ファッション

「ピリングス」がサザビーリーグに事業譲渡  「自転車操業だった」デザイナーが大手と組む理由

根岸由香里/サザビーリーグ リトルリーグカンパニー執行役員兼ロンハーマン事業本部事業部長兼ウィメンズディレクター(右)

PROFILE: (ねぎし・ゆかり)1977年11月14日生まれ、栃木県出身。98年に文化服装学院スタイリスト科を卒業。セレクトショップ、シンゾーンで販売、企画、バイイングなどを経験。2008年、ロンハーマン立ち上げ時にサザビーリーグに転職。バイヤーを経て、16年から現職。現在、25店舗を指揮する

村上亮太/「ピリングス」デザイナー

PROFILE: (むらかみ・りょうた)1988年生まれ、大阪府出身。上田安子服飾専門学校を卒業後、山縣良和が主宰する「ここのがっこう」でさらにファッションを学ぶ。リトゥンアフターワーズのアシスタントを経て、母・村上千明と共にブランド「リョウタムラカミ」をスタート。2016年春夏シーズンより東京ファッションウィークに参加。2020年ブランド名を「ピリングス」に変更し、単独で手掛け始める。2021年に「東京ファッションアワード 2022」を受賞

サザビーリーグは、村上亮太デザイナーのブランド「ピリングス(PILLINGS)」と事業譲渡契約を結び、同ブランドの商標権を取得した。取得金額は非公表。村上デザイナーは今後も契約デザイナーとして携わりながら、前運営会社ピリングスの代表も引き続き務める。同社事業のニットスクール「アミット」も継続する。サザビーリーグと個人経営の東京デザイナーという異例のタッグが実現したのは、村上デザイナーと根岸由香里ロンハーマン リトルリーグカンパニー執行役員の出会いがきっかけだった。村上デザイナーは運営体制が変わることに何を思うのか。そして、「『ロンハーマン(RON HERMAN)』を日本でスタートさせた時のようにワクワクしている」と語る根岸執行役員の狙いとは。東京・千駄ヶ谷のサザビーリーグ内一角に移設した、「ピリングス」の新たなアトリエで2人に聞いた。

決め手は人柄
「この人たちと仕事したら面白そう」

WWDJAPAN(以下、WWD):今回の事業譲渡の経緯は。

村上亮太「ピリングス」デザイナー(以下、村上):2023年6月に、ファッションコンペに参加し、審査員だった根岸さんとお話ししたことが始まりだった。クリエイションだけでなく経営面も審査の対象で、「ピリングス」の“自転車操業”感を心配してくれて(笑)。会社の売り上げは、学校事業も合わせると下代ベースで年間約6000万円ほどだったものの、自転車操業でもタイヤのない自転車状態。「せっかく面白いことをしているから力になりたい」と根岸さんから声をかけてもらい、三根(弘毅リトルリーグカンパニープレジデント)さんとトントン拍子で直接会うことになった。

根岸由香里ロンハーマン リトルリーグカンパニー執行役員(以下、根岸):村上さんが1人でブランドを運営し、その苦労する姿に「世界に出ていける力があるのにもったいない」と感じ、その日のうちにすぐ三根に話をした。村上さんがサザビーリーグの社員になる案や、株式を過半数取得するという話もあったが、ブランドの事業譲渡契約を結ぶのがお互いにとっていいという決断に至った。

WWD:自身が大切に育ててきたブランドを、企業に譲渡するのは簡単な決断ではなかったはずだ。

村上:実は今までも他社からそういう話があったので、自分自身も最初は半信半疑だった。でも、根岸さんと三根さんの人柄に惹かれたことが一番大きい。失敗してもいいやと思えた。

WWD:具体的には?

村上:僕は、日本のニッターの技術は世界レベルで、次世代にも継承していくべきだと考えている。だからこそ手編みにこだわっていることや、コレクションの説明を話した時、三根さんが「お金儲けにはならないかもしれないけど、面白いね」と言ってくれて、気持ちがすごく楽になった。それに、僕が何度もニッターとやりとりして生まれたディテールに気づいてくれて、それがすごくうれしかった。「この人たちと一緒に仕事したら面白そう」と直感した。面白いことを始めるにはリスクもあるけれど、この人たちとなら失敗しても仕方ないと。

根岸:失敗しないよ(笑)。

国内ブランドを支援
サザビーリーグ初の取り組み

WWD:「ピリングス」を知ったきっかけは?

根岸:「東京ファッションアワード 2022」を受賞した村上さんが、その特典としてパリで展示会を開いていた時に初めてコレクションを見た。チューリップが垂れたニットバッグや、花柄ベストを見て、そのかわいさや手編みであることに驚き、23年春夏シーズンから「ロンハーマン」での買い付けを決めた。

WWD:店頭での反応は?

根岸:3シーズン連続で別注アイテムを販売しており、売り上げは非常にいい。特に23-24年秋冬シーズンはほぼ完売だった。店頭ではすぐ売れてしまうので、自分用に個人オーダーもしたほどだ。「ピリングス」には会話を生むパワーがある。多くのお客さまが洋服を見て立ち止まり、販売スタッフと会話を弾ませていた。

WWD:根岸さんとしてもこういう動きは初めてだった?

根岸:日本のブランドでは「ピリングス」が初めて。15年前に「ロンハーマン」の立ち上げに関わり、その後は海外の魅力的なブランドを日本に紹介し続けてきたが、日本のブランドでは事例がなかった。日本にも素晴らしいブランドはあるので、自分の経験値が貯まったこの段階で、新しいことをしようと考えていた。

WWD:実際に村上デザイナーと話してどのような可能性を感じた?

根岸:三根と話を聞いていて、「『ピリングス』がなくなったとしてもニッターの集まる工房は残したい」という考えを聞き、その手仕事に対する思いに感銘を受けた。サザビーリーグは企業なので、事業である以上は利益を出さないといけない。でもそれ以上に「ピリングス」の面白さに対してワクワクした。たくさんのブランドを見てきたが、ここまで心を動かされるブランドは他になかった。「ロンハーマン」を日本でスタートさせた時のようにワクワクしている。一緒にパリを目指せたら、めちゃくちゃ面白い。

WWD:今後のチーム編成はどう変わる?

村上:「ピリングス」の制作チームは、今まで通り僕ともう一人のみ。それ以外のPRやリース対応、セールス、経費管理などはリトルリーグカンパニーのチームと連動していく。これまでは全部一人でやっていたので、各部門のプロに任せられる安心感は大きい。

根岸:サザビーリーグ傘下になることで、村上さんにはやりたいことや、自分自身にしかできないことに専念してほしい。これまで金銭面や人員の関係で、実現できなかった面白いアイデアがたくさんあるはず。私たちが持っている生産背景や、チームでバックアップしてアイデアを形にし、「ピリングス」をさらに成長させていきたい。

WWD:新体制の「ピリングス」が目指す先は?

村上:母親と親子で手掛けた「リョウタムラカミ」から「ピリングス」に改名後、協力してくれるニッターたちを世間に知ってもらいたい気持ちが強くなっていった。今では「ピリングス」はハンドニットブランドだと、ある程度周知できたのではないかと思う。次は、洋服を通して人間像を提案する段階に進みたい。サザビーリーグに事業譲渡をしたことで、「こういう人のために洋服を作る」という人間像について、余裕を持って考えられるようになるはずだから。

WWD:事業譲渡については母親は何と言っていた?

村上:「やったじゃん。ラッキーだったね」と。たぶん、何も分かってないと思う。

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