「どこからどう見ても『サカイ(SACAI)』というものにした」と阿部千登勢デザイナーが語る通り、パリ・ファッション・ウイークで発表した2026年春夏コレクションは、「サカイ(SACAI)」らしいテクニックと探求心を詰め込んだスタイルがそろった。
"カミング ホーム(Coming Home)"と題した今季のショー会場に選んだのは、5区のカセット通りに構える同ブランドのパリオフィス。その建物には「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」がかつて入居していたこともあり、「サカイ」が今や名実ともにグローバルブランドへと発展したことを物語っている。そして、親密な雰囲気漂う会場内には、パリのブラッセリーなどで見かけるようなダイニングチェアや木製の折りたたみ椅子からミラーのようなボックススツール、ベルベットのソファまで不ぞろいの椅子が並ぶ。中には「サカイ」の店舗やパリオフィス、ショールームで普段から使用しているゲルチョップ(GELCHOP)によるインテリアもあり、ブランドの世界観を映し出す。
コレクションのベースとなるのは、変わらずワードローブの中にある見慣れた服。アーキタイプ(原型)をハイブリッドの手法で新しいものへと作り替え、360度どこから見ても映えるデザインに仕上げていく。例えば、異なるアイテムや要素をドッキングしたり、ストライプを描くように帯状のパーツをはぎ合わせてドレスやトップスを仕立てたり、デニムジャケットやレザーのバイカージャケットのパーツをパッチワークするように再構築したり。それらは、その名を世界に知らしめた“紛れもなく「サカイ」”な手法だ。また、しつけ糸のような白のトップステッチや背面の広がるプリーツ、ペプラムのように揺れる裾など、これまでのコレクションに取り入れてきたディテールの応用も見られる。
そして新たに探求したのは、クラシックなアイテムを「折り返す」というアプローチだ。タキシードやデニムのセットアップのデザインは、内側を開いたパンツの裾を大胆に上に折り返して肩に縫い付けることでコクーンシルエットのケープに。カーゴパンツやジーンズも同様に折り返した裾を腰のサイドで留め、バルーンスカートに仕上げている。一方、ここ数シーズン提案している解体されて内部構造があらわになったラペルは、インナーに合わせたシルクブラウスを外に折り返したかのようなデザインでアップデート。ここ数年際立つシルエットの実験という点では、テーラリングのショルダーパッドを再解釈してスカートの腰に配することで生む構築的なデザインが目を引いた。
時代の流れの中で、阿部デザイナーにとっての“日常の上に成り立つデザイン”は変化してきたが、今も「ウィメンズに関しては、私が実際に着たいと思うものを作っている」とし、自身の信念に忠実だ。そして今季、ブランドの本質に焦点を当てたのは、この変化の激しい世界、そしてファッション業界において、あらためて「サカイ」のビジョンやアイデンティティーを明確に示すためだろう。「いわゆる『サカイ』というものや、私たちが信じているものをもう一度追求した。自分たちが信じていることをやり続ければ、自信を持って生きていけるというメッセージが伝われば」。そう笑顔で話す彼女の目に曇りはない。