モノが素晴らしくても、「届ける」にまで思いを馳せないと売れない時代。「マクアケ(MAKUAKE)」で多数の応援購入という形で支持されるプロジェクトは、モノづくりからコミュニケーションに至るまでの設計の何が違うのか?この連載では、モノづくり企業に伴走するキュレーターが成功体験を伝授。時にモノづくり企業が苦手とする、訴求ポイントの整理からターゲットの設定、トップ画像やキャッチコピーに至るまでのコミュニケーション上の工夫を伝授してもらう。今回は、これまで26回も「マクアケ」でプロジェクトを実施しているレザーブランド「ヒイロ(HIIRO)」のお話。
今回お話を伺ったのは、「ヒイロ」の取り組みです。同ブランドは「消費される道具ではなく、使い続けることで愛着が生まれる作品をつくる」という思いのもと、天然のヌメ革にこだわり、シンプルな本革商品を手掛けています。
商品のコンセプトは「大人かっこいい。シンプル」。モノに溢れた時代だからこそ、大量生産・大量消費ではなく、丈夫で長持ち、経年変化を楽しめて、飽きずに一生使える革製品を提供。商品は毎回、サポーターの声をもとにアップデートさせています。
「ヒイロ」が「マクアケ」で初めてプロジェクトを実施したのは、今から4年前。今に至るまで、合計26のプロジェクトを実施し、サポーターからの声を商品開発に反映し、共に成長して、愛着が生まれるような革製品を生み出しています。プロジェクトを重ねるごとにファンを増やし、リピーター購入者が多いのも特徴です。
現在、「マクアケ」で実施しているプロジェクト「新・紙袋風自立するレザーバッグ厚切A4」は、過去にユーザーから最も反響があった商品をアップデートしたもの。具体的には、新たに収納式肩当てを追加し、ノートPCやカメラ、書籍や書類などを入れて重くなっても簡単に持ち運べるようにしています。一方で、従来の紙袋の使いやすさはそのまま。ポンと入れ、サッと持ち運べ、スッと置ける自立式です。
「新・紙袋風自立するレザーバッグ厚切A4」のプロジェクトは167人のサポーターから、約320万円の応援購入が集まっています。サポーターからは「仕事柄パソコンや配布書類で荷物が増えがち。軽量かつ肩掛けの当て革まで考えられている理想的なバッグ」「丈夫なつくりなので、末永く連れ回したい」といった期待の声が多数集まっています。
今後は、「ヒイロ」としての商品開発はもちろん、これまでブランドとして蓄積したノウハウを活かし、モノ作りを行う事業者をサポートするべく、商品開発を一緒に行う活動も検討しているとのことです。
訴求ポイントの整理
実行者の思い
「ヒイロ」の開発者である坂井博栄さんは、長年家電製品の商品企画を担当してきました。ところが家電製品には寿命があり、時間の経過とともにいつかは壊れてしまいます。そうした中、消費される道具ではなく、使い続けることで愛着が生まれる商品の開発に携わりたいという思いから、「ヒイロ」は生まれました。モノに溢れた時代だからこそ、使い続けることの価値、尊さを追い求め、天然の革にこだわったシンプルな商品を展開しています。
ユーザー分析
使い続けることで愛着が生まれるなど、経年変化を楽しめる商品を手掛けているため、ユーザーは性別を問わず、「モノを大切に使っていきたい」という思いが強い40〜60代の方が中心です。本革の手軽に持てるバッグはこれまでになかったことから、モノへのこだわりが強い人たちからも支持を集めています。また、使い込んでいく中での本革の表情の変化を楽しみにして、シリーズ違いを複数購入する方も多いです。
キャッチコピーやトップ画像の工夫
キャッチコピー
「ヒイロ」が「マクアケ」で実施しているプロジェクトのキャッチコピーは一貫して、「『ずっと』を心地よく」にしています。シンプルなデザインだからこそ、はやり廃り関係なく、どんなシーンでも使ってもらえるのが、「ヒイロ」の商品の特徴です。本革の経年変化を楽しみながら、愛情をもって世代を超えて使ってもらいたい。そんな思いが、一人でも多くの人に伝わるように、このようなキャッチコピーにしました。
トップ画像
トップ画像も同様に、過去のプロジェクトのフォーマットを踏襲しています。どのような持ち方ができるのかバリエーションの幅を見せ、男女それぞれの着用イメージなどを、アイテムごとに合わせてトップ画像に載せることで、ユーザーが利用シーンをイメージしやすいようにしています。また、固定のフォーマットにすることで、同一の実行者によるプロジェクトだと気づいてもらいやすく、買い逃した人に買ってもらえる機会創出にも一役買っています。
ファンと一緒にブランドを育てていくための工夫
応援コメント、活動レポートでファンに真摯に向き合う
「ヒイロ」のプロジェクトは活動レポートの更新頻度が高く、応援コメントに対しても一人一人、しっかり返信しているのが特徴です。更新頻度が高いことで、サポーターも現状のステータスを把握でき、実行者への安心感や信頼感につながっています。応援購入後もサポーターに真摯に向き合い、双方向の丁寧なコミュニケーションをとっています。購入後のケアもしっかりすることが、ブランドのファンにつながっているのです。
プロジェクト開始〜終了までサポーター目線で設計
2カ月に1回の頻度でプロジェクトを実施している「ヒイロ」ですが、高頻度でプロジェクトを実施しているからこそ、「リターンの発送が完了してから、次のプロジェクトを実施する」「似ているプロジェクトを続けて実施しない」ことを心がけています。応援購入したサポーターを第一に考えて、プロジェクトの終了後の対応や次回のプロジェクトについての設計を行う細やかなケアが、ファンづくりにつながっているのです。
教えてくれたのは、この人
成毛千賀
PROFILE:(なるげ・ちか)新卒でサイバーエージェントに入社し、コマース事業の立ち上げやディレクターを経験。2019年にマクアケへ入社。美容、ファッションジャンルのプロジェクトを中心に、これまでに数千件のプロジェクトの設計・グロースをけん引