旅の質が重視される今、気分や価値観に添い、心から満足できるホテルが求められている。お茶をテーマにした新橋の「ホテル1899東京」が提案するスリープツーリズムなる発想もその一例。1泊2日の滞在で質のいい睡眠について考え、追及するプランで、お茶の持つ力を五感で味わいながら、快適な睡眠環境に身を置き、作戦を練る「睡眠合宿」を実際に体験してきた。
お茶のカルチャーを学び
上質な睡眠を体感する旅を提案
本日の滞在先は都心の新橋。目的はお茶と睡眠だ。「ホテル1899東京」が快適な睡眠環境に身を置き、睡眠の質を高める滞在を目的としたスリープツーリズムなる「お茶と眠りのご自愛ステイ―1899 SLEEP JOURNEY―」というプランを展開。いったいどのような滞在ができるのか、実際に試泊してみた。
ホテルが新橋駅から徒歩約10分。御成門駅からは約6分というオフィス街だ。私が宿泊したのは日曜日だったので、街も静か。こんなに都心なのに小さな公園が点在するなど、緑が多い環境なのにも驚く。
1階に日本茶カフェ「チャヤ1899東京」があり、2階がフロントと宿泊者専用のティーカウンター。11月30日まで宿泊できる「お茶と眠りのご自愛ステイ―1899 SLEEP JOURNEY―」プランでは、最上級の睡眠を実現するためのさまざまなサービスが提供されるそう。わくわく。一人でゆったりと滞在し、自分自身と向き合えるように、1室2名以外に1室1名利用の設定もあり、1泊3万2000円(税込み)から。なんだか「睡眠合宿」といった感覚で、気分が高まる。よし、徹底的に寝まくるぞ~~!
チェックイン後はフロントデスクに隣接したティーカウンターで「わたしの睡眠作戦会議」なるジャーナリングに挑戦。ティーカウンターはフロントデスクと一体化しており、チェックインを担当してくれたスタッフがそのまま日本茶のプロ「茶バリエ」としてお茶を淹れてくれる。なんと滞在中、宿泊者は気軽に立ち寄れ、きんと冷えた煎茶や丁寧に点てた抹茶、季節のお茶など、何種でもいただけるのだとか(しかも無料! 朝は8~10時は抹茶のみ、午後3~10時オープン)。
お茶を味わいながら、現状の睡眠状況を振り返り、どんな未来が理想なのかを考えながら、シートに書き記す。茶バリエはそれを共有しながら、改善策を共に考えたり、就寝前にリラックスタイムに適したお茶などをアドバイスしてくれたりする。文としてつづってみる「ジャーナリング」により、考えがまとまって、なんとなくすっきりするから不思議だ。
部屋でくつろぐときもお茶三昧
お茶の香りや風味に癒され、眠る
部屋の中でもお茶を五感で味わうための工夫が満載!まずはベッドサイドのライトが茶せん型という遊び心も楽しい。部屋そのものはコンパクトだが、空間を賢く生かしているので、洗面の横に茶器がまとめて収納されて、カウンターの延長がデスクとなって作業しやすく、室内でこもるのもなかなか快適だ。このプランでは部屋でお茶の香りで癒されるよう、茶香炉も部屋に一台用意されている。茎茶の香りがふわっと香ばしく、呼吸が整うよう。香りによるセルフケアにより、睡眠導入にも速やかに。お茶のパワーを感じる。
部屋にはスタッフがセレクトした本も用意してある。お茶を味わいながら、眺める星空の写真集や絵本など数冊が並び、ゆったりとした時間を過ごす。これはスマホやPCなどのブルーライトを避け、読書を楽しむことで、日ごろ酷使している目を休め、ストレスを和らげるという目的も。就寝前の30分~1時間前は特にスマホの刺激を回避し、読書で気持ちをゆるめることで、睡眠の質を高めるのだとか。せっかくなので試してみよう。
お茶は江戸番茶や狭山火入れなどの4種。茶器も厳選した急須など上質なもの。これがうれしい。せっかくのお茶も器があじけないと残念だもの。寝る前にはこのお茶を、目覚めはこれがすっきりしそう、とあれこれ考えるのも楽しい。しかも50度~60、80、95、100度まで細やかな温度設定ができるデロンギの高性能なポットが備えられ、本格的なお茶時間を滞在中はいつでも楽しめる。
入浴や枕、ナイトウエアなど
総合的に質の良い眠りを極める
このプランでは「ひつじのいらない枕―調律―」が部屋に準備され、高さを調節しながら最適な高さを試せる体験も。そのほかにもそば殻枕や低反発枕など硬さや感触が違う枕をレンタルし、比べてみることができる。私はそば殻と羽毛とパイプが入ったタイプを借りることにした。うん、たしかに感触によって好みが分かれそうだ。
バスタイムもお茶がテーマ。緑と香りがさわやかなお茶の入浴剤で、心とからだをほぐす。緑茶成分入りのシャワージェルやボディーローションもふわっと甘い香りが立ち、気持ちも和らぐ。ちなみに睡眠の90分ほど前に入浴すると、一時的に上昇した深部体温(皮膚温ではなく体の内部の温度)がゆるやかに下がり、自然な眠気が訪れるそう。就寝1時間半前にも入浴してみることにした。
軽いウォーキングも睡眠にはいい。エクササイズを兼ね、この辺りを散策してみよう。日曜の午後はオフィス街も静かで、ちょっと街を貸し切った気分(笑)。そんな中、「タミヤプラモデルファクトリー新橋店」はインバウンド客でにぎわっていたり、老舗の佃煮屋さんがおにぎりを販売していたり、名店が多そうな予感。歩くと、ビルの間から大木がのぞいたり、意外と緑にも恵まれていることに気づく。
すべては睡眠のため! 胃腸に負担をかけたくないので、今宵は休肝日。人気寿司屋による立ち食い海鮮丼のお店「みこ食堂」で雲丹いくら丼(1900円)をオーダー。出汁のきいたお椀、みこ汁が飲み放題など、うれしいサービスも。すこしでも長く部屋でゆったりくつろぎたかったので、さくっと立ち食い飯で正解だった。
オリジナルのナイトウエアにも茶葉の刺しゅうが。とにかく一貫してお茶がテーマなのが潔い。今回はお茶の力をかりる「睡眠合宿」なのだから・・・!
お茶のパワーで目覚めも爽快に
朝ごはんのお茶メニューも秀逸
2度目のバスタイムを満喫した後は、いつもより早めに就寝。眠りはいつも以上に深かったと思う。翌日は日の出と同時にすっきり目覚め、7時半には2階のティーカウンターへ。お茶と眠りのご自愛ステイのプランでは、茶バリエによるお抹茶体験「ご褒美の一服」を予約不要で参加できるのだ。これは初心者でも学べる約30分のレクチャー。心を整え、茶せんを手にしてお抹茶を点ててみる。お湯を入れるタイミング、茶せんの持ち方や点てるコツなどを一通り教えてもらうのだが、お手本と比べるとそのできは一目瞭然(笑)。それでも自分で点てたという達成感があり、自宅でもお抹茶タイムを取り入れてみようかな、なんて思う。実際、ショップで販売しているお点前セットを購入し、自宅で実践するゲストも多いのだそう。
朝ごはんは食材としてのお茶をとりいれたヘルシーメニュー。ビュッフェスタイルで茶めしや緑茶のパンをもあり、和食でも洋食でも好きな盛り付けが楽しめる。新鮮野菜には緑が鮮やかなお茶ドレッシングを。グリルチキンに碾茶塩を振るなど定番メニューにすこしひねりを効かせた品ぞろえ。お茶はレモングラス風味の「和み」、ゆずが爽やかな「清らか」、しょうがの効果を感じる「ぽかぽか」など8種類以上のオリジナルブレンドから選べる。
質のいい睡眠とヘルシーな朝食でチャージしたあとは、健やかな1日を過ごせそう! このスリープツーリズムはその日だけの楽しみではなく、睡眠に対する考え方を変えるきっかけをくれる。こんな快眠を日常でも継続できるように、お茶を取り入れつつライフスタイルを見つめ直そうと決心したのだった。夏の終わりの「睡眠合宿」、意識改革におすすめです。