ビューティ

米ビューティ市場で躍進するオンライン販売 それでも衰えない実店舗の底力

エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES)が2024年3月、「クリニーク(CLINIQUE)」のアマゾン(AMAZON)での販売を開始したことを潮目に、プレステージビューティとアマゾンの距離が近づいている。エスティ ローダー カンパニーズは当初、自社の公式ECサイトや百貨店、 Tモールなどのプラットフォームを優先してアマゾンを避けていたが、「クリニーク」以来「トゥー フェイスド(TOO FACED)」や「エスティ ローダー(ESTEE LAUDER)」など、他の多くのブランドも販売。アマゾンのほかTikTokもビューティ業界に参入しており、店舗販売とオンライン販売の差は縮まっている。

伸長するオンラインショッピング

調査会社ニールセン(NIELSEN)の消費者データによると、ビューティとパーソナルケアの売り上げのうち、オンラインは4年前の約33%から増加して43%を占めている。同社のアンナ・メイヨー(Anna Mayo)美容部門バイスプレジデントによると、アマゾンは品ぞろえの拡大や配送時間の短縮、高品質な製品の提供に注力することで、過去3年間でビューティとパーソナルケアの売り上げシェアを7.3ポイント伸ばしたという。

TikTokは23年9月に1億5000万人の米国ユーザー向けにショップ機能をローンチして以来、特にZ世代に向けて美容カテゴリーを推進している。TikTokは1月18日に米国で禁止されたが、20日に就任したドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領が禁止措置施行を延長したため、19日に復活した。テム(TEMU)やシーイン(SHEIN)のような他のソーシャルセールスアプリも人気を集めている。

店舗購入の課題 アルタやメイシーズは苦戦

メイヨー=アナリストはオンライン販売が急増した背景に、アメリカの店舗では製品を施錠した棚に陳列していることなどを挙げた。「店舗での買い物体験は一部の客をいらだたせ、特に盗難防止対策のために顧客の20%が購入を断念している。テスターの不足や製品の欠品にも悩んでいる」。

その結果、一部の小売業者は痛手を負っている。化粧品小売大手のアルタビューティ(ULTA BEAUTY)は、ホリデーシーズンは予想以上に好調だったものの、アマゾンやセフォラ(SEPHORA)などとの競争激化により、ここ1年ほど逆風にさらされている。最高経営責任者(CEO)を退任したデイヴ・キンベル(Dave Kimbell)は、これほど激しい競争環境を経験したことはないと語っていた。百貨店も圧迫されており、情報筋によると、 百貨店のメイシーズ(MACY'S)は26年までに約150店舗を閉鎖する予定だ。

BAがオムニチャネルの救世主に

一方、北米セフォラのアルテミス・パトリック(Artemis Patrick)CEOはパンデミック以降、かつてないほど力強く復活したと述べ、2万5000人のビューティアドバイザー(BA)を「シークレットソース(秘伝のタレ)」として挙げる。「ビューティアドバイザーは全員、デジタルスキンツールを用いて顧客に合うファンデーションの色を調べるが、それは会話のきっかけにすぎない。豊富な品ぞろえと教育されたビューティアドバイザー、体験を向上させるデジタルツールの3つの組み合わせが、われわれの店舗をこれほどまでに成功させた」。

オムニチャネル・ショッピングという点でも、ビューティアドバイザーは売り上げにとって重要な存在だ。消費者がオンラインで購入したものを店舗で受け取る際、他の製品の提案もできるからだ。「オムニチャネルとは、デジタル体験だけのことではない。ビューティアドバイザーの会話も含めて、カスタマージャーニー全体を考えることが大切だ」とパトリックCEOは話す。

実店舗の強さは衰えない

オンラインチャネルは成長しているが、専門家は実店舗がすぐに優位性を失うとは考えていない。投資銀行レイモンド・ジェームズ(RAYMOND JAMES)のリテール・アナリスト、オリビア・トン(Olivia Tong)は「実際に色がどう見えるか?自分に似合うか?どんな香りがするのか?実店舗には常に新しさがあり、特に化粧品やフレグランスにおいては、人々を店に引き込むきっかけになる。オンラインは実店舗よりも早く成長を続けるだろうが、完全に逆転するわけではない。店舗での買い物を望む声はまだあるはずだ」と分析する。

特にプレステージビューティの分野では、その傾向が強い。調査会社サーカナ(CIRCANA)によると、消費者の約3分の2がプレステージビューティ製品を店舗で購入している。また11月のプレステージビューティの売り上げは、実店舗では年間7%、オンラインでは8%のペースで伸びた。サーカナのラリッサ・ジェンセン(Larissa Jensen)バイスプレジデント兼業界アドバイザーは、「ビューティ業界は店舗体験に適している。特にメイクアップがその例である。オンラインの方がシェアが大きくなるということはないだろう」と見通しを述べた。

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