ファッション
連載 マリエが本音で語る「私の33年目のサステナブル」

ファッションアイテムになる動物は、中身が捨てられているって本当? マリエの「私の33年目のサステナブル」Vol.46

 私のブランド「パスカルマリエデマレ(PASCAL MARIE DESMARAIS.以下、PMD)」のアイテムは、廃棄されるはずだった商材や廃棄寸前の素材を集めては、「かっこよく息を吹き返せ」とばかりに蘇らせている。無論、革やファーに関しても同じく、廃棄されるはずだったゴミやジビエの皮をアップサイクルしている。合成皮革も、エコファーも使わない。

 そんな私が次に取り組むレザー企画(近日情報解禁!)の中で、最近恥ずかしながら初めて、皮革の加工工場に赴いた。現場や工場に足を運ぶことは何よりも大切にしてきたが、皮革の加工現場は初めてだった。工場案内が始まると工場長は、「最近、悪いウワサをよく聞く。『動物が可哀想』とか『ファッションアイテムになる動物は中身が捨てられ、食用の動物は皮が捨てられる』ってね。ここにある皮は、み~んな食用に育てられた動物のものだよ!」と。

 耳を疑ったのは、私だけだろうか?私は、「『ここにあるのは』ってことですか?」と聞き返した。すると工場長は、「価格から考えれば、他も一緒だよ。全てが値段のつく素材でお金に変わるのに、捨ててしまう商売人はいないよ」と断言した。数年前に見た環境系ドキュメンタリー映画と話が違う。そう、私は「現場が大事」と知っているにもかかわらず、その映画を信じ込み、現場の声に耳を傾けなかったことを恥じて後悔した。

 だからこそ皮革について、ゼロから勉強し直した。まず革製品の高級なイメージのせいか、私は「皮そのものが高級」と思っていたが、必ずしもそうではなさそうだ。令和2年8月の国産牛の原皮輸出価格は、一枚当たり約834円。豚はもっと安くて、一枚当たり約275円。コロナの影響で、近年は原皮価格が地の底まで落ちているという。これは、比較的手頃な布帛の価格とほぼ変わらない。それに比べて一頭の牛からとれる肉は、アメリカ産で高くて数十万円、ブランド和牛にいたっては平均して100万~200万円。牛一頭が700kgとすると、肉になるのは約290kg(42%)で、原皮になるのは約56kg(8%)という。原皮だけのために畜産をしていたら、とうてい割に合わない。皮のためだけに命を奪うのはありえない事、むやみやたらに捨てられている現状はほとんどない事を理解した。だが、問題が存在しないわけではない。

 例えば、

 問題1:世界には一部であまりにも無惨に殺戮される現場がある。

 問題2:仮にレザーアイテムの需要が低下したら、副産物としての皮はただただ捨てられ、関係者の職は奪われ、闇での革の高額売買が始まり、なめしや革加工の現場はベールに隠れた産業と化す。

 問題3:ラビットやミンク・害獣とされる駆除動物・さらにはエキゾチックレザーと呼ばれるクロコダイル(ワニ革)・リザード(トカゲ革)・パイソン(ヘビ革)・オーストリッチ(ダチョウ革)・シャーク(サメ革)・スティングレイ(エイ革)・エレファント(ゾウ革)は、そのほとんどが食されないので、革製品のみのために殺され売買されているケースもある。

 問題4:確かに国産牛の原皮輸出価格は安いが、カーフスキンは例外。生後半年以内の子牛の原皮、カーフスキンは重量でさらに区別され、9.5ポンド(約4.3kg)以下のものは「カーフ」、9.5~15.0ポンド(約4.3~6.8kg)のものは「ヘビーカーフ」と呼ぶ。カーフは子牛の皮なので、1頭から採れるサイズが小さく、非常に高価。肉も同様、かなり高額で取引されている。皮にも肉にも柔らかさを求める気持ちはわかるが、そこは、めいっぱい生きたもので我慢できないだろうか?

 問題5:合皮やフェイクレザー、エコファーは、そのほとんどが石油由来。エコファーにおいては、リサイクル素材でもマイクロプラスチックを作り出している。地球に還りにくく、燃やせば有害。持続可能とは言い難い。開発にも、莫大な予算とエネルギーが使われている。

 昔はなめしの工程における排水問題が世界中で深刻だったが、少なくとも日本では改善の取り組みが進んでいる。「日本エコレザー」という基準があり、認定された革は、発がん性染料を使っていないことや、排水や廃棄物の適切な処理を厳守している。

 デザイナーである私が今できるのは、バランスを保ちながら、レザーの使用を徐々に減らしていくことだろう。例えば問題1については、トレーサビリティのある革を高い技術と動物への感謝の気持ちを持った企業から買い取る、またはゴミとなるパーツを受け取って職人の技術の価値や現状を伝えながらアップサイクルすることだ。問題2については、私がアンバサダーを務めるオランダ発のプラントベースドミートブランド「ザ・ベジタリアン・ブッチャー(THE VEGETARIAN BUTCHUER)」でも発信しているように、動物肉だけの選択肢を変えていくことだ。少しでも動物肉の消費量を減らし、いずれ環境と需要のバランスを取らなくてはならない。何年かかるかわからないが、悪質な育て方への取り締まりがもっと厳しくなり、バランスの取れた状態で動物生肉とプラントベースドが共存し、革やそれを扱う職人の仕事も今より規模は小さくなっても受け継がれてほしい。全国のジビエの問題と数年向き合う中、まるでかつてのネイティブアメリカンのように、山の民のように神に感謝して全てをいただくことへの責任と感謝を捉えた映像を見せてもらったことがあった。そのような精神で、動物や動物肉、革やファーアイテムと向き合い、長く使ってほしいと切に願う。

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