ファッション

「ナチュラルビューティーベーシック」復調に道筋 アルページュ野口社長の再生術

 TSIの主力婦人服ブランド「ナチュラルビューティーベーシック(NATURAL BEAUTY BASIC以下、NBB)」が復調へ手応えをつかんでいる。コロナ禍による働く女性の服装の変化で、値ごろなオフィスカジュアル服を提案してきた「NBB」は大きなダメージを受けた。22年3〜5月期の売上高はコロナ前(20年同期)の水準には及ばないもの、21年2月期との比較では9.5%増と上向いている。

 昨年9月、コロナの禍中で「NBB」の再建をミッションとして託されたのが、同じグループ会社のアルページュ社長でTSI第1ディビジョン長の野口麻衣子氏だ。同社の「アプワイザー リッシェ(APPWEISER RICHE)」「リランドリュール(RIRANDTURE)」などではセールを廃止するなど適量・適価の販売を推進している。「NBB」では、どのように浮上への道筋をつけたのか。

WWD:「NBB」の再建を任され、何から着手したか。

野口麻衣子・TSI第1ディビジョン長兼アルページュ社長(以下、野口):アルページュの5ブランドがそれぞれ数店舗から十数店舗の規模であるのに対して、「NBB」は約80店舗。初めは(売り上げなどの)数字のケタの違いに戸惑い、プレッシャーを感じた。ただ今では、ビジネスとしての規模の違いはあっても、アパレルビジネスとしてのキモになる部分は変わらないと思っている。

 就任してから、まず事業部メンバー全員と面談をした。分かったことは、同じ婦人服ブランドだから、ある程度の共通言語はあるということ。何より、メンバーの仕事への情熱や頭の中にあるアイデアは、アルページュで働く社員と何ら変わらないということだ。

 30年以上の歴史があるブランドで、いきなり入ってきた人間が「全部この通りにやれ」と頭ごなしに指示しても、うまくいくわけがない。だからアルページュのやり方をそっくりそのまま移植することはしなかった。80店舗を抱えるブランドの知名度、根強い顧客は、他にない強み。今までやってきたビジネスを否定せず、いかに今の時代に合わせたバランスや方向に修正するか。これが私のミッションだと捉えた。

WWD:「NBB」の不調の原因をどう分析したか。

野口:経営資料を見て、膨大な商品在庫量に驚いた。「NBB」はアルページュのブランドの競合としてベンチマークしてきたブランドだったが、近年は商品ラインナップがいまいち変わり映えせず、値引きをよくしている印象があった。時代の変化に対応した商品が作れずに、結果として余ってしまっている。余剰在庫が、ブランドの現在を象徴していると感じた。

WWD:商品企画をどのように修正した?

野口:商品企画の土台となる、着丈や身幅といった寸法のレギュレーションを見直した。どんな婦人服ブランドにおいても、ワンピースやスカートなど商品ジャンルごと、日本人女性の標準的な体形に合わせた寸法の目安があるはずだ。だが「NBB」では、この基準がずいぶん長い間アップデートされていなかった。「今の時代の空気感に合っているか」「自分たちが本当に着たいと思うか」を基に、全ての数字を細かく見直した。

 画一化・固定化していた商品ラインナップもテコ入れした。3月から都心の10店舗限定で “リミテッドエディション”を新規導入した。「NBB」は働く女性に向けた機能的で安心感のあるデザインが武器だ。洗ってもしわにならないブラウスとスカートのセットアップなどは、お客さまから根強い支持を得てきた。だが、商品バリエーションがこういった売れ線に偏るあまり、店頭から彩りが失われていたのも事実だった。 “リミテッドエディション”はジレやリラックスフィットのTシャツ、彩度の高いグリーンのパンツなど、これまでの「NBB」になかったトレンド性や新鮮なカラーパレットを加えている。ブランドの主要顧客層は40〜50代だが、“リミテッドエディション”を導入した店舗の3〜5月期業績は前年同期比36%増と好調で、特に20〜30代の購買の伸びが大きい。この秋には、展開店舗をさらに5店舗ほど拡大する。

WWD:アルページュのノウハウが生きた部分もあるか。

野口:主にデジタル活用の面だ。これからのアパレルは、デジタルを駆使してお客さまとの接点を増やし、同時にモノ作りから発信、販売までを連動させるビジネスモデルに変えていかないと生き残れない。アルページュはECサイトを起点とした店舗との相互送客がうまくいっており、この成功事例は「NBB」でも生かした。これまで全く取り組んでこなかったインスタライブを、まずはルミネ池袋店で最低でも週1回配信するようにした。ライティングやカメラの撮影手法などは、アルページュでやってきた方法を実践してもらっている。ライブ配信では新商品や売れ筋などを紹介して、店舗やECにお客さまに呼び込んでいる。インスタの公式アカウントには12万人のフォロワーがついた。これまでメルマガなどに限られていたお客さまとのデジタル上でのタッチポイントは、着実に広がっている。物撮り写真ばかりで単調だったECも、全ての商品ページにモデルカットを使うようにした。ECの3〜5月の売上高は前年同期比で86%増加した。

WWD:社員の働き方もデジタル中心に変わるか。

野口:デザイナーはECサイトでどのように写真で表現されるかまでイメージして服を作る必要がある。本社のPRスタッフも、店頭とコミュニケーションを取り、そのとき打ち出すべきアイテムをきちんと把握しておく。それぞれのメンバーが、自分の役割だけに捉われず、他のポジションとどうつながっているかを意識して仕事をしなくてはならない。そのような働き方ができる環境や組織作りを進めていく。

 この春にはブランドとして数年ぶりに外部向けの展示会を開催し、インフルエンサーやメディア関係者に商品を披露した。“リミテッドエディション”をはじめ、「着てみたい」「(雑誌撮影用に)商品を借りたい」など反応は上々だった。展示会は今後も定期開催する。新しいチャレンジへの評価や緊張感をプラスの刺激に変える、いい循環を作っていきたい。

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