久保嘉男デザイナーによる「ヨシオクボ(YOSHIOKUBO)」は9月2日、「楽天ファッションウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で2026年春夏コレクションを発表した。ブランド創立20周年を迎えた2024年以降、吉本新喜劇との異色コラボレーションや「浅草花やしき」でのショーなど、従来の枠を超える演出に挑んできた「ヨシオクボ」。今回は世界最高峰の1on1ブレイキンバトル「レッドブル ビーシーワン(Red Bull BC One)」とタッグを組み、ファッションとダンスの融合を試みた。
会場に足を踏み入れると同時にDJがフロアを熱気で包み、MCの掛け声でショーがスタート。ステージ中央ではBボーイとBガールによるバトルが繰り広げられ、その周囲をモデルがウォーキングするという異例の演出に戸惑いと興奮が入り混じった空気が流れた。
登場したのはレッドブル ビーシーワン オールスターズのシゲキックス(Shigekix)をはじめとする12人のトップダンサーたち。その圧倒的な身体表現やヒップホップの音楽に「ヨシオクボ」のコレクションが重なり、会場には高揚感と一体感が生まれた。
今季コレクションの着想源もまた、ダンサーの動きと身体表現にあった。動作に合わせて変化するシルエットやドレープを追求し、スポーツウエアの機能性を取り込むことで“ダンスのための服”を提示。静と動の切り替えをパターンに落とし込み、瞬間ごとに移ろう動きを造形的に表現している。
可動域を確保するためにマチを加えるなど構造面でも工夫を凝らし、実際のパフォーマンスに耐え得る機能性を実装した。また、トップレベルのダンサーに不可欠なスポンサー文化にも目を向け、ジャガードで編んだ多様なロゴをパッチワーク状に配し、靴にまであしらった。ストリートからユースカルチャーへ、さらにファッションへと変容していく現象をビジュアルとして具現化したものだ。
さらに、花柄や葉のモチーフ、レッドブルを象徴する牙のモチーフを手刺しゅうで施すことで、職人技と手仕事の温もりを加え、服に奥行きを与えた。“Melbourne”と刺繍したアイテムやロゴパッチワークのルックなど、一部は次のコレクションへの布石として先行公開とした。「これをやったら面白いのではないか」という発想が、細部に至るまでコレクションに宿る。
ショーで踊ったダンサーたちは全員今季のコレクションを着用。ただし帽子と靴は本人たちが普段使っているものを採用した。「シゲキックスさんから『頭で回る時に(帽子の頭頂部につく)ボタンを取る』と聞いて、それを活かすべきだと思った。靴も動きに影響があるので彼らがいつも使用しているものを使ってもらった」と説明する。異業種との交流によって生まれる気づきや発見が「ヨシオクボ」の服作りを進化させている。
久保デザイナーは元々スノーボードやストリートカルチャーに親しんできた。その延長線上にあるレッドブルやブレイキンダンスとのコラボレーションも自然な流れだったという。「異例の演出に対して違和感を覚える人もいたかもしれない。しかし、その違和感が新しい見せ方だと思っている」(久保デザイナー)。さらに、「同じ場所、同じコミュニティーの中だけでワイワイしていてはファッションは広がらない」と続ける。ブランドの枠を超えたファッション業界全体の拡張を目指す視座の高さが「ヨシオクボ」の挑戦を支えている。
「次は何か」。新しさや面白さへの追求を惜しまない久保デザイナーが作る想像し得ないレクションの連続に、自然と期待が高まる。