山近和也デザイナーによる「アンセルム(ANCELLM)」は9月1日、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week Tokyo以下、RFWT)」で2026年春夏コレクションを発表した。初のランウエイショーという記念すべき瞬間、会場の新宿住友ビル三角広場には、業界関係者やブランドのファンが600〜700人が集結。注目度の高さを感じさせた。ブランド立ち上げ4年目にして、新作アイテムを即完させることも少なくなく、すでに国内は約40件、海外は約20件の卸先を持つ。「RFWT」の初日ながら今季1番の“ダークホース”では?と思ったほどだ。
ブランドの大きな特徴は、劣化やほつれ、褪色といったダメージをクリーンでミニマルなウエアにデザインとして取り入れていること。コンセプトは“視点を変えた経年変化の提案”だ。山近デザイナーはデニムの産地として有名な岡山県出身で「従来、デニムに使用されていた加工技術を他の洋服にも流用することで、児島の技術がさらに広がっていくのではないかと考えた。加工自体を見せたいのではなく、加工によって生まれる表現の奥行きを伝えたい」。現在は同エリアにラボを構え、職人らと協力しながらモノ作りできる体制を整えている。
加工技術への飽くなき探究心
決して分かりやすい派手さのあるブランドではない。ほとんど全てのウエアに施したであろう加工は、至近距離で見てこそ面白さに気づけるもの。インスタレーションではなくショー形式にしたのは、世界に向けた発信を強化するため。「代わりに、客席とランウエイの距離を狭くして少しでもディテールを見やすくした」という。
“ボロ”なのにエレガント、エレガントゆえに“ボロ”——そう言える絶妙なバランスを保っている点が魅力だ。リネンジャケットの裾を断ち落として裾をさりげなくほつれさせ、ニットカーディガンは透かし編みのゲージ数をランダムに変えて一見穴が開いたように見える柄を作る。ハーフジップのプルオーバーは着込んでピリング(毛玉)が発生した風合いで、レザーのブルゾンはガラスコーティングをかけた上で洗ってうねりを再現。「レザーにやってはならないことを全部やってみたらどうなるか?という実験だった」と話し、飽くなき探究心をのぞかせた。一方で、アースカラーを基調にした肌なじみのいい落ち着いたカラーパレットや、アタリは再現しない程度に褪色加工したデニム、均一なうねに仕上げた正統派のコーデュロイなど、ただのグランジに終わらないように工夫を凝らす。
古着のレプリカブランドではなく、“ありそうでなかった新しいデザイン”として提案できている点も、人気の秘訣だろう。当初、メーンターゲットは30〜40代の男性だったそうだが、現在は20代男性のみならず女性からの支持も高まっている。顧客層の広がりを受けて、従来の2サイズから4サイズ展開に増やしたり、海外向けに裾の長さを長くしたりのアイテムもある。
まだまだ若いブランドだが、日本と海外の架け橋になる大きな可能性を秘めている。ランウエイショーの現場にいた多くの人がそう思ったはずだ。