PROFILE: 後藤洋平/「朝日新聞」編集委員

「朝日新聞」による“パリコレ詐欺”と踏み込んだ記事の波紋が広がっている。この記事は、主催団体が商標登録して公式参加には基準を設けて審査するパリやミラノのファッション・ウイークではなく、その期間中に、現地でショーを独自開催したブランドが「パリコレに出場」と発信したり、このショーに参加したことで「パリコレに登場」などと訴求したりすることを懸念するものだ。記事はファッション・ウイークへの公式参加のハードルと価値を伝えながら、「パリコレ」や「ミラノコレ」という訴求を誘いながらショーの独自開催を斡旋したり、自らが開催するショーへの参加を促したりするブローカーの存在までを指摘する。ミラノやパリのファッション・ウイーク取材を重ねる中で覚えた違和感をもとに取材・執筆した「朝日新聞」の後藤洋平編集委員に聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2025年2月3日号からの抜粋です)
「朝日新聞」の記事のサマリー
「朝日新聞」が1月17日にウェブアップした「『パリコレ出ました』って本当ですか? 寄付や宣伝…無関係なのに」は、日本では「パリコレ」の呼称で浸透しているパリ・ファッション・ウイークに参加した、とのうたい文句が目立っていることに言及。海外のエージェントを通してパリでコレクションを独自発表して「パリコレ初参加」をうたった関西のテーラーに話を聞いた一方、パリ・ファッション・ウイークの主催団体にも取材して、テーラーと同団体は無関係と伝えている。また、こうした無関係の団体による「パリコレに参加します」と宣言してのクラウドファンディングは、支援者や消費者を裏切る「パリコレ詐欺」にさえなりうるのでは?と警鐘を鳴らした。
パリ・ファッション・ウイークに参加ではなく
パリでコレクションを発表だけで「パリコレ」?
WWD:パリやミラノのファッション・ウイークという枠組みには入らず、期間中にパリやミラノで独自開催するファッションショーを「パリコレ」や「ミラノコレ」と呼称することに対して、違和感を覚えたのは、いつごろ?
後藤洋平「朝日新聞」編集委員(以下、後藤):2023年秋、とある経営者から「『ミラノコレ』でモデルの支援をしている。障がい者も起用している」という話をいただき、最初は「社会部的な“街ネタ”として、取材したら面白いかもしれない」と考え、現場に行った。独自開催のファッションショーは、われわれが知る「パリコレ」や「ミラノコレ」の水準には達していない。経営者に「これは、ファッション業界が一般的に定義する『ミラノコレ』ではない」と説明すると、相手は「やっぱり。ミラノに来てから、薄々とは感じていた。『プラダ(PRADA)』や『グッチ(GUCCI)』のようなブランドの面影はなく、学芸会のようなショーばかりで、日本人がたくさんいる」という。だが後日、同様にミラノでコレクションを独自発表した別のブランドが地元の市長を表敬訪問すると、「朝日新聞」を含む一般紙や各テレビ局が「故郷に錦」と取り上げ、違和感が募った。そこでまず「ミラノ、パリの『コレクション』と呼ぶのは日本だけ?誤解の一因に」という記事を書いたが、最近は確信犯的な「パリコレに出場」という消費者への訴求や、「パリコレで使用」というプロモーションを目にする機会が増えている。事件記者だったから、刑法246条が定める詐欺罪の要件を満たさないことは分かっている。ただ強く言わなければ、消費者の誤解は晴れないし、誤ったメッセージの発信が増えてしまうのではないか?そう考え、今回の記事ではあえて強く「『パリコレ詐欺』のようなケースも」と記した。
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