ファッション

170年以上の歴史を持つ「バリー」 変革の出発点は「自分たちを恥じないこと」とCEO

ニコラ・ジロット/バリー最高経営責任者 プロフィール

フランス・アジャン生まれ。モンテスキュー・ボルドー第四大学を卒業し、現在はスイスのルガーノ在住。1997年にアイウエア小売店グランドビジョン・グループに就社。その後オークツリー・キャピタル・マネジメントの買収後のイタリアのアパレルブランド「コンビペル」を経て、スイス・チューリッヒの大手免税店ニュアンス・グループでチーフ・ファイナンシャル・オフィサーを務める。2023年にはスイスの旅行サービス大手ダフリーと合併したオートグリルの非常勤取締役に就任。15年にバリーに入社し、19年から現職 PHOTO:YUTA KATO

「人生は紆余曲折あって当然だ。肝心なことは向かうべき方向性を見失わないことだ」。ブランド改革最中の「バリー(BALLY)」のニコラ・ジロット(Nicolas Girotto)最高経営責任者(CEO)はそう語る。ジロットCEOは2019年に現職に就任。20年には若手デザイナーのルイージ・ビラセノール(Rhuigi Villasenor)をクリエイティブ・ディレクターに起用して20年ぶりにファッションショーを開催しブランドの存在感をあらためてアピールした。しかし、ラグジュアリーストリートを得意とするビラセノールのクリエーションはスイス発の老舗ブランドに挑戦的で新鮮なエッセンスを加えたものの、長期的なビジョンを描くことはできず、わずか2シーズンで退任となった。2024年春夏シーズンからは、「グッチ(GUCCI)」で経験を積んだシモーネ・ベロッティ(Simone Bellotti)をクリエイティブ・ディレクターに迎え、ブランドイメージの再構築に取り組んでいる。このほど東京・銀座にオープンした旗艦店を訪れたジロットCEOに「バリー」が向かおうとしている方向性について聞いた。

WWD:2019年に現職に就任しリブランディングに着手した。見えていた課題は?

ニコラ・ジロット=バリーCEO(以下、ジロットCEO):就任直後に行った市場調査では、消費者の間で「バリー」の認知度は比較的高く、品質や卓越したクラフトマンシップなどポジティブな印象を持たれている一方で、実際に購入したいと思うデザイラビリティ(=望ましさ)に欠けていることが分かった。原因の1つは、ブランドのポジションが不明確なことだった。つまり、「バリー」とはどんなブランドなのかを伝えきれていなかった。ブランドのDNAを土台としながらそのポテンシャルを最大化するには、これまでの製品中心の考え方ではなく、「バリー」にしかないクリエイティビティーをしっかり届けることが重要だ。まさにここがシモーネに期待したい部分でもある。

「変革には時間がかかるし、忍耐力も必要だ」

WWD:あらためて「バリー」のブランドポジションを定義すると?

ジロット:ある顧客は「バリー」のことを「スイスのシックなユーティリティーブランド」と表現した。私たちがオフィシャルに使用している表現ではないが、核心を突いていると思う。エレガントでシックなデザインやインドアでもアウトドアでも通用する機能性、日常的に手に取れる価格帯のリアルなワードローブであることは私たちが大事にしている要素だ。特に品質、素材、価格のベストなバランスは常に意識している。ラグジュアリー産業の競合他社と比較すると、高品質な製品をフェアな価格帯で提供していることが強みだ。

WWD:22年には4年ぶりにクリエイティブ・ディレクターを立てルイージ・ビラセノールを任命したが、わずか1年で退任となった。その影響をどう見る?

ジロットCEO:彼のおかげで20年ぶりにファッション・ウイークに戻ってくることができたことは大きい。ブランドのクリエイティビティーやメッセージを強く発信する機会になったはずで、彼にはとても感謝している。2度のコレクションでは、彼のエネルギーやブランドに対する情熱を強く感じたものの、彼は自身のブランドに専念したいと考えていた。変革期である私たちも歩みを止めるわけにはいかないので、すでにチームの一員として携わってくれていたシモーネを次に任命したわけだ。どんなコラボレーションも人生同様にうまくいくときもあれば、いかない時もある。変革には時間がかかるし、忍耐力も必要だ。長期的なゴールに辿りつく過程では、いっときの痛みも伴う。もちろん、シモーネとは長いスパンで共にストーリーを描いていきたいと願っている。

WWD:シモーネ・ベロッティとはイメージの再構築に向け、どんなビジョンを共有している?

ジロットCEO:彼とはミーティングを何度も重ねながら、「『バリー』とは何か?」というすごくシンプルな問いを議論した。「バリー」の長い歴史の中でもどんな部分が今の時代に響くのか、何を後世に残していきたいのかを話し合う中で、シモーネはすごくシンプルな答えを持ってきてくれた。それは、「自分たち自身を恥じない」ということ。違うブランドになろうとせず、スイスにアイデンティティーを持つ、クラシックなブランドであることを誇りに思うことから始めようという彼のビジョンはすごく気に入った。彼の最初のコレクションでは1923年に誕生したシューズ“グレンデール”を現代風にスタイリングしたり、スイスといえば誰でも思い浮かべるカウベルのモチーフで遊んだり(笑)。自分たちが何者であるかにすごく正直になれた気がしたコレクションだった。既存の顧客にも新しい顧客にも響くはずだ。

WWD:今後特に注力していくカテゴリーは?

ジロット:全カテゴリーに注力したいと思っているが、レディ・トゥ・ウエアの打ち出しはさらに強めていきたい。現在の売り上げ構成比は、40%がシューズ、40%がアクセサリー、残りがレディ・トゥ・ウエアだ。シューズに関する圧倒的なノウハウは強みだ。全てスイスのインハウスで製造していて他にはないモノ作りができる。アクセサリーも同様だ。

新コンセプトの旗艦店を銀座にオープン

WWD:このほど新たな旗艦店を銀座にオープンした。狙いは?

ジロットCEO:日本はグローバル売り上げの約10%を占める重要な市場だ。ブランドの新しいコンセプト、そしてシモーネによる最新のコレクションをお届する最初の店を、ラグジュアリーブランドが集まる銀座に構えたのは自然な流れだ。取り引きのある百貨店などのパートナーにも、私たちが日本市場を大切にしている姿勢を見せたい。

WWD:日本市場でのビジネスは伸びている?

ジロットCEO:昨年から比較して伸長しているものの、ここからさらに規模を拡大できるポテンシャルがある。ラグジュアリー業界の中でも日本はカギとなるマーケットだ。さらに伸ばしていくためには、ブランドの認知以上に消費者が実際購買する時の検討対象となる「考慮集合」に含まれる必要がある。現職に就任以降、数年かけて特にデジタル分野に注力し、中国大手EC「Tモール(天猫国際、T MALL)」や「JDドットコム(JD.COM)」にも出店してきたが、現在は広げたネットワークの質を上げていくフェーズに入った。今年は各都市でブランドのストーリーをより強く発信できる実店舗にプライオリティーを置き、出店を加速させていく計画だ。ブランドのストーリーを発信する重要な拠点である銀座店に投資していくことが、日本市場全体、もしくはアジア圏全体でのプレゼンスの底上げにつながると考える。

WWD:ストーリーを伝えるための具体的な工夫は?

ジロット:スイスのアイデンティティーを表現するために、内装はミニマルでありながら温かい雰囲気にこだわった。来店客には居心地のよいホームのように感じてほしい。什器の多くはスイスのビンテージ品だ。スイスのカルチャーを感じてもらうきっかけにもなるし、サステナビリティの観点からもすでにあるものを再利用することが望ましい。棚に飾った多くの書籍からは、世界の文化芸術や建築、クラフツマンシップに敬意を払う当社の姿勢を感じてもらえると思う。

WWD:一連の改革を通してすでに新たなイメージが確立し始めたと感じるビジネス上の変化はある?

ジロットCEO:まだ始まったばかりだ。人生は直線ではなく紆余曲折あって当然だ。肝心なことは、ブランドのデザイラビリティを上げるという向かうべき方向性を見失わないこと。この2年でブランドの存在感は増している手応えがあるし、プレスやバイヤーからはこれまでになかった反応をもらえている。正直ここまでのビジネス状況は、ローラーコースターのようだった(笑)。だからこそ、長期的な視点を忘れないように心がけている。現状に満足しているかと聞かれたら、答えはノーだ。まだ始まったばかりだし、やるべきことはたくさんある。

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