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買収された「シュプリーム」は今後どうなる? 業界関係者やアナリストが語る

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 「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」「ヴァンズ(VANS)」「ティンバーランド(TIMBERLAND)」などを擁するVFコーポレーション(VF CORPORATION以下、VFC)が、シュプリーム(SUPREME)を21億ドル(約2184億円)で買収して大きな話題となっている。大企業の傘下に入る「シュプリーム」は今後どうなっていくのか、業界関係者やアナリストの意見を紹介する。

アナリストは「双方にプラスがある取引」と分析

 米証券ウェルズ ファーゴ(WELLS FARGO)のアイク・ボルーチョウ(Ike Boruchow)=マネジング・ディレクター兼シニア・リテール・アナリストは、「VFCは何年も前からアクティブウエアやライフスタイル事業、そしてD2C事業に注力したいと言っていた。これらは利益率が高く、グローバル展開も容易な分野だからだ。『シュプリーム』の買収は、こうした要件を全て満たしている。VFCは北米以外に事業を展開していくことにもたけているので、『シュプリーム』にとってもいい取引だと思う。一方で、ストリートウエアは終わったとする意見もあり、今後どうなっていくかを注視する必要がある」と語った。

 同氏はまた、買収に当たって「シュプリーム」の企業価値がEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の15倍弱程度で算定されたことについて「妥当だと思う」とし、「VFCのブランドポートフォリオにぴったり合う取引だ」とコメントした。

 米投資銀行コーウェン・アンド・カンパニー(COWEN AND COMPANY)のジョン・カーナン(John Kernan)小売り・消費財担当マネジング・ディレクターは、「買収額は妥当であり、両者にとっていい取引だった。およそ500億ドル(約5兆2500億円)ともいわれるストリートウエア市場で『シュプリーム』はまだ小規模なブランドであり、今後も成長の余地がある」と述べた。

希少性と事業拡大のバランスが問題

 一方で、“クールなブランド”として熱狂的な人気を保ったまま成長していくのは難しく、微妙なかじ取りが必要となる。「シュプリーム」はすでに予想よりも長くそうした地位にあり、今後はその勢いを維持できないと見る向きも多い。

 ストリートウエアブランド「メッカ(MECCA)」や「エニーチェ(ENYCE)」の共同創業者であるトニー・シェルマン(Tony Shellman)は、「事業にバリューをもたらすブランドを買収できたという意味で、VFCにとっていい取引だったと思う。また『シュプリーム』にとっても、多くの小売店や製造会社にコネクションを持つVFCの傘下に入ることでさらに成長できるだろう。ジェームス・ジェビア(James Jebbia)創業者が『シュプリーム』に残ったという点が大きく、これから数年は大丈夫だろう。しかしその後はブランドが大衆化する恐れもあるのではないか」と分析した。

 ベルリンを拠点とするストリートウェブメディア「ハイスノバイエティ(HIGHSNOBIETY)」のクリストファー・モレンシー(Christopher Morency)=エディトリアル・ディレクターは、「『シュプリーム』は2017年に株式の51%を投資ファンドのカーライル・グループ(CARLYLE GROUP)に売却したものの、基本的には独立したブランドとして運営されてきた。今後はそういうわけにはいかないだろう。同ブランドは地理的には主にアジアで、部門的にはフットウエアやホーム用品、トイ類などでさらに事業を拡大できると思う。VFCはこうした分野でも経験豊富なのでいいのではないか。『シュプリーム』は“商業的になって終わった”と評されることも多いが、そう言われながら10年以上も人気を保っている。問題は、希少性がなくなっても人気を維持できるかどうかだ。VFCは『シュプリーム』が売上高にして10億ドル(約1040億円)規模に成長できると見込んでいるようだが、同ブランドはすでに90%以上のセルスルー率(小売りの実売率)となっている。希少性が薄れ、感度の高い層が離れたときにどうなるかに注目したい」と述べた。

 ストリートファッション&カルチャーのオンラインメディア「ハイプビースト(HYPEBEAST)」のアービー・リー(Arby Li)編集長兼戦略部門バイス・プレジデントは、「『シュプリーム』は信念を持って運営されているブランドなので、買収後も大きく変わることはないだろう。これまでもさまざまなブランドとコラボレーションをしてきているし、VFCのプラットフォームを活用してさらに画期的なアイテムを発表してほしいと思う。新素材の開発や新たなコラボなどにより、消費者にとっていっそう素晴らしいプロダクトが生まれることを期待している」と話した。

 ブランディングおよびブランド運営会社リード・アート・デパートメント(REED ART DEPARTMENT)のジェフ・ステープル(Jeff Staple)創業者は、「今回の買収は『シュプリーム』の経営陣にとってはいいことだが、コレクターやファンにとってどうなるかは未知数だ。VFCの強力な販売網や物流によってブランドが大きく成長できることは間違いないが、希少性は失われる。自分の両親や祖父母まで『シュプリーム』を着るようになったら、ファンの熱が冷めることは避けられないだろう。とはいえ、VFCはブランド育成にたけた企業なのでうまくバランスを取っていけるかもしれない」と解説した。

 ブランド運営およびライセンス事業を手掛けるザ・ファウンデーション(THE FOUNDATION)のドレ・ヘイズ(Dre Hayes)共同創業者は、「VFCは以前からユースカルチャーやライフスタイル分野のブランドを運営しているが、ついにストリートカルチャーの雄ともいえるブランドを手に入れた。しかしこれが『シュプリーム』にとってプラスなのかどうかは、後になってみないと分からない。VFCは投資分を回収しなければならないので、『シュプリーム』を大きく成長させていくだろう。また一般論として、大企業は“カルチャー”にあまり関心がないし、株主からの圧力もある。さまざまなことを考えると、VFCが『シュプリーム』に対して長期的に干渉せず自由に運営させるとは思えないが、私の予想が外れることを願っている」と語った。

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