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「オフ-ホワイト」の2020年春夏メンズのショーに疑問の声多数 当日のリアルな舞台裏をレポート

 ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)は、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH以下、オフ-ホワイト)」2020年春夏メンズ・コレクションのショー会場にパリ北マレ地区にある文化センター、ル・カロー・デュ・テンプル(Le Carreau du Temple)を選んだ。セレブリティーやインフルエンサーが集結するショーとあって、会場外は大勢のストリートフォトグラファーや来場で混雑し、彼が現代を代表するデザイナーの一人であることを物語る光景だった。

村上隆らも来場、「オフ-ホワイト」2020年春夏来場者はストリートブーム終息の声を一蹴する強者ばかり

 ショーは午前11時スタート予定だったため、コールタイムは午前6時。46人のモデルたちは眠い目をこすりながら、ヘアスタイリストとメイクアップアーティストに身を任せる。会場には本物のカーネーション畑が設営され、スタッフがカーネーションを一本ずつ植えていく作業が本番ギリギリまで続いた。開場するころには、会場内には鳥のさえずりや風の音が流れ、自然の中にいるような穏やかな空気に包まれた。しかし、筆者がショーを待っている間に感じたのは生花の香りではなく、マリファナの臭いだった。入り口付近の座席で吸っていた十数名の中心にいたのは、フランスのラップデュオPNLの兄弟。ヴァージルは彼らのミュージックビデオ用の衣装として、カスタムジャケットを製作したことがある。2人はショーの最中もフロントローで堂々とマリファナを吸っていた。ファッションに対して敬意が感じられる態度ではなかったが、もしかしたらこれも現代を代表するデザイナーのショーならではの光景なのかもしれない。数十分間のマリファナの副流煙のせいか、筆者は少しぼーっとしながらもショーに集中するよう努めた。

 “プラスティック”をテーマに掲げた20年春夏コレクションは、アメリカ出身のグラフィティーアーティスト、フューチュラ(Futura)とのコラボレーション作品が要となる。PVC素材のコートやポンチョ、ウインドブレーカーにはスプレーで描かれたグラフィティーが彩る。“Off-White climbing club”というパッチが付いた登山ウエアのようにスポーティーなルックも多かった。シームが一カ所のみのハンドニットのセーターや、手縫いの刺しゅうでフューチュラのグラフィティーを描いたブランケットなど、クラフト感のあるアイテムも登場した。ラグジュアリーな印象を発信するためか、最近のショーでは終盤にレッドカーペットを飾るクチュールのようなドレスを登場させるのが定番になりつつある。しかしショールームで見た現物のドレスは裁縫や裁断の甘さが目立っていたため、ここはクチュール“っぽい”と言っておこう。

 BGMはリアム・ロジャーズ(Liam Rogers)の「ブロッサム(Blossom)」からマッドヴィリアン(Madvillain)の「ミート・グラインダー(Meat Grinder)」へと変わり、フィナーレにはビートルズ(The Beatles)の「ブラックバード(Blackbird)」が流れた。モデルが花を踏みにじってウォーキングするフィナーレの演出には、多数のメディアでジャーナリストが「理解不能」と記していた。後味が悪かったせいか、コレクションに対しても厳しい声が聞かれた。仏新聞「ル モンド(LE MONADE)」のカリーヌ・ビザー(Carine Bizet)は「1990年代にヒップホップから生まれた本物のストリートウエアのファンは、今季の『オフ-ホワイト』のコレクションには満足しないだろう。ヴァージルの勢いは衰えている。それに、PNLがマリファナでハイになっている姿は、ショーの演出の足を引っ張っていた」とコメントした。パリのコンセプトストア「トム グレイハウンド(TOM GREYHOUND)」のバイヤー、エカテリーナ・グラズノヴァ(Ekaterina Glazunova)は「カーネション畑やスーパーモデルの登場など、方式に沿ったコマーシャルな演出は見られたが、マジックのような感動を得られることはなかった。アイテムは売れると思うが、グラフィックが変わっただけ。毎シーズン同じ内容に見える」と語った。

 フューチュラのペイントが多く残るニューヨークの南マンハッタンと、美しいカーネーション畑がパリの街中で交差する空間演出はヴァージルらしい新鮮なアイデアだったが、コレクションは想像に容易い新鮮さに欠ける内容だった。ヴァージルは紛れもなく影響力のあるクリエイターだが、ファッションの分野においてはデザイナー“っぽい”作品しか見当たらない。もしかしたら筆者が、副流煙の影響で洋服をしっかりと見られていなかっただけかもしれないが。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける