「絶滅危惧化粧品」ーー。2024年2月、ウテナはそんな自虐的なキャッチコピーを発表した。1983年(昭和58年)生まれのロングセラーで社名を冠した代表ブランドの「ウテナ モイスチャー(UTENA MOISTURE)」は、発売当初から根強い支持を集めている。しかしその一方で「愛用者の年齢層は60~70代が半数以上」という課題があった。「一度お使いいただければその魅力に気づいてもらえるかもしれないのに、このままでは将来的にブランドがなくなってしまう可能性も」という危機感からスタートしたこのプロモーションはその後昭和レトロを逆手に取った広告に突き進み、今年12月からは1980年代のアイドル雑誌をモチーフにしたビジュアルを東京、大阪の交通広告に掲出している。
昭和レトロで若年層のトライアル率向上
ブランド消滅を危惧して始まったプロモーションは24年の「絶滅危惧化粧品」に始まり、同年4月に“ネオ昭和”を発信するインフルエンサーの阪田マリンをイメージキャラクターに起用し加速。80年代アイドルやスクールメイツを思わせるビジュアルを作成し、昭和生まれの化粧品をアピールする戦略を推し進めた。“昭和100年”となる25年4月には「波に乗らないのが、今っぽい。」のキャッチコピーと共に、サーフボードを持った70〜80年代風のヘアスタイル&水着姿の阪田を油絵風に描いた広告を掲出している。
また、8月にはシリーズの特徴であるアロエを軸に、あえて冬のスキーをテーマにしたビジュアルをAIで作成してSNSなどで公開。懐かしさ漂うスキーウエアとアロエベラで描いたスキー板、昭和タッチの色調と「ゲレンデみたいにすーべすべ。」「あの頃の肌までパラレルターン」といった昭和の香り漂うキャッチコピーも反響を呼んだ。「一連の広告開始後、東京、大阪をはじめ、全国でトライアル率が向上しました。若年層においてもトライアル率が向上しています。『レトロで逆に新鮮!』『昭和にタイムスリップしたみたい』という声がSNSでも上がっており、注目を集めることができたのではないかと思っています」とウテナの本郷憲治マーケティング部マーケティング1課課長は語る。
アロエベラのスキー板はAIだからこそできた“遊び心”
とはいえ昭和レトロに対する印象や思いは千差万別。本郷課長も「多くの人が昭和を感じるポイントを見つけるのは難しかったです。『こんなのあったよね!懐かしい』『昭和っぽい!』と感じるポイントを見つけ、それを『ウテナ モイスチャー』というブランドと融合させるところに苦労しました」と振り返る。
スキービジュアルと今作の80年代雑誌風ビジュアルはAIを駆使し作り上げた。「鮮やかで濃い色彩」「さまざまな字体の組み合わせや縁取りでの強調」など昭和レトロ雑誌のデザインや質感を言語化。AI生成とディレクションを繰り返し、人間の美的センスや感覚、AIの生成力を掛け合わせながら作業を進めた。「昭和らしさのクセと化粧品としての清潔感のバランスを調整する点が、特に難易度の高いディレクションとなりました」(本郷課長)。スキー板をアロエベラにする試みはスタッフの冗談から生まれたアイデアだったが、突拍子もない意見を実際の撮影に活かすのは予算や手間の面でもハードルが高い。その点、AIならば気軽にトライできたという。
両作品は並行して作業を進め、広告として採用されたのは今回のアイドル雑誌風のビジュアルだった。もう一方のスキービジュアルはお蔵入りになるはずだったものの、田頭基明ウテナ社長も絶賛するクオリティーだったことから8月にリリースや公式SNSで発表を行った。また、こちらのビジュアルは田頭社長の名刺にも使用されたという。
“昭和100年”となる25年も残すところ約半月。ウテナが昭和全開プロモーションを26年も継続するかは「まだ未定」だという。「今後も“いい意味での違和感”で目を引く広告は継続していきます。普通の広告を作っても見てもらえない、注目してもらうには何か引っかかりが必要、という考えのもと、インパクトを高めつつ新しい層への訴求を図っていく予定です」(本郷課長)。