ビューティ
連載 ファッション業界人も知るべき今週のビューティ展望 第106回

店販にECにテナント 美容室のビジネスモデルは変わるか

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 ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、美容室のビジネスモデルの話。(この記事はWWDジャパン2023年2月27日号からの抜粋です)

【賢者が選んだ注目ニュース】
ミルボンが美容室との協働プロジェクトを開始 全国初出店は「ミンクス」
I-neが新領域のスキンケアと海外市場を強化


 僕が美容業界に入ったとき、「床屋談義をお金に変える」をテーマに掲げた。美容師は1回の来店につき2〜3時間ほど接客をして、ヘアケアやメイクの相談はもちろん、洋服の好み、仕事や家族の悩みまで、そのお客さまのあらゆる情報を知ることができる。そんな美容師の特質を活かせば、街のコンシェルジュになり得るのではないか。特にファッションとビューティは近い領域なので、掛け合わせればより大きなビジネスになり得るのではないかと考えていた。

 美容室という業態に着目すると、対㎡あたりの売上高が他業種に比べて低いことが出店の際のネックになることが多い。弊社が運営する「アルバム」銀座店は、「ホットペッパービューティーアワード2022」において最高賞の「GOLD Prize」を受賞し、全国約5万店舗中ネット予約売り上げが5年連続全国1位という実績をもつが、1日の集客人数は200人ほど。この200人に向けてより一等地に店を構えるとしたら、売上高に対するテナント料の割が合わないだろう。では美容室と無人型のセレクトショップを掛け合わせたらどうか。美容部員としても、アパレル店員としても、ポテンシャルの高い美容師が、まず美容室でさまざまな相談に応え、次に洋服、次にコスメと購入できたら、理想の変身が可能になるだろう。ファッションやビューティブランドとの共同出店という形を取れば、美容室のビジネスモデルでは叶わなかった物件への出店も可能になるかもしれない。ミルボンが新たに開始したサロンとの協働プロジェクト「スマートサロン」は、そこに目をつけているように感じた。ビューティーブランドも純粋な小売物販として考えると、美容室の集客人数では店販のみによるテナント料では採算は合わないかもしれない。しかしメーカーの打ち出す世界観やストーリーをなじみの美容師を通じて体験、説明されることは“真”のファンを確実に増やすことに貢献し、メーカーメリットにつながるのではないだろうか。類似した取り組みでは「アルバム」銀座店のような「ケラスターゼ インスティチュートサロン」が当てはまりそうだが、「スマートサロン」ではメーカーとサロンがより強くコラボしている印象を受けた。

「アルバム」が先陣を切ったサロンEC

 「スマートサロン」では、ミルボンの公式オンラインストア「Milbon:iD」が一つの鍵になっている。弊社も2019年に楽天市場に出店し、翌年に自社ECを立ち上げた。22年度のEC売上高は、前年比50%増の約6億円にのぼった。「アルバム」にはSNSで数十万というフォロワーを持つ美容師が複数人いるので、顧客向けにそれらの美容師1人ずつがショップを開設したことがあったが、それほどのインパクトはなかった。美容師1人1人に紐づくお客さまの人数の数百倍上をいくのが楽天市場やアマゾンなのだ。ただし楽天市場やアマゾンといったECモールでのサロン専売品の不正流通はかねてより問題視されてきた闇。弊社が楽天市場に出店したときのポイントは、メーカー公認のもとの出店だったということ。「アルバム」としての出店はかなり話題になったが、サロン以外の会社がECでサロン専売品を販売している不正流通問題に誰もスポットを当てずにやってきたのがまずかったのだ。我々は日本で一番予約を取るサロンを経営していることをお客さまへの信頼とし、「サロン名」=「ECショップ名」で運営することがサロン専売品を売る他のEC業者に対する差別化の武器になっている。

揺らぐサロン専売品の位置付け

 サロン専売品のECが徐々に解禁され販路が広がる中で、昨今ドラッグストアやバラエティーショップで販売されているヘアケアは1500円前後のものが増え、中には「美容師プロデュース」というものも増えてきたことにも注目したい。すると「サロン専売品とは何か」が疑問に思えてくるのだ。化粧品において国内で用いられる成分には法律上の決まりがあり、医師などにしか処方・販売できない医薬品のような商品はない。そこでポイントになるのは商品の打ち出すストーリーだろう。例えば「ボタニスト」の決めてはボタニカル、「ヨル」はナイトケアというように刺さるワードを掲げたストーリーでヒットが生まれたように感じる。響くストーリーで、ユーザーがそれを実感できるものが売れているのではないだろうか。すると、ますますサロン専売品とコンシューマー向け商品の垣根は無くなっていくように思う。そんなときこそ、美容師はお客さまと長時間接点を持てる利点を活かし、技術だけでなく、それ以外のモノやサービスを売ることにもっと向き合うと面白い可能性が広がるのではないだろうか。それはまさに、「床屋談義をお金に変える」につながる。

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