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有力バイヤーに聞く “ポスト・フィービー”は誰? アデライデ編

 フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)が「セリーヌ(CELINE)」を去り、“フィービーロス”現象が起きている。フィービーはメンズウエアをベースに、実用性と女性らしさを兼ね備えた洋服を提案し、多くの大人の女性と、時には男性たちの心を捉えてこれまでになかった市場を開拓した。オーバーサイズでしなやかさも備えるその服は、新しいテキスタイルや加工技術に加えて色の選び方も独特で、まさにフィービーのセンスの良さが凝縮されたものだった。上質で奇をてらわないがコンサバではないモダンな服――この“フィービー市場”をカバーできるブランドはあるのか。自身も大のフィービーファンで「セリーヌ」を着こなす東京・南青山のセレクトショップ、アデライデの名物バイヤー、長谷川眞美子エグゼクティブ・ディレクターに話を聞いた。

「セリーヌ」デザインチームが流れた?「バレンシアガ」に期待

 「フィービーは、マニアックさとエッジィさといった両極のモチーフを美的センスをもってミックスできるデザイナー。それは彼女自身が『バレンシアガ(BALENCIAGA)』や『メゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA、現、メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA))』を着こなしてきた経験もあるし、また、ロンドンにいながらニューヨークなどのコンテンポラリーアートにも興味を持っていたことも彼女のセンスを作り上げたような気がする。その言葉にできない感覚を、彼女と共に働いて継承している人の活躍を期待している」と長谷川エグゼクティブ・ディレクターは語る。

 フィービー時代の「セリーヌ」デザインチームからデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)率いる「バレンシアガ」に人が流れたという噂がある。「『バレンシアガ』はこれまで以上にハイエンドになる可能性がある。デムナのコンセプトは変わらず、(新しく入ったデザイナーの)センスが生きれば面白くなるのでは?」と期待を寄せる。

大本命は「ジル・サンダー」?

 「マーケットはまさしく『ジル・サンダー(JIL SANDER)』に注目していて、それは誰が見ても明らか。服自体はコンセプチュアルでも、さまざまな要素をそぎ落としているからシンプルでミニマル。素材やディテールの美しさを引き立てるデザインアプローチがある。ただ、『ジル・サンダー』は(良くも悪くも洋服の)ブランドイメージが強いため、『ジル・サンダー』にしか見えない。ブランドの核となるその部分を継承しつつ、何かを少し変えると大きく変わる可能性があるような気がするし、そこに期待している」。

“フィービー・チルドレン”の中で注目は?

 「フィービーの下でその影響を受け、独立してブランドを立ち上げた“フィービー・チルドレン”にも期待している。今はまだ規模が小さくても、フィービーの下で経験している人の方が大きく化ける可能性がある」と長谷川エグゼクティブ・ディレクター。

 アデライデで2018年春夏から取り扱う「ロック(ROKH)」のロック・ファン(Rok Hwang)はフィービーのアシスタントデザイナーを務め、その後、フリーランスで「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「クロエ(CHLOE)」を手掛けた経験がある。「今、『ロック』とは何か?を作る段階だから、マルチレーヤードのルックなどビジュアルインパクトを狙い過ぎる部分があり、やや粗削りだと感じる。ただ、30代くらいの市場に対しては、アイデアやビジュアルがいい。もう少しラグジュアリーな生地を使うと、“フィービーロス”の層にウケるのでは?と思う。もう少しディテールをそぎ落としてもいいのかも。すでに一流のお客さんがついているから、そういう人から学んでいくのではないかと思う」。

 同じく19年春夏からアデライデで取り扱う「ピーター ドゥ(PETER DO)」のピーター・ドゥ(Peter Do)も「セリーヌ」出身だ。ドゥは14年の「LVMHグラジュエーツ プライズ(LVMH Graduates Prize)」で優勝した後、拠点をパリに移してフィービー率いる「セリーヌ」で2年間経験を積んだ。その後ニューヨークに戻り「デレク ラム(DEREK LAM)」で1年半すごし、19年春夏シーズンに自身の名を冠したブランド「ピーター ドゥ」を立ち上げた。

 「『セリーヌ』のアトリエにいたクチュリエに縫ってもらっていて、見せかけではなく、いい生地を用いて縫製も美しい。ただし、資金は潤沢ではないからあまりたくさん量が作れないが、最初から“フィービー市場”を狙っている点がいい。腕に自信があるのかなと感じる」。

 アデライデで18年春夏から取り扱うハン・ラー(Hung La)とレア・ディックリー(Lea Dickely)が手掛ける「カイダン エディションズ(KWAIDAN EDITIONS)」も注目だ。ラーは、「バレンシアガ」と「セリーヌ」のアトリエでウィメンズ・デザイナーとして活躍した。ディックリーはプリントのスペシャリストとして「リック オウエンス(RICK OWENS)」「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」などで経験を積んだ。

 ブランド名のカイダンは日本の“怪談”から。1964年に放映された小林正樹による同名のオカルト映画から取ったもので、怪奇話における不気味さや幽霊などを再解釈しているという。「かなりコンセプチュアルで、海外ではアートワークやそのコンセプトがウケている。フィービーの『セリーヌ』もコンセプチュアルと感じることが多かったが、この市場はコンセプトの強さが鍵になるのではないかとも感じる。そういった中で『カイダン』はコンセプト作りから、それをどう表現するかまで、生地もパターンもとにかくこだわりが強い。パターンの美しさもウケており価格が高いが、アイテム一つで“狙える”出来栄え。PRに『バレンシアガ』で10年務めた人物が入った。いろんなものを見てきた人も、『カイダン』の服はシンプルだけどくすぐる部分があるのだと思う」と絶賛するが、「とはいえ“フィービー市場”は一つのブランドでカバーできるものではないと思う」と締めくくった。