなると、色や柄、ボディコンシャスなシルエットが特徴だったクリエイションは、トレンドとは大きくかけ離れて失速した。ダリオは、そんな課題に向き合うべく、「ヴェルサーチェ」を買収したプラダ グループの「ミュウミュウ(MIU MIU)」から移籍。近年の「ミュウミュウ」大躍進の立役者だったが、アヴァンギャルドとは融合しつつもガーリーな「ミュウミュウ」路線を貫けば「ヴェルサーチェ」らしさが無くなるし、一方で「ヴェルサーチェ」らしさを維持すれば時代のムードからは置き去りにされたままという大きな課題に向き合ったといえるだろう。

結果、ダリオはその課題に果敢に向き合い、“らしさ”を維持しながら、今はまだ違和感も残るが今後、確実に“ジワる”予感しかしないコレクションを生み出した。

ショーの終了後、ダリオはバックステージで「ヴェルサーチェ」に欠かせないセンシュアリティ(官能性)について、「それは、セックスだけの話じゃない」と答えた。「良いセックスとは、行為そのものだけの話ではないと思う。相手から漂う色香、肌の触れ合い……。思い出になるのは、往々にして(行為ではなく)前後のコミュニケーションだ」と語り始め、新たな「ヴェルサーチェ」が目指すのは、本能的・直感的・即時的なセクシーではなく、感情的で思考的、そして後年エモーションとして記憶に残るセンシュアルなアティチュードであることを示した。ダリオは、「ジャンニのアーカイブに触れるときは、洋服そのものではなく、それがもたらす感情を重視している。それこそが『ヴェルサーチェ』の魂だから」と続けた。ドナテラ時代からの大きな転換は、彼女がブランドのアイコンとして多用してきたグルカ デザインやメデューサからの脱却。バロック柄を一部残しながら、“アメリカン・ピープル”と称してマリリン・モンロー(Marilyn Monroe)やエルビス・プレスリー(Elvis Presley)らのカルチャーアイコンの顔写真をコラージュした人の顔のモチーフは復活。代わりに鮮やかなレッド、ブルー、グリーン、イエローなど、原色に溢れることで「ヴェルサーチェ」が放つべき自信を表現した。

ジャンニ時代への傾倒は、ダリオの母親が当時の「ヴェルサーチェ」に夢中だったことに起因しているようだ。「もちろん彼女のスタイルは、今日自分が発表したコレクションとは違うけれど、ブラックとブラウンのカラーミックスなど自由、だけどなぜか“まとまっている”ジャンニのスタイルを現代に蘇らせたかった」と振り返った。

ハイウエストへの転換で
現代的にスタイルアップ

セクシーについては、ハイウエストへの転換に注目したい。ダリオは、「僕自身がいつもハイウエストのデニムばっかり履いているから(笑)」としつつも、「僕の中では、『ヴェルサーチェ』はハイウエストの先駆的存在。そして究極、スタイルがよく見えるのは、ハイウエスト。それにこだわり続けるような、ハイウエストと信じて止まない信念みたいなものも、アティチュードにつながるだろう」という。スクエアなメタルバックルのベルトを用いたり、ボディコンシャスなドレスもハイウエストで生地を手繰り寄せたり、セクシーを存分に楽しむビーチリゾートを彷彿とさせるようにカラフルなカーディガンでウエストマークしたり、ブルゾンはクロップド丈に仕上げたり。そこにネックラインを深く抉ったタンクトップや、肩から脇腹にかけての生地を一切廃したノースリーブなどで直接的なセクシーの痕跡は残しつつ、開襟シャツのボタンを開けたり、肩を誇張したジャケットやブルゾンを羽織ったり、ポケットに手を突っ込んでウォーキングさせたりすることで何事も恐れない自信から生まれるセクシネスを表現する。ドナテラ時代に度々見かけたローライズからの転換は、ダリオが「ミュウミュウ」時代に得意としてきた、最初は違和感があるものの、なんだか忘れられず、いつの間にか「いいかも」と思ってしまう“ジワる”感覚にもつながっている。少なくとも、今の若い世代が世界的に傾倒するプロポーションバランスに近づいたことは間違いない。

“ジワり”そうな予感を感じて仕方ないのは、コレクションの背景にエモーションが多分に存在する気配がプンプン漂うからだ。アンブロジアーナ美術館を借り切ったショー会場には、深く愛し合った痕跡を残すベッド、脱ぎ捨てられたガウンなどが点在。今回は自身の思いの丈を綴ったラブレターを招待状とともにゲストに配り、ライブ配信はせず、まるで自宅に恋人や友人を招いたかのような親密な空間でコレクションを発表。こうした演出についてダリオは、「ずっとラブレターを受け取ってみたいと思っている、まだ一度ももらったことはないけれど(笑)。ファッションショーもある意味、ゲストを自宅に招くような行為。特に今の『ヴェルサーチェ』には、『お願い、私にはあなたが必要なの。戻ってきて』と懇願するくらいの姿勢が必要だと思う。そんな気持ちを(招待状と共に配った)ラブレターにのせて、嘘偽りのない今の『ヴェルサーチェ』をさらけ出したい。シワクチャのシーツなどを置いたのは、ジャンニのファクスや手紙、そしてさまざまな記事などを見つけたから。改めて洋服ではなく、アティチュードを現代に蘇らせたいと考えた」と話す。こうした素直な気持ちが、自由奔放なスタイリングや、恐れを知らないカラーコンビネーションはもちろん、ドナテラ時代とは異なる「もっと知りたい」と思えるリアリティに結実していきそうな予感がする。単純に今回のコレクションがきっかけとなって、若い世代は90年代の「ヴェルサーチ(当時)」の洋服を探し出すだろう。人々がまた「ヴェルサーチェ」というブランドと交わるようになる。ブランド復活の第一歩が始まる。

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