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「スナイデル」の20年に学ぶ、廃れないブランドの作り方

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PROFILE: 楠神あさみ/マッシュスタイルラボ 取締役副社長 兼 企画本部 本部長

楠神あさみ/マッシュスタイルラボ 取締役副社長 兼 企画本部 本部長
PROFILE: (くすがみ・あさみ)大学で建築を学び、新卒で青木淳建築計画事務所に入所。退所後、立ち上げ間もない「スナイデル」に参画し、その後「フレイ アイディー(FRAY I.D)」「リリー ブラウン(LILY BROWN)」なども担当。現在は約120人の企画チームを取りまとめ、ブランド横断での素材使用や生産期の調整、人事などを担うほか、サンプルの確認など現場仕事も行う PHOTO:AI OKUBO

マッシュスタイルラボの「スナイデル(SNIDEL)」が、2005年の設立から今年で20周年を迎えた。この3月には、旗艦店のルミネ新宿2店がオープン以来初めて月商1億3000万円を突破。ウィメンズリアルクローズ市場の競争が激化する中でも、変わらずマーケットリーダーであり続けている。立ち上げメンバーである楠神あさみ・マッシュスタイルラボ副社長 兼 企画 本部 本部長に、ブランドのこれまでと強さの理由を聞いた。

3月の「スナイデル」ルミネ新宿2店の月商は1億3000万円超。これは、同ブランドの単店・単月のレコードであり、ルミネ新宿2の婦人服のブランド(複合業態除く)としても歴代トップの記録となった。同月は、20周年にちなんで企画したアーカイブデザインのワンピース20種や、「アグ」「チャコット」「ニューエラ」とのコラボ商品などを戦略的に展開。3月26〜31日は同じフロアの別区画で「リミテッドコンセプトストア」を設置し、これらの商品を集約したことも押し上げ要因になった。

10年限界説を一蹴

とはいえ、売り上げの基盤となったのは25年春夏シーズンのレギュラー品番だ。限定ストア区画を除く既存店部分が前年同月比20%増と大幅伸長しており、ブランドの地力の強さを物語る。売れ筋は、“リボンティアードワンピース”(1万9800円)とサステナブル素材を使用したフリルワンピース(1万6940円)。「ウィメンズマーケットの競争が激しくなり、ブランド自体も成熟期に入った中で、この数字を出せたことは大きい」と楠神氏は手応えを話す。「20年の間に浮き沈みはもちろんあった。ただその中での積み上げが、1億3000万円という数字につながった。復刻ワンピースを手に、当時のエピソードを語ってくださる方もいた」と感慨を深める。

「スナイデル」がルミネ新宿2に出店した08年当時、ウィメンズリアルクローズ市場は、“エビちゃん”こと蛯原友里が象徴する「CanCam系」や「お姉系」と呼ばれるコンサバOLスタイルが席巻。そんな中、「スナイデル」は、ストリート×フォーマルという独自のコンセプトを掲げた。チュールやレースといった女性らしい要素と、ミリタリーやデニム、スニーカーなどをミックスした「媚びない」スタイルで、若い女性たちからの支持と認知を広げた。

さらに18年のリブランディングでは、当時すでにワンピースが安定した売れ筋になっていたものの、テーラードジャケットを使ったセットアップなど新たなスタイル提案に踏み込む。この挑戦もブランドの成長をさらに後押しし、23年8月期には売上高200億円を初めて突破した。

立ち上げ時は勢いがあるブランドも、次第に飽きられ、淘汰されていく。そんな「10年限界説」がファッション業界では通説だ。そのような中でも「目の前の売れ筋に安住してはならない。常に種まきをしなければ、ブランドの成長は止まってしまう」(楠神氏)という危機感が、ブランドの風化を防いできた。設立から20年が経った今も、「他の誰よりも、自分たちが一番のブランドのファン」というメンバーの熱量がブランドを支えている。一方でベテランが増えてきたのも事実であり、「古い考えに固執してはいけない。常に新しい意見を取り入れていかなくてはならない」と自戒を込める。

挑戦をやめたら歩みは止まる

 楠神氏のデスクは、企画室のいわゆる“上座”ではなく、中心に置かれている。周囲には若手スタッフの席が並び、朝の何気ない雑談から1日が始まる。そこから自然にアイデアや課題が浮かび上がり、ブランドの企画へと落とし込まれていくことも。「前にこれが売れたから、またやろう」という発想だけに陥らないために、意識的に風通しのよさを確保しているという。実際、ここ数シーズンでは、ミニ丈のアイテムやそれを軸にしたスタイリングを積極的に打ち出し、「若年層向けに振れすぎているのでは」といった社内のざわつきもあった。しかし楠神氏はきっぱりと言う。「すべての挑戦がうまくいくわけじゃない。でも、挑戦をやめた瞬間にブランドの歩みは止まる」。

トレンドサイクルが加速し、消費者の価値観と消費行動も多様化する現在。楠神氏は、「服作りへの向き合い方そのものを変えなければ」との思いを強める。「昔は“かわいい服”をつくれば売れると信じていた。でも今のファッションは、若い子たちにとって数あるエンタメの一つに過ぎない。ランウェイや雑誌など、上から降りてくるトレンドに乗っかるだけではいけない。自分たち自身で話題や“らしさ”を生み出していかなければ、埋もれてしまう」。

だからこそ、催事やポップアップなど“体験”を伴う売り場づくりにこだわる。商品をただ並べるのではなく、そこにストーリーを持たせ、買い物自体を一つのイベントに仕立てる。「たとえば『チェック』や『花柄』を押し出したいなら、ただ在庫を積むのではなく、納期をそろえ、打ち出し方を整え、演出と連動させて“面”で見せる。それがたとえ、世の中のトレンドと違っても“スナイデルらしさ”がにじんでいればいい。その積み重ねが、ブランドファンの愛着や記憶として残っていくはず」。

設立20年を迎え、ブランドは次のステージへと向かう。「日本発のブランドとして、世界で戦える存在になりたい」。すでに端緒をつけている中国に加え、タイやシンガポールなどの東南アジアにも商機を見出している。「ブランドは広げても、薄めるつもりはない。服づくりも、チームの結束も、密度をさらに濃くしながら進んでいきたい」と前を向く。

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