ファッション

「フミエ タナカ」の儚く美しい365日 “頑張りすぎなくていい”という思いをショーに込めて

 田中文江デザイナーによる「フミエ タナカ(FUMIE TANAKA)」は、2023-24年秋冬のファッションショーを3月21日に行った。会場は、1年前に前身の「ザ・ダラス(THE DALLAS)」からブランド名を変更後、初のショーを開催した恵比寿ガーデンプレイス中央広場。今季は「フミエ タナカ」としては3回目のショーであり、3部作の最終章だという。“365days”をテーマに、田中デザイナーがこの365日=1年を振り返るように制作したコレクションだ。

“自分をもう少しかわいがって、たまには休んだっていい”

 1年前の今日は、長引くコロナ禍で不安が募る中、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まり、世の中は暗いムードに包まれていた。田中デザイナーは「昨年のショーでは人々への感謝と、前進する勇気を込めた。けれど、私がみんなに『頑張って!』と言うことで、苦しい思いをさせた人もいたのかもしれない」と振り返る。「みんなはそれぞれで頑張っているし、もう少し自分をかわいがって、たまには休んだっていい。頑張りすぎなくていいんだよ、という思いを今回は伝えたかった」。

大切で儚い一日一日を振り返るコレクション

 今季のショーは、「フミエ タナカ」の昨年からの365日とリンクしている。ファーストルックは、グレーのヘリンボーン生地で仕立てたクロップドジャケットとワンピース、スカートをレイヤードしたスタイル。「ちょうど1年前は戦争のことで頭がいっぱいで、カラフルな服は作れなかった」と田中デザイナー。ミリタリーアウターやカーキのニットなど、ハンサムなルックが続く。

 そこから、穏やかなグリーンやボルドーへと色付き、幾何学柄のフリルドレスやボウブラウスなどシーンが華やかに移り変わっていく。ツノ型アクセサリーやレザーのロングブーツカバーなどのディテールから、得意とするエキゾチックなテイストも感じさせる。

 田中デザイナーは、昨年9月に「毎日ファッション大賞」で新人賞・資生堂奨励賞を受賞した。その美しい記憶から、フォーマルなモノトーンのセットアップやドレス、ゴールドブラウスなどをランウエイに送り出した。終盤には、秋冬の静けさを表すようにブラック&ホワイトの花柄のドレスを登場させ、ラストには、新たな命が芽吹くようにカラフルな造花を装飾したドレスで締めくくった。

「アルカンターラ」や「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」
とのコラボレーション

 今季は、イタリアのテキスタイルメーカーの「アルカンターラ(ALCANTARA)」と初めてコラボレーションしている。同メーカーの人工皮革スエードを、ネットに一つ一つ手で結んだフリンジドレスやスカートをはじめ、田中デザイナーの手描きの花柄をプリントした人工皮革スエードは、大きなパフスリーブのドレスやフリルトップス、大型バッグに仕立てた。

 また親交の深い志鎌英明デザイナーの「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(CHILDREN OF THE DISCORDANCE)」との初コラボも披露。志鎌デザイナーが手掛けたカモフラージュ風の森のグラフィックプリントをブラウスに、鳥や花のイラストをロングTシャツに乗せて提案している。アイウエアは、福井・鯖江に自社工場を構えるキングスター(KING STAR)との協業だ。

“一人一人が自分らしく心地よく、輝けるように”

 東京ファッション・ウイークの期間外に発表したのは、「(決まった日に)“やらなきゃいけない”ではなく、この日にこの場所で“やりたい”という気持ちを優先した」と田中デザイナー。ショーの日は、天赦日、一粒万倍日、寅の日の3つの吉日が重なる祝日で、「この特別な日に、昨年と同じ場所でショーを開催できた偶然性を大切にした」という。

 フィナーレでは、ショーに登場した45人のモデルたちが階段を上がり、一列に並んでライトをいっせいに浴びた。グリッターやラインストーン、金箔を顔にのせて輝く彼女たちのメイクは、「一人一人が自分らしく心地よく、輝けるように」という願いを表したものだ。

 眩しいほどに美しくエモーショナルなショーは、人生の儚さや、1日1日を大切にする気持ちに気付かせてくれるようだった。また「頑張りすぎなくていい」という田中デザイナーの優しい思いが込められた服には、着用者を応援するぬくもりがあった。

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