「CEO特集2022」は、初めてファッション系サークルに所属する大学生にも取材に同行してもらった。業界や会社の未来を語る各社トップの想いを聞いた学生たちは何を感じ取ったのか。感想を寄稿形式で紹介しながら、その中の5人と座談会を開催して、次世代を担う学生たちがファッション&ビューティ業界に抱いた心の内を聞いた。
トップの姿勢から社内の風通しを実感
WWDJAPAN(以下、WWD):CEO取材に同行して、業界のトップにどんな印象を抱きましたか?
Keio Fashion Creator岩瀬ひより(以下、岩瀬):どのCEOも気さくで、社員との意見交換を重要視していました。いろんな声が上がるための環境づくりに取り組み、それでも声をあげられない人には自ら歩み寄っていた印象です。LGBTQなどへの配慮から先端技術まで興味の幅も広い。特に社会問題については、親族含めて私の周りの大人と違い「理解してくれているんだな」と思いました。
Rethink Fashion Waseda五十嵐文桜(以下、五十嵐):お客さまの声を大事にしている企業はすてきですが、実際拾い上げているのは最前線で働いている人たちだと思います。だからこそ、気さくでオープンなのは、とても大事。「学生の私でも話しかけて大丈夫な雰囲気」を作ってくださいました。
KFC長瀬唯(以下、長瀬):従業員の声に耳を傾けている会社は、福利厚生も充実していたようです。お客さまも大事だけれど、従業員への理解度が高い企業ほど、ブランドが育っている気がしました。リンワンの崔萌芽(さい・ほうが)代表は、事業継承した「リップサービス」に10年以上携わるスタッフの愛が問題にもつながっていると見抜いて進言したそうです。従業員を大事に想いながら、トップだからこそ冷静に分析されています。
KFC中村汐里(以下、中村):私は、TSIホールディングスの下地毅社長が印象的でした。サステナビリティに向けた取り組みとして初回の生産量を減らして様子を見ることについては、各所から異なる意見もあったようです。それでも負けずに、信じて、強い力で引っ張ろうとしていた姿が記憶に残っています。一方、「反発もある」こと自体も大事だな、と思いました。恐れずに自分の考えが言える環境にも風通しの良さを感じますし、社内の意見も多様な方がいいですよね。
「透明性のあるブランドから買いたい」という思いは一層強く
WWD:「異なる意見」と言えば、今回たくさん取材したメーカーと、今回は決して多くない小売店の間には、サステナビリティに対して、立場が違うからこその「異なる意見」があります。メーカーは廃棄しないように在庫を抑制しようとしていますが、一方の小売りには「お客さまに多種多様な商品から選んでいただきたい」や「前年を超える売り上げを期待したい」という想いも強く、適正な店頭在庫やセールの有無については、見解が分かれるときもあります。皆さんにとって、理想の小売りって、どんな姿でしょう?
中村:CEO取材の後に調べてみましたが、ファッション業界にとってセールは、本当に大きなイベントなんですね。もちろん私もセールに行きたくなるので必要な存在だと思いますが、余剰はない方が良いと思います。AI分析が進み、「この店舗では、ミニが売れる」「あのショップでは、プラスサイズの投入量を増やそう」と議論できるようになるといいですね。
Aoyama Fashion Association田口怜(以下、田口):私は、セールや初売りには行かないんです。人混みが苦手だし、迷った挙句「いらないもの」を買ってしまうことが多かったので。とはいえ、欲しいものがいつでも手に入る環境は大事だと思います。例えばボディースキャンを使ったセミオーダーなど、「自分にピッタリ合うもの」が確実に届けばと思います。私は「直接見たい派」なので、試着して、素材を確認できて、それからオーダーできるようになるとうれしいです。技術革新が進み、セミオーダーでも既製服でも、手に入るまでの時間が短くなればと思います。
長瀬:ショップが入店している施設としての姿勢も大事ですね。今、2つの商業施設とお話しする機会があるのですが、SDGsへの関心の違いを感じます。SDGsは未来に向けた活動や目標なので、若い世代のアクションが活発な印象です。時々、中高年は“置いてきぼり”になっているのかもしれません。若者と中高年のどちらをターゲットにしているのかも影響していると思いますが、サステナブルなブランドの積極的な導入などで姿勢に違いを感じることがあります。
WWD:具体的には?
長瀬:例えば、まだまだ無名のオーガニックやナチュラルビューティの導入や、その時のストーリーや背景にまで踏み込んだ紹介などで感じます。
WWD:そんなアクションに積極的な商業施設、店舗で商品を買っていきたい?
長瀬:意識していると思います。あるブランドが人権問題や工場監査などについてSNSで炎上していた時は、やっぱり購買を躊躇してしまいました。「透明性のあるブランドから買いたい」という思いは、強くなっています。
WWD:企業の姿勢をちゃんと知りたいと思ったとき、その企業が発信しているどういう情報に着目する?
五十嵐:私は商品をじっくり見ます。発信しているメッセージや体制と合わせて、実際どんな品質で、どんな成分・素材を使っているのかチェックしています。
中村:ホームページで社長らトップのメッセージ動画などを探します。あいさつで触れることや姿勢などを感じ取るようにしています。
STUDENTS' VOICES
三村実樹子(Keio Fashion Creator/東京大学工学部4年)
消費者の好みは多様化しているし、トレンドも目まぐるしく移り変わるので、過剰に生産して不良在庫を抱えてしまう背景は理解できますが、ビジネスや流通の在り方を考え直し、無駄や廃棄が少なくなるシステムに変革する必要性はかなり大きいように感じました。廃棄や不良在庫を前提としたビジネスや流通の在り方は、時代にそぐわないものになってきているように思いました。
樋口栞那(Carutena共同代表/上智大学4年)
全体的にとても刺激を受けることが多く、大変貴重な機会をいただきました。驚いたことは大きく分けて2つ。1つ目は大きな企業のトップであっても、かなり挑戦的で新しいことを始めたいと考えている方がいたことです。保守的で今の形の継承を考えている方が多いと思っていたのでかなり驚きました。2つ目は、自分から遠い社員のことも把握し、考えていることです。何千人もの社員を抱えているのにもかかわらず、1人1人の意見に耳を傾け、声を取り入れているところに感銘を受けました。ファッション業界の未来は、自分が思っていたよりも明るいと感じました。現在の社会状況を捉え、ファッションが変わっていくべきだと考えている方が多かったからです。それぞれ課題も抱えていらっしゃいましたが、その中でどう未来を見据え、行動していくかをキラキラした表情で語ってくださったのがとても印象的でした。
自分も環境問題の解決策を提示し、行動していきたいと強く思いました。正直、上の世代の方に対して「環境問題に関心がない」という偏見を持ってしまっていたのですが、私が行動するもっと前、何十年も前から行動されていたり危機感を感じていたりする方もいることを知り、衝撃を受けました。
百貨店の古い考え方に疑問を持っていらっしゃる方が多かった印象ですが、なぜ百貨店にこだわるのでしょう?現在のファッション業界はラグジュアリーブランドが作り出す「流行」に他の企業が賛同しているイメージですが、低価格のブランドが発祥の流行もあるのか知りたいです。
島田遼太郎(Aoyama Fashion Association/東京大学2年生)
CEOは、当然ながら人格的にも優れていました。会社のビジョンにとどまらず、日本のファッション業界の方向性にも強い関心を持っており、そのうえで「自社は、何ができるか?」を模索しているという印象を受けました。多くの企業が、その方向性にグローバル展開を盛り込めたら、もっと面白くなるのではないかと思います。個人的な願いですが、欲しい海外ブランドの商品がどこにも売っておらず、関税を払ってでも海外から取り寄せざるを得なかった経験などがあるため、どこからでも、欲しいものが簡単に入手できる仕組みを作ってほしいです。個々人がより最適なものを選べるようになると思うし、異国の文化との出合いは新たな文化の誕生につながります。
どのCEOもファッションの潜在性を強く信じており、ヘアカラー剤を主力製品とする会社のCEOでも「誰もが自分を表現できるような社会を作りたい」とおっしゃっていたのは、特に印象的でした。経営コンサルタントになるという自分の夢が実現できたら、共に日本のファッション業界を盛り上げていきたいです。
中村汐里(Keio Fashion Creatorプレスアシスタントチーフ/立教大学1年)
「押し付ける」のでなく「背中を押す形で関わる」アプローチ、サステナブルな取り組みは「やらなきゃいけないこと」ではなくて、「こんなにも利益につながる、楽しくてかっこいいこと」と発信したいという姿勢が印象的でした。サステナビリティがトレンドだから製品を出すというスタンスではなく、社員の意識から変え、工程まで重視し、それぞれの段階で発生する問題点をあぶりだし、できることを着実に行っていくという話も印象的でした。社員の意識から変えるため、例えば社内ではペットボトルではなくアルミ缶入りの飲み物の販売に変えるなど、身近な社内環境から働きかけている話も心に残りました。別の企業のトップは、「工場での生産数を減らし、売り切り、セールは行わない」と強くおっしゃっていました。とてもリスキーで社内からも反発があるとのことですが、それでも「その先の未来を信じて絶対に成し遂げたい」とおっしゃっていました。AIなどで適正量を割り出し生産するというシステムを当たり前、主流にすべきではないかと思いました。こんな姿勢の企業は、現在どのくらい存在するのでしょうか?また、どんなハードルが存在するのか知りたいです。ドキュメンタリー映画「The true cost」を見てから、自分の買った服を作った工場で働く人々のことが気になるようになりました。発展途上国の工場に発注する企業はたくさんあると思うのですが、実際どのような環境なのでしょうか?下請けの人々ともサステナブルな関係を構築できているのでしょうか?
ほかにも、「有能なクリエイターに投資したい」とおっしゃっていたのが印象的でした。今後はデザインやシステムの開発力など何か秀でたものが必要になるのだと感じ、「のんびりと大学生活を送ってはいられない」と強く感じました。自分の勝負どころを持つためにもさまざまなことを学んで、可動域を広げつつ、スキルや強みを身につけることが必要だと思いました。
石橋京(Keio Fashion Creator/慶應義塾大学2年)
私たちZ世代と呼ばれる世代は、比較的幼い頃からデジタル技術に触れてきました。だからこそ私たちの世代がITをフル活用して世の中を活性化できればいいなと考えています。取材に同席させていただいた企業の街づくりに興味を持ちました。単にすべてを新しく開発するのではなく、歴史ある建物などは残しながら地域を活性化するというビジョンにとても共感しました。ITの技術も用いて、スマートシティー構想をあらゆる地域で実現できたらいいなと思っています。
常識や慣習にとらわれず、いろいろな視点から物事を捉えていきたいです。失敗を繰り返してこそ成功できるので、若く失敗できるうちにたくさん挑戦したいと思います。
長瀬唯(Keio Fashion Creator代表/慶應義塾大学2年)
取材に同行した企業は、いずれも自社あるいは自社製品の発信力を課題に挙げていました。コロナ禍はもちろん、SNSの普及やEC利用率の向上なども相まって、企業が自社の発信方法についてますます熟考している印象です。外出の機会が減少して店頭を訪れることが少なくなった今、ブランドのイメージはSNSで公式に発信する写真や不特定多数の消費者に委ねられています。でも店内の雰囲気や店員の接客もまた、ブランドイメージを形作る重要な要素でしょう。オンライン上での発信が必要不可欠となった新しい時代の中でも、多角的な視点を常に持ち続けることが企業の拡大・発展につながるのだと感じました。
CEOの方々の話を聞いて、自分が何かを供給する側の立場になったとしても、1人の消費者としての感覚を忘れてはならないことも学びました。あるアパレル企業のトップは、10年以上働く従業員はブランドへの愛があるからこそ、冷静な分析ができていなかったと言います。私もKeio Fashion Creatorに3年間所属する中で、団体のブランディングや活動内容については内部の人間としての視点からでしか考えられていませんでした。何かを社会に発信・拡散したい場合、第三者的視点を持つことは非常に重要だと改めて気付かされました。
若者のファッション離れを強く感じていた私にとって、今回の取材はとても有意義なものでした。この話題をトップのお1人に持ちかけると、責任は若者にあるのではなく、ブランドの発信力・経営力の欠陥に原因があるのだと答えてくれました。確かにブランド側がSNSをはじめとした若者の動向に追い付いていない面もあるでしょう。1人の若者として、この課題に向き合いたい。周りは自分の感性というよりはむしろ「〇〇が着ていたから、〇〇でお勧めしていたから」という理由でファッションを選んでいますが、私はより多くの若者が自分のスタイルを見いだすことを面白いと感じられるようになってほしい。個性を楽しむ若者が増えることは、結果としてSDGsへの関心やアパレル業界に対する意識を変えると思います。
後藤南美(Rethink Fashion Waseda/早稲田大学4年)
縮小していくといわれ、さらにコロナ禍の影響でますます厳しい状況にある業界ながら、さまざまな策をとりながら業界を盛り上げようとするCEOの方々の熱い思いに触れました。今後に期待しています。DXが進み、デジタル上での購買行動が盛り上がる中、改めて対面での接客による顧客とのコミュニケーションも大事になると予想できました。しかし賃金の低さから考えても、販売員を志す若者は減っています。業界・企業として、策を打つべきだと思います。
サステナビリティに関する情報発信には、個人でも挑戦したいです。環境や人権問題に関する情報を能動的にチェックしない人の意識を変えられるよう働きかけたい。まずは家族や友人の意識を少しずついい方向に変えたいと思います。「サステナビリティ」と聞くと、ファッション業界は環境問題ばかり取り上げ、多様性などの人的問題がおろそかにされているように感じます。働く側の多様性(国籍、セクシャリティーなど)と、メディアが取り上げる美しいとされる理想像の多様性については、日本は欧米諸国と比べてまだ遅れている印象です。白人や、痩せ型の体形のモデルのみを起用するといった、画一的な美の像がいまだに存在することに対して、これからどれほど変わっていくのか疑問に思います。
岩瀬ひより(Keio Fashion Creatorプレスチーフ/慶應義塾大学2年)
皆さん「SDGsがより生活に浸透していく」とおっしゃっていましたが、一番関心を持っているのは私たち若者世代だと思います。今は企業の方と関わる機会が多くありませんが、社会が変わる中で現状を社会人の方から教えていただく機会や、逆に学生が意見を言えるようなチャンスがあれば、SDGsはもっともっと発展していくのではないかと思いました。
同じく皆さん「まずは行動が大切」とおっしゃっていたので、学生のうちにいろいろなことにチャレンジしてみようと思いました。「うちには自分で頭を使い考えることができる社員しかいない」とおっしゃっていたトップは、それが取引先からも評価されていると続けます。私も“考え癖”をつけていこうと考えました。
CEOも社員も、LGBTQやSDGs、女性の社会参画など多方面に興味・関心を持ち、知識が豊富な印象を受けました。これは、この業界の特徴なのでしょうか?