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暴れん坊編集長・中島敏子による「ギンザ」ラストイシューを語る

 雑誌「ギンザ(GINZA)」は、現在発売中の2018年5月号をもって編集長が交代します。11年5月号から7年間、同誌をリードした中島敏子・前編集長の暴れん坊っぷりは同業者から見ても記録に残すべしと思うので、ここで触れておきたいと思います。

 暴れん坊の意味は、撮影現場で声を荒げるとか、編集部で校正紙が宙を飛ぶとか、酒の席で大騒ぎするといったひと昔前の雑誌界隈で聞かれた類の話ではなく、ご本人のキャラクターはむしろ逆。話し方は終始穏やかで、動きはむしろスロー。スローと言ってものんびりではなく、空手の黒帯というプロフィールからか、忍者のごとく気配を消すのがうまいからそう見えると私は分析しています。ファッション誌の編集長の多くは編集部や広告部のスタッフと連れ立って行動しますが、同編集長はひとりで展示会を訪れ、静かに商品を見ている姿をよく見かけました。

 では何が暴れん坊かというと、それは業界の“常識”を覆してきたという意味です。ファッション誌のビジネスは、販売売り上げと広告売り上げで成り立っているから、広告クライアントとの関係性はとても重要です。ですが、ともすれば広告に傾斜して、編集者の視点がぼやけることも事実。その中で、彼女は一貫して、編集視点ファーストを貫いていました。広告出稿側からすれば、商品をアピールしたくて出稿したのに、例えば商品がクリアに見えない写真があがってきたら、ガッカリするのも当然。ただ、カタログのように商品がはっきり見えることよりも、ブランドと雑誌の世界観が化学反応を起こすことの方が結果的には読者のハートに届きアピールにつながることも事実で、それこそ雑誌のだいご味です。

 また、ファッション誌なのに文字量が多い上に締め切りは常にギリギリだから、ライターや校正者泣かせでも有名でした。とことんコンテンツ重視で、“もう、これでいいか”といった諦めの判断がないから、一緒に仕事をするメンバーは日に日に肝が据わっていったと聞きます。そんな関係者泣かせの一面もあったようですが、こだわりを貫くことで、クライアントや読者の理解力を育てたと言ったらほめすぎでしょうか?

 中島編集長によるラストイシューのテーマは“WHAT IS INTELLIGENCE~「知的な服」ってなんだろう”。ツボはいくつもありますが5つに絞ると、1.黒い服にフォーカスした巻頭撮影ページの扉がウィメンズではなく堀内太郎デザイナーが立ち上げたメンズ「ティーエイチ」の、さらには服でもなくスツールの写真であること 2.同撮影ページの中でラグジュアリーと並び新進ブランド「カイダン・エディションズ(KWAIDAN EDITIONS)」を1ページで取り上げていること 3.知性の表裏一体の“ユーモア”が随所に盛り込まれていること(P.221の「知的フェイスを作る4TIPS」はほぼブラックジョーク)  4.巻頭連載「タマンサの部屋」でのぞく同編集長の本音 5.巻末連載「岡村靖幸 結婚への道」の文末で岡村さんと並んで自身も大きな花束をもって写真に収まっていること(ベタ……)です。

 彼女はずっと対話をしていた、と思います。取材対象とも、読者とも、世間とも。声にならない対話も含めて、問いかけ、聞き取り、それを文字や写真にしてきた。とてもジャーナリスティックな姿勢です。パリコレでショーの始まりを待つ間、時々おしゃべりをしましたが、そんな時もどこか獲物を狙うハンターの姿勢をのぞかせてくるから、対話は刺激的でした。

 「ギンザ」の発行部数は、同編集長が就任後数年間の右肩上がりの勢いがここ数年は落ち着き、発行部数もピーク時より下がっていたようです。それはこのご時世でご多分にもれず。だからこそ太いファンに向かって濃い情報を届けることに注力していたのでしょう。そのコンテンツ力が今後、紙、デジタル、リアルなどどの媒体で発揮されるのか気になります。

 これまで「ギンザ」で編集部キャップを務めてきた河田紗弥・新編集長による「ギンザ」第1号は来月発売。彼女もまた、ファッションやカルチャーを愛し、マガジンハウスらしい深いこだわりを持った編集長のようなので、雑誌ラバーのひとりとしてそのお披露目を楽しみに待ちたいと思います。