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衣料品の売り上げ比率3割超 中川政七商店が拓く繊維産地との共創モデル

ものづくりを日本で続けたいアパレルメーカーにとって中川政七商店の衣料品事業から学ぶことは少なくない。同社は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを衣料品事業にも応用し、産地メーカーとの共創を目指す。同社が衣料品事業を本格化したのは2010年の新ブランド「中川政七商店」立ち上げ時。現在は売上高92億3000万円(2025年2月期)の3割以上を衣料品が占めるまでに成長した。「産地メーカーにとっても利益が出るビジネス構造に成長した」と語る中野鉄也商品部部長に戦略を聞く。

中川政七商店は「産地ではぐくまれる素材、作り手の技術や知恵を次代につなぎ、ものに込められた想いや姿勢を受け継ぎたい」という思いを起点にものづくりに取り組む。この思想のもとで生まれたもんぺパンツや割烹着は同社を代表する商品だ。「暮らしと工芸は密であり、“暮らしの道具”として気軽で着心地の良さをかなえる日本の素材を用いて、いずれも日本の伝統衣服を現代風にアップデートした」と中野部長は語る。割烹着は洋服にもなじみやすいシャツのパターンと張りのある綿の生地を採用し、袖は昔ながらの直線断ちのパターンで作業のしやすさを追求した。もんぺパンツは「通常一枚仕立てが一般的だが、裏地には吸湿性と放湿性の優れた和晒を使用し着心地を追求した」。

中川政七商店は、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを実現する組織として活動する。中期目標を「工芸大国に向けた需要創出」とし、2035年には売上高200億円、45年には売上高300億円を目指す。長期目標を「工芸復活」とし、75年には産地出荷額を現在の約3倍の3000億円を、同社の売上高は750億円を目指す。

衣料品事業を拡大するにあたり、同社のルーツである麻を活用した商品開発に力を入れる。「麻は夏素材と思われがちだが、四季折々に合った麻の提案をするために日本のメーカーと素材開発をはじめた。例えば山形のメーカーとは麻とウールのニットを、愛媛や広島のメーカーとは和紙と麻のブラウスをつくった。この取り組みによってさまざまなメーカーや産地とのつながりも増えていった。こうした産地とのものづくりが深まる中で、産地の若手人材の不足に直面した。ものづくりを明るく、楽しく、伝えることで若者に刺さるコンテンツを作りつつ、メーカーの強みを引き出すものづくりで定番布を創出するなど、産地やメーカーの成長のきかっけをつくっていきたい」。日本の各産地の織物や編み物の特徴を気軽に楽しめるTシャツ「日本の布ぬの」シリーズは年間5000万円を売るまでに成長した。

テキスタイルメーカーの強みから始まるものづくり

「『中川政七商店』のものづくりの特徴は、日本の産地メーカーの強みを起点に素材の心地よさを追求する点だ。一般的なアパレルメーカーはトレンドリサーチやペルソナ・マーケットリサーチからものづくりを始めるが、当社はメーカーの背景や技術などを理解したうえで、どうアップデートするかを考える。商品力を高めるだけでなくメーカーにとっても新しいチャレンジや成長のきっかけになることを目指している。一緒にものづくりに取り組み共に成長しているという感覚がある」と中野部長。

例えば「更麻」はインナーブランド開発にあたり、中川政七商店らしさについて追及した結果生まれた。和歌山のオカザキニットと協働して約2年かけて発売にこぎ着けた。価格は1万円前後と高額ながらリピーターが多く今では年間1億円を売り上げる。「大手量販店の機能性インナーにはかなわないし、着心地や快適さを追求して天然素材にこだわろうと考えた。天然素材のインナーの主流はオーガニックコットンだが、たくさん商品が出回る中でそれを作る必要があるかなどを検討し、調べていくと、かつて当社は麻製の汗取りをつくっていることがわかり、インナーと当社の共通点は麻であることがわかった。当社にしかできないことは麻のインナーを突き詰めることであり、その挑戦に付き合ってくれたのがオカザキニットだ。リネンにシルクプロテインを浸透させる加工を施すことで肌触りがやわらかいリネンフライスを実現した。素材を開発でき、いざ発売となったが量産するにあたり、編み始めると麻の糸が切れ思うように編めなくなった。麻は湿度の影響を受けやすく、開発した風合いのある生地は湿度が高い時期しか編めないことがわかり、発売を1年延期することになった」。試行錯誤の結果、メーカーの知見や技術と素材のサイクルが重なり、中川政七商店を代表する商品のひとつになった。

現在のSKU(在庫管理における最小の管理単位)は520。「『工芸を元気にする』ことを重視しているので、衣料品が好調でも急拡大を狙わず、衣食住のバランスを意識している。新製品を次々と入れ替えるのではなく、できるだけ長く深く売ることを意識している。商売としても、取引先のメーカーにとってもメリットが出る方法で成長することを意識している」と中野部長は語る。製品の多くは生地から開発し、1アイテムだけではなく横展開し季節を超えて活用しているという。「今は1アイテムで年間7000万円売れる製品もある。効率性や継続性がない多品種小ロットのものづくりサイクルはメーカーを苦しめてしまうので、そうではなく、ひとつの素材を長く作り続ける商品開発を目指している。一方で、現状でできることをするだけでなく、メーカーにとって技術革新も必要だと考えている。『更麻』のように一緒にチャレンジすることが日本のものづくりを拡げることに繋がるのではないか。こうした取り組みは、『中川政七商店」の商品を作るという観点だけでなく、メーカーにとっても代表商品・技術・素材となるはず。それを目指している』。

中川政七商店らしさとは「奈良であること」

中川政七商店として衣料品づくりに取り組むときに大切にしていることのひとつは「らしさ」だ。「らしさとは何かをデザインチームでも頻繁に話題になっており、社内で議論を重ね、『奈良であること』をらしさの本質として言語化した。『奈良であること』とはキーワードにすると『太さ』『天然』『潔さ』『清らかさ』『愛らしさ』『精緻』。例えば『太さ』は、質素で力強さがあることを指し、京都が華やさや繊細さを持つとしたら奈良は素朴で飾らない太さがあると考えている。抽象的な概念ではあるが、デザイン時に行き詰まらないようあえて余白を残している」。この指標をもとに、奈良を拠点に奈良で育まれた価値観や美意識の表現に取り組んでいるという。

中川政七商店の展望のひとつが「麻畑の復活」だ。「奈良で『手績み手織り麻』の復興を検討しており、近い将来、苧麻の栽培から製品化まで一貫生産を目指している。単なる伝統的な素材の再興ではなく、なぜ、麻を復活させるのかという思想や文化を深堀することで、麻畑を起点に学びや文化継承など複合的な価値を提供するものにしたい」。

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