ファッション
特集 CEO2025 ファッション編

【マッシュホールディングス 近藤広幸社長】営業利益100億円の先へ “人の力”を生かす組織で進む

PROFILE: 近藤広幸/マッシュホールディングス社長

近藤広幸/マッシュホールディングス社長
PROFILE: (こんどう・ひろゆき)1975年8月6日生まれ、茨城県出身。98年にグラフィックデザインを手掛けるスタジオ・マッシュを設立、99年にマッシュスタイルラボに社名変更。2005年にファッション事業部を立ち上げ、ビューティ、フード、スポーツ&ウェルネスなどに事業を拡大。12年にマッシュホールディングスを設立し、現職 PHOTO:KAZUSHI TOYOTA

2024年8月期に営業利益が初めて100億円を突破したマッシュグループ。盤石の強さを見せる主力ブランドに加え、メンズ、キッズ&ベビー、ライセンスといったチャレンジ領域も順調に成長。25年には伊藤忠商事と日本事業を共同運営する「レスポートサック」のアパレルを始動するなど挑戦を続ける一方、ネクストステップのカギは、「人の力を最大限に生かすこと」だと近藤広幸社長は話す。

組織、個人のKPIを見直し
さらなる伸び代を作る

WWD:営業利益が初めて100億円を突破した。

近藤広幸社長(以下、近藤):「ジェラート ピケ」(24年8月期売上高は前期比9%増)、「リリー ブラウン」(同5%増)といったブランドに加え、「スナイデル」から誕生した「スナイデル ホーム」(同35%増)、「スナイデル ビューティ」(同50%増)も成長を続け、本当によくやっている。

昨年は試練もあった。西武池袋本店の改装をはじめ、私たちにはどうすることもできない環境要因によって、当社の中でも売り上げトップクラスの店舗を一気に失ったダメージはとてつもなく大きい。出店コストも高騰する中で、そういった優良店をまた一から作るためには膨大な時間とエネルギーが必要になる。

ただ社員の努力があったからこそ、一つの目安としていた「営業利益100億円」という壁を打ち崩すことにつながったのだろうし、コロナ禍で試行錯誤しながら成長してきた総決算と言える。すでに現場では一人一人が「限界」といえるレベルまで奮闘してくれている。さらなる伸び代を作るには、経営として組織のあり方、個々のKPIを改めて考え直す必要があるとも感じている。

WWD:その具体的な考えは。

近藤:個人の力が十二分に事業に反映されるよう、適材適所の考え方で、もう一度組織を見直す。やりがいと責任のあるポジションを増やして、それぞれの持つ個性や強みをより輝かせていく。例えばだが、神奈川県のファッションの消費額はものすごく高い。これまでのように「関東」という大枠で見るのではなく、神奈川県を統括する営業責任者を立て、3カ年計画を作って戦略的に売り上げを作ったらどうか。そんなふうに既成概念を外して考えれば、ビジネスチャンスはいくらでも見出せる。才能ある若手や中堅を責任者に抜擢すれば、成長のチャンスになるし、ゆくゆくは会社の明るい未来を作っていく存在になる。

WWD:24年はライセンス事業への投資も活発だった。

近藤:ニュージーランドのベビー&キッズ「ジェイミーケイ」や米ラグジュアリーヘアケア「インナーセンス」、伊ラゲージの「FPM」を新規導入した。すでに22年から展開している「バブアー」は、私たちならではの企画力やコーディネート提案力によって女性ファンを大幅に増やすことができている。池袋サンシャインシティに出店した「セサミストリート マーケット」は、作品に通底する多様性を私たちらしい商品やストアデザインで表現し、連日盛況だ。こういった成功事例により、取引先からの商談が次々と舞い込んでいて、今年も新規導入の計画がある。ただしやみくもに数を増やすのではなく、私たちのウェルネスデザインの理念とマッチしているかが前提条件。私たちも共感とリスペクトを持ってブランドを育てていけば、お客さまも必ずついてきていただけるはずだ。

WWD:米ライフスタイルブランド「レスポートサック」の日本事業を伊藤忠商事と共同運営する。

近藤:主力はバッグだが、これまでのMDにはなかったアパレルを自社オリジナルで企画し、秋に導入する。「フレイ アイディー」を率いてきたディレクターを新たにチーフデザイナーに据える。女性の心をつかむデザイン力や感性を生かして、マッシュらしいウェルネスウエアに落とし込む。私としても、どんな化学反応が起こるか楽しみだ。

WWD:サステナビリティ推進の進捗は?

近藤:当社では22年にサステナブル推進委員会を発足し、全社でCO2削減の取り組みを進めている。アパレル製造を依頼している中国の取引先工場に対しては、環境への配慮について当社独自の監査基準でランク付けし、S・Aランクの工場には「エコファクトリー」の認定証をお渡ししている。すでに認定証を発行した取引先は100社にのぼり、そこを目標として努力していただいている工場も出てきた。エコファクトリーへの意識改革の流れを生み出せている手応えがある。他にも、昨春は「エミ」が環境にやさしい植物由来の素材「プラックス」を用いたコレクションを発表し、CO2排出削減量を数値化・開示した。こういった取り組みは他ブランドに水平展開していく。

WWD:25年のファッション業界をどう読む?

近藤:今は気候、特に猛暑対応が経営課題として立ちはだかっているが、その中でも守りに回らず「どう個性を出すか」というプラスワンの発想ができるかどうかで差がつく。コロナという大波を乗り越えたアパレル業界には、世の中に必要とされながら強かに生き残っていく企業が数多くあることを、改めて感じている。そういったプレーヤーと競い合いながら、私たちにとっても本当の実力が試される「勝負の年」になるだろう。

実現の可能性はゼロじゃない私の夢

『子供たちに希望を与えられる漫画を』

マッシュグループは子供たちの未来を作る企業活動を続けているが、私個人として思い描いているのが漫画のプロデュース。子供たちに夢と希望を与えられるような作品を世に送り出せたら。

COMPANY DATA
マッシュホールディングス

1998年、グラフィックデザイン会社として設立。2005年に「スナイデル」を立ち上げ、ファッション事業に参入。「ウェルネスデザイン」のスローガンの下、ビューティやフードにも裾野を拡大。24年8月期連結売上高は、前期比6%増の1202億円。国内事業が前期比6%増の1087億円で、内訳はファッションが同8%増の866億円、ビューティが同2%増の176億円。海外事業は同5%増の115億円だった。今期売上高は1300億円を計画する


問い合わせ先
マッシュホールディングス
https://mashgroup.jp/