ファッション

若手ブランド「コルミオ」はパンクにジェンダー平等を訴える【2024年春夏ミラノコレ現地リポvol.3】

2024年春夏ミラノ・ファッション・ウイークが9月19〜25日に開催されました。今季のミラノは、サバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)による「グッチ(GUCCI)」や、ピーター・ホーキングス(Peter Hawkings)による「トム フォード(TOM FORD)」、シモーネ・ベロッティ(Simone Bellotti)による「バリー(BALLY)」など、新たなクリエイティブ・ディレクターによるデビューショーも目白押し。オフスケジュールのイベントやアフターパーティーも復活し、盛り上がった現地の様子を村上編集長と、ミラノコレ取材2シーズン目の木村記者が振り返ります。

「トッズ」

木村:「トッズ(TOD’S)」は、ヴァルター・キアッポーニ(Walter Chiapponi)=クリエイティブ・ディレクターによる最後のコレクションを発表しました。会場に入ると「トッズ」の職人がシグネチャーシューズの“ゴンミーニ“のパーツをくりぬいていたり、カバンを作っていたりして、貴重な制作現場を見ることができました。モノ作りの裏側の美しさを見せる素敵な演出だったと思います。正直「トッズ」は取材を始めるまではシューズのイメージしかなかったのですが、キアッポーニ=クリエイティブ・ディレクターになってからのコレクションは実際に着たいと思うアイテムがたくさんあったので退任が残念です。コレクションリポートはこちら

村上:ヴァルターが就任して以降の「トッズ」は、程よいデザイン性を手に入れ、ライフスタイル化に成功しましたよね。競合ブランドよりも“値ごろ感”があって“高見え”するシューズやバッグは、若い世代の指示も獲得し、ビジネスも成長してきました。だからこそ後任人事が気になるけれど、グループ副会長のアンドレア・デッラ・ヴァッレ(Andrea Della Valle)は、「安心して」と話していました。有名ではないかもしれないけれど、今の「トッズ」を継続、発展させていく人物の起用が間もなく発表になるでしょう。

「コルミオ」

木村:若手デザイナーのジェザベル・コルミオ(Jezabelle Cormio)が2019年にスタートした「コルミオ(CORMIO)」は、可愛らしい花のビジューをあしらったニットウエアやピンクのレオパードのスカート、ビキニといったノスタルジックとパンクを掛け合わせたようなコレクションの中に、ジェンダー平等を訴えるパワフルなメッセージを込めました。ショーのBGMは、音楽ではなくジェザベルのチームが書いたレターの朗読。バックステージで彼女は、「TikTokでメイクアップをしながら社会的なメッセージを発信している女の子を見たことが今回のコレクションの出発点。メッセージを発信するために常に美しくいなければいけないというプレシャーに晒されながら、着飾りすぎたりすれば批判されたりもする。その矛盾と葛藤がテーマ」と説明。最後に「女性は今より10倍、いや100倍自由になって、声を大にしてメッセージを発信するべき」とコレクションに込めた熱い思いを語ってくれました。

村上:これまで「コルミオ」には、かなり“ブリブリ”でガーリーなイメージを持っていたので、パンクやグランジ、そしてサッカーのユニホームのエッセンスに驚きました。でも、その方が今の若い世代らしいですよね。最近、若い世代の間でパンクテイスト流行り始めていませんか?ヘソ出しで、厚底ローファー履けば、ロックなスタイルに挑戦したくなる気持ちもわかります(笑)。「コルミオ」は、そんなムードを先取りしていた印象です。

「MSGM」

村上:「グッチ」については、こちらの記事で大いに語ったので、同じく若い世代にリーチする「MSGM」を振り返りましょう(笑)。まだまだ色柄は多いけれど、「MSGM」流のクワイエット・ラグジュアリーを目指している印象を受けました。従前に比べるとフリルやラッフル、ロゴなどが大幅に減って、ワンショルダーのTシャツや、ジャカードのポロシャツ、抽象的な花柄のミニ丈バルーンスカートなど、だいぶ削ぎ落としてきました。ただ、あんまりデザイン性を希釈しすぎちゃうと、アイデンティティーを失ってしまうのが、ラグジュアリーとアパレルブランドの間に存在するデザイナーズブランドの難しいところだな、とも思いました。

木村:「MSGM」は今回、悪天候のため直前に会場を変更しました。落ち着いたコレクションが装飾のない無機質な会場で発表されたので、世界観を作りきれなかったハンデがあったようにも感じました。ポジティブな色使いは変わらずですが、今季はそれが少し柔らかく、花柄などのモチーフもアートの要素が強まって大人っぽくなった印象です。オンブレチェックのアイテムはグランジ好きの若い世代のハートをつかみそう。「MSGM」の会場で思うのは、来場者のスタイリングが上手。クワイエットな方向性にシフトしても、新しいテイストを楽しんで取り入れるような気がします。

「ヴェルサーチェ」

木村:続く「ヴェルサーチェ(VERSACE)」も、「ミュウミュウ(MIU MIU)」の影響を感じたコレクションでした。

村上:ロサンゼルスで発表した前シーズンは、ブラックフォーマルの中にブランドらしいセクシーさや力強さがあって、クワイエット・ラグジュアリー時代の「ヴェルサーチェ」を示してくれただけに、今回はちょっと驚いてしまいました。パステルカラーのギンガムチェックのスタイルはカワイイけれど、前のシーズンとは明らかに違う人に届けようとしているのかな?正直、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)時代の「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」を思い出してしまいました。キャンバスのバッグは「ディオール(DIOR)」、全体のスタイリングは「ミュウミュウ」。ちょっとオリジナリティが欠けていたかもしれません。目を凝らすとメデューサの存在に気づくキラキラボタンをあしらったメンズのサファリルックとか、リトルブラックドレスに純白のオープントゥのニーハイブーツのスタイルなんかは、シンプルでも「ヴェルサーチェ」ってわかる官能美を醸し出しているので、この路線を追求してほしいです!

「ボス」

木村:ボス(BOSS)」は、シーナウバイナウ形式で2023-24年秋冬コレクションを披露しました。会場前はアフターパーティーの参加者も混ざってかなりの人混みで大変でしたね。AIロボットがお出迎えしてくれた会場は、近未来的オフィス空間で、めちゃくちゃ作り込んでいました。ジジ・ハディッド(Gigi Hadid)が着用するピンストライプのセットアップから始まり、かなり深いVネックのテーラードジャケットや、大胆なカッティングのドレープ感のあるブラウスなどオフィスウエアにひねりを加えて提案しました。会場のインパクトが大きすぎて、「オフィスウエアの常識を覆す」というコンセプトがちょっとかすんでみえてしまいましたが。

村上:一番のナゾは、近未来的な空間に現れたのが、どちらかといえばコンサバなオフィスウエアだったことですよねw。帰国してからも友人に、「会場と、スタイルのコントラストの狙いは?」って聞かれたのですが、答えられませんでした(苦笑)。ちょっとコンセプチュアルになりすぎてしまった印象です。

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