三越伊勢丹HDの社長“解任”の真意を問う 花崎前ルミネ会長が“公開質問状”

インタビュー

2017/3/30 (THU) 12:00

 三越伊勢丹ホールディングスの大西洋・社長が、明日3月31日を最後に社長職から離れる。これに疑問を呈するのが前ルミネ会長の花崎淑夫氏だ。花崎氏いわく、「表向きは“辞任”となっているが、実質的には“解任”だ。だが、どれも社長を辞めさせる理由にはあたらない。このご時世でプレッシャーのない現場はないし、トップを支えてコミュニケーションや経営施策の執行を行うのは他の取締役や執行役員たちの役目でもある。日本の流通業、中でも人々の心を感動させるべき百貨店として、恥ずべきものだ。三越伊勢丹に真意を問いたい」――。

 こう公言するには、理由がある。労務問題のプロフェッショナルであることと、自らの三越伊勢丹HDとの関係性によるものだ。花崎氏はJR東日本で常務を務めた後、2001年に子会社のルミネの社長に就き、ショップスタッフの地位向上やブランド・企業の在り方について問題を提起し、改善を促し続けてきたことはよく知られている。しかも、国鉄から民営化したばかりのJR東日本で、総務部長として過激派・革マル派なども入り混じった労働組合とも渡り合ったり、株式上場の責任者を務めるなど、労使問題や情報公開、企業統治(ガバナンス)について豊富な経験を持つ。三越伊勢丹のトップ交代について花崎氏は強く異議を唱える。花崎氏の主張を聞いてみた。

花崎淑夫氏の話

 一連の騒動について、3月6日付の「日経新聞」に出た大西洋・社長辞任のリーク記事や、13日の杉江俊彦・次期社長の会見記事やニュース、その後の報道などを見聞きしてきました。労働組合からの突き上げが原因とか、怪文書の存在も取りざたされていましたが、今のような、し烈どころか激烈なマーケット環境下で社員にプレッシャーがかかるのは当然のこと。日々の業務に加え、会社の将来のために改革を進めるのは当たり前のことで、社長を辞めさせる理由にはなりません。それが理由で社長が辞めさせられるなら、たいていの会社の社長が辞めなければならないでしょう。

 そもそも、3月7日の取締役会で機関決定する前にリークして、大西社長の辞任だけが先行して株式市場に一番近い「日経新聞」に出るなんて、一番やってはいけないこと。IR上、許されることではありません。どこから、どういう経緯で出たのかは、会社としてもきちんと調査すべきでしょう。

 怪文書のことも取りざたされましたが、これを真に受けるのもナンセンスです。氏名を明らかにし、出処進退をかけて提出されたものに関しては真摯に検討すべきですが、そうでない有象無象のものを議論のテーブルにあげているというなら、お里が知れるというものでしょう。そもそも、労働組合は組合員の人事や労働条件については交渉や要求はできますが、経営や、ましてや社長交代に対して口出しをする権利はありません。しかも、今回は不道徳な問題を起こしたとか不明朗な経費濫用といった不祥事にも該当しません。私はJR東日本時代、最左派も含めて、日本の反体制的な十党十派を全部抱えて、数々の労組と渡り合い、乗り越えてきました。それでも、今回ほど理不尽なことはないと感じています。

 「2018年度の営業利益500億円達成が2年間後ろ倒しになった責任を取った」との理由が後から伝えられましたが、確かに減収になっていても赤字が続いたわけでもありませんし、“解任”につながるほどのものではありません。大西さんが陣頭指揮を執って構造改革に取り組んでこられましたが、これは短期間でできるものではありません。しかも、経営企画を実行させるのは取締役や執行役員全員の職務であり、企画を作るだけで、あとは大西社長一人の責任、なんてことはあり得ません。取締役、執行役員は全員、落第、失格だと思います。

 今回の件では、指名報酬委員会のメンバーでもある社外役員も同意したということですが、では、自分の会社はどうなんですか?そんなに経営がうまくいっているんですか?と聞きたい。これで社長を辞めさせられるなら、どんな経営者も持ちません。こんなことを百貨店のトップ企業がやっているようでは、「日本の流通業界、百貨店業界というのはこの程度のものか」と、他の業界や海外から笑われるレベルです。ファッション業界に期待するアナリストや投資家もいなくなってしまうのではないでしょうか。

 構造改革については、百貨店の一つの方向として、大丸松坂屋のように、一部にユニクロやニトリ、ファストファッションまで専門店を導入してSC化したり、不動産を活用することは一つの方向性です。それが、本当に求められる百貨店の価値を提供するために必要ならすればいい。そこに加えて、自らモノを作っていくこともあるべき方向だと思います。アパレルが疲弊している今、そこに頼りきることはできません。2~3割程度は自分で作らないと地方店を中心に商品調達もままなりませんし、同質化からも脱却できません。ただし、これには時間がかかる。人作りや在庫などの投資やリスクも伴う。専門の大手アパレルでさえうまくいっていないのだから、そうそううまくいくわけはありません。それでも、覚悟を持ってやらなければならないものなのです。

 多角化の部分に関しても、ライフスタイルが多様化する中で、衣食住遊知美健癒などを追求していかなければ人の心に響く事業はできません。すぐに経営に、収益に寄与しないからといって、なんら非難されることではありません。生みの苦しみはいつでもどこにでもあります。

 私がこういうことを申すのは、伊勢丹との因縁によるものでもあります。80年代後半、小菅国安・社長時代、マイシティ(現ルミネエスト)がセゾングループの堤清二さんに乗っ取られたことがありました。小菅社長や髙島屋の日高啓・社長、丸正のオーナーで後にマイシティの社長を務められた飯塚正司・社長なども巻き込み、JR系役員を解任されたんです。詐欺師まがいのことをされました。その危機の際、小菅社長、日高社長、飯塚社長には「何が大義か」を理解していただき、マイシティを取り戻し、JR東日本グループ化を実現することができました。

 その恩返しとして、秀和に買い占められた伊勢丹株の買い戻しに協力しました。ルミネと他JR系1社で数十万株・計6億円分の株を保有することを決め、買い戻し計画全般にJR東日本として信用補完をしたんです。これは、歴代社長の小柴和正さん、武藤信一さんにもお話をしてきています。故・武藤前社長とは、毎月のように意見交換をしてきました。

 三越との合併には、私は反対でした。救済型の経営統合でしたが、勢力争いで力をそがれて、伊勢丹の良さがなくなってしまうと懸念していたのです。それを聞いた武藤さんは、「三越は何かと日比翁助さんの著書『商賣繁昌の秘訣』の話を持ち出してくる。でも、まさに自分たちが目指していることと同じことが書かれている。これを基本に商売をしてきた三越となら合併しても大丈夫だと思った」と話され、翌日、伊勢丹専務を通じてルミネ本社まで本を届けてくださったほどです。後に、「読んで理解している人はそれほどいなかった」と苦笑されていましたし、今回もこんなことになってしまったのはとても残念です。

 そんな武藤さんから紹介され、骨のある人物だからよろしくと頼まれたのが、大西さんでした。交流を図り、時には駆り出されて部長以上の約80人の前で講演し、「変革、さもなければ死」「現場の意識改革が必須」「お客さまからも株主からも一番遠い、会社の真ん中が活性化しなければ会社が悪くなる」と伝えました。いただいた感想文には、「日頃、大西社長が言っていることと同じだった」「大西社長の改革の方向性を深く理解する手助けになった」ということが多く書かれていました。プロジェクトのリーダーや執行役員と会食で同席することもありましたが、大西さんがコミュニケーション不足だったというのはにわかには信じられません。

 企業統治(コーポレートガバナンス)の専門家で、スイスのローザンヌ大学MBAでも教鞭を執る、一條和生・一橋大学院国際企業戦略研究科長も、「人を斬って事態を解決しようとするこの実態は致命的なもの。大西さんのこんな辞めさせられ方は“百貨店の終わりを告げるフィナーレ”かもしれません。改革を応援せず、うまくいかないと辞めさせることでは改革は永遠に起こりません」と話されていました。

 こんなことがまかり通るなら、心ある人が会社経営をすることはできなくなってしまいます。小売業にとって、箱(店)には価値はありません。価値があるのは人であり、人がいなければお客さまの感動は生めません。特にラグジュアリーを扱う百貨店は、最も人の心を動かし感動を与えるべき業態ですし、これからはますます心の時代になってきます。一連の“解任”騒動に対して、私は公開質問状のつもりでこの話をしています。草葉の陰で武藤さんも「ありがとう」と言ってくれていると信じていますし、回答を墓前で報告したいと思っています。

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