ファッション

「オーラリー」はなぜ“伝わりづらい服”でパリコレに挑み続けるのか 22-23年秋冬ショーに密着

 「オーラリー(AURALEE)」は、2022-23年秋冬コレクションをパリ・メンズ・ファッション・ウイークの公式スケジュールで22日に発表した。パリ・メンズで発表した映像は、東京で20日に開催したショーの様子を収めたもの。19年3月以降はパリコレのスケジュールに合わせて発表を続けており、リアルとデジタルを合わせて今回で7回目の参加となる。パリコレといえば、メジャー級のメゾンやビジネスの飛躍を狙う中堅が集うビジネスの場であり、鼻息の荒い新人が目指す夢の舞台でもある。だから、クリエイションは総じて暑苦しくて強い。そんな場所に、シンプルでベーシックな「オーラリー」はなぜ参加し続けるのか。ショー開始まで密着し、その理由を探った。

パリコレ参加後の効果は

 ショー当日は本番5時間前の朝7時に集合だった。この日の東京は雲ひとつない晴天で、早朝は日差しの暖かさと風の冷たさが入り混じる心地良い空気が会場周辺を包む。場所は東京・南青山のビルで、同ブランドのアトリエのすぐ近く。岩井デザイナーは日常の通勤と同様に自転車で到着し、リラックスした表情で小走りしながらバックステージに現れた。「会社からすぐ近くでいつもの光景だし、ショーは小規模だからほとんど知り合いしか来ない。昨日から楽しみにしていたんですよ」とナーバスな様子は一切ない。会場の席数は約50で、ショーはメディアや知人向けと、バイヤー向けの2回を行う予定だ。岩井デザイナーはスタッフへの挨拶をひと通り丁寧に済ませると、ステージチェックに向かう合間に本音を口にした。「実は、パリコレに参加する意味について最近考えることも多かったんです。うちの服は伝わりづらいから、ああいう舞台で発表し続ける意味はあるのだろうかって。今回も参加するかギリギリまで悩んでました」。しかし、パリのファッション・ウイークに参加してから海外の取引先が3倍近く増え、現在は約60アカウントで販売している。それでも「取引先からじわじわ広がったのだと思います。あとは『ニューバランス(NEW BALANCE)』とのコラボ。パリコレに参加した手応えという感じではないんですよ」。最終的にはチームメンバーの思いも汲み取って、今シーズンも継続する決意を固めたという。

 モデル17人が会場入りすると、リラックスしていたショースタッフたちにも徐々に緊張感が漂う。今日披露するルックは合計40体で、ブランドのスタッフもフィッターとしてバックステージに加勢。リハーサルまでの間にルック撮影も同時に行い、ほぼ定刻通りにリハーサルがスタートした。会場は、木材を壁面と座席に使用したクリーンな空間。ライトの明るさの微調整により、目に見える色のニュアンスを確認する。ここまでで想像していたバックステージの慌ただしさはほとんどなく、全てがスムーズに進行していった。

 タイムスケジュール通り、11時ぴったりに客入れがスタート。ついさっきまで無機質だった空間が、いよいよショー会場らしくなってきた。終始リラックスしていた岩井デザイナーも、さすがに本番前は緊張しているはず。そう思って眺めていると「やることないな。どうしよ」とつぶやきながら行ったり来たりしている。全く変わっていなかった。ファッションショーなのでそれなりの緊張感やドタバタ感ももちろんあるのだが、「オーラリー」のコレクションをまとったモデルやチームの和やかさ、そして岩井デザイナーの“普通の人”感によって柔らかい雰囲気を残したまま、ショーが始まった。

伝えたかったのは空気感

 コレクションは、ニュートラルカラーのスタイルで始まった。「オーラリー」では定番のカラーリングではあるものの、素材の主張がいつもよりやや強く、レイヤードや袖をたくし上げるスタイリングでそれをさらに強調させる。岩井デザイナーのコレクションには、テーマが存在しない。今シーズンの出発点は「ツイードのような凹凸感のある素材が作りたかった」と説明する通り、種類が異なる複数のツイードが連続。見た目こそ重厚ではあるものの、ツイードはどれもなめらかで軽い。起毛感たっぷりなヘリンボーンのコートはふんわりと膨らみ、岩手・花巻市の日本ホームスパンと作ったホームスパンのセットアップやワンピースの肌触りはホームウエアのように優しい。ほかにも縮絨ウールや透けるほど繊細なニット、前シーズンから試みている環境に配慮した素材ではオーガニックコットンや生分解性ナイロンを用いるなど、生地問屋が背景の強みを生かした個性豊かな上質素材がそろう。コレクションは素材のアイデアを起点に、1990年代のリッチで少し違和感のあるムードを加えていったという。また重厚な素材感を軽やかに見せるため、得意とするイージーフィットのシルエットにアウトドアウエアのフォームをミックスした。ブランド史上最も薄いナイロン素材は、リップストップにして強度を保ち、中綿を入れたブルーのセットアップは、鮮やかなスキーウエアのようだ。2019年から協業している「ニューバランス」とのコラボレーションも継続。今シーズンは“XC 72”をベースに、「オーラリー」らしいベージュやブラウン、スモーキーなブルーのスニーカーが登場した。発売時にはホワイトも加わり、計4色がそろう予定だ。ほかにも「フット ザ コーチャー(FOOT THE COACHER)」とのブーツや「ブレディ(BRADY)」とのバッグ、岩井デザイナーの地元である神戸の靴職人と製作したウエスタンブーツも存在感を放っていた。BGMに使ったロージー・ロー&デュヴァル・ティモシー(ROSIE LOWE & DUVAL TIMOTHY)とムラトゥ・アスタトゥケ(Mulatu Astatke)のスローテンポな楽曲や、フィナーレでモデルたちが談笑しながら帰っていく演出など、会場にはこの日の天気のような心地良い空気が流れていた。

3年前から一貫している思い

 「ショーでうちのルックを1体見ても、たぶん何も分からないと思うんです。でも例え1体で伝わらなくても、3体、4体と続くうちに少しづつ空気感が生まれる。それを何となくでも感じてもらえたら、こんなうれしいことはありません」――岩井デザイナーの「空気感を伝えたい」という思いは、同ブランドが初めてパリコレに挑んだ19年から一貫しており、ショーにこだわる理由もここにある。多くの人が「オーラリー」に抱く“シンプルでベーシック”というイメージは、時に“真面目で普通”と誤解されることもある。確かに、派手なデザインや柄はほとんど登場しないし、あっと驚く仕掛けもない。でも、ブランドがまとう清涼感の内側には、“普通の人”に見えて、実は職人肌で頑固者の岩井良太が毎日深夜まで練りに練ったこだわりが過剰なほど詰まっている。明らかに普通ではない。手に取れば良さが分かる、という考えは瞬間勝負のショーでは通用しないため、「オーラリー」はこれからもさまざまな手段で空気感を伝える表現に挑み続けるのだろう。最後に、パンデミックが終息したらまたパリでショーをやりたいか聞いてみた。「やりたくないけど、やりたいです」。

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