ファッション

「ロエベ」「ディオール」を絶賛も「ジバンシィ」には辛辣 海外メディアのパリコレ賛否両論

 この1年半のコレクション発表は、パンデミックの影響によってデジタルが中心となった。多くのブランドがデジタルの発信力を信じて、ショーに一般視聴者を包括的に取り込むことに躍起になっていた。しかし、結果的にブランドからは「デジタル式の発表ではバズらない」という声の方が多かった印象だ。各国ジャーナリストのデジタル発表のリポートを読んでも、熱量が明らかに下がっている。しかし2022年春夏シーズンのパリ・ファッション・ウイークは多くのブランドがリアルなショーを復活させ、デジタルとリアルの両方でアプローチを試みた。各ブランドはデジタルを活用し、ショー会場と一般視聴者との壁をどのように破壊するか、というのが隠れたテーマの一つになっているようだった。

 加えて、多くのデザイナーが今季を「新しい時代」と表し、「パンデミック前の生活に戻るのではなく、ニューノーマルを迎える」と強調していた。ニューノーマルとは?ソーシャルディスタンスを守り、マスクを着用し続け、挨拶のハグがなくなること?ーーその答えは「ノー」である。デザイナーが願う“ニューノーマル”とは、個々の精神性や社会の道徳といった意味合いが強いようだ。スピリチュアル(占星術や開運術など)や政治への関心の高まりは、目視できない“思想”が個人の人生で重要性が増していることを示しており、“ニューノーマル”の一つである。こういった社会変化を汲み取り、各デザイナーは自身のフィルターを通して“ニューノーマル”時代の装いを打ち出した。そして現地取材を行ったジャーナリストは熱量高く、各ブランドの歴史と社会潮流を踏まえてコレクションを読み解いた。ここでは、各紙に掲載された欧米のジャーナリストの講評を紹介する。

BALENCIAGA
エンタメ性は評価も服への言及は少なめ

 “ショーと画面の向こうの一般視聴者の壁を破壊する”という点では、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」は成功したブランドの一つである。パリ・シャトレ座のスクリーンで上映されたのは、ルックをまとったモデルだけでなく、来場したゲストがフォトコールに応える様子だった。最初はどれがルックで、どれがゲストなのか分からないほどリアルだ。その後に上映したアニメ「ザ・シンプソンズ」とのコラボレーション映像「Simpsons I Balenciaga」は、“観客が主人公”をテーマにした。つまり、リアルのパフォーマンスではゲストやカメラマン、観衆全てを演出の一部として取り込むことでインクルージョンを表現したのだ。多くのジャーナリストは現場の盛り上がりを「素晴らしいパフォーマンスだった」と評価した。批評家のサラ・モーア(Sarah Mower)は「ヴォーグ ランウェイ(Vogue Runway)」で、「『バレンシアガ』は非常に多くのデジタルフォロワーを持ち、ブランド全体がエンターテインメントに移行している」と記した。ほかにも、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)を「才あるエンタテイナー」と表するジャーナリストもいた。だが、コレクションよりもエンターテインメント性が際立ったため、肝心のルックについて詳しく触れた記事は少なかった。

 なおフリードマンは「今季の『バレンシアガ』に匹敵するのは『アンリアレイジ(ANREALAGE)』」とも述べている。「森永邦彦デザイナーは映画製作者の細田守と協力して、想像と現実の魅惑的な対話を通して、アニメと多彩なドレスを組み合わせたサイケデリックなコレクションを制作した」と評価した。

VALENTINO
「メゾンは正しい方向に向かっている」

 「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は、カフェという日常シーンを融合させてラグジュアリーをデイリーに見せる試みだ。会場内をパリのカフェのようにし、周辺の通りも貸し切って近隣のカフェのテラス席からも一般の人々がショーを鑑賞した。今季の注目ポイントは、5つのアーカイブを忠実に蘇らせたことだろう。クチュールというメゾンの価値を日常に持ち込むという新たな指針であり、「メゾンの遺産が生き生きとコンテンポラリーに見える」と称賛するジャーナリストもいた。「ル・フィガロ(Le Figaro)」のヴァレリー・ゲドン(Valerie Guedon)は、ストリートキャスティングで一般人もモデルに起用したことに触れ「着る人の個性により、現代性が生まれることを示した。(中略)昔からプローポーションも生地も変えていないのに、現在のために作られたルックのように見えた」と評した。「ファッション・ネットワーク(Fashion Network)」の批評家ゴドフリー・ディーニー(Godfrey Deeny)も「新しいエネルギーを持っていた」と述べ、「マーチャンダイジングの天才として知られる新CEO(最高責任者)のヤコポ・ヴェントゥリーニ(Jacopo Venturini)が就任以来、初めてのショーだった。『ヴァレンティノ』の売り上げは数シーズンにわたって振るわなかったものの、外の世界への扉を開くというアイデアはとてもいい。新しいCEO、新しい社員、新しいランウエイのコンセプトとアーカイブのライン――メゾンは正しい方向に向かっているようだ」と綴った。サラ・モーアは、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)の手腕を特に評価した。「民主化させて、新世代の消費者を引きつけるブランド作りは、今日のほぼ全てのクリエイティブ・ディレクターの仕事と責任である。しかし、ビッグメゾンの製品や遺産を守り、滑稽に見せず、品位を落とさずに任務を果たすことができる人物はまれであり、ピッチョーリは全てを成し遂げている。今季のショーは彼が信じる未来が現実的だと感じさせ、社交的でリラックスしたお祝いの瞬間のようだった」。

DIOR
「“バー”ジャケットのループから解放された」

 マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)による「ディオール(DIOR)」も、新たな方向へと舵を切った。今季は、メゾンの3代目デザイナーとして活躍したマルク・ボアン(Marc Bohan)が手掛けた1961年の“スリムルック”コレクションに焦点を当て、カラフルでミニマルに仕上げた。ショー会場はイタリア人アーティスト、アンナ・パパラッチ(Anna Paparatti)が64年に発表した作品「ナンセンスのゲーム(Il Gioco del Nonsense)」をベースに、ボードゲームのような円型ステージを設置。これまでにキウリが手掛けた、創設者のアーカイブを使った”バー”ジャケットとミドル丈レングスのスカートを軸にしたコレクションよりも、快活で若々しさがみなぎっていた。これまで、フェミニズムをテーマにし続けるキウリのメッセージ性は評価される一方、コレクション自体は賛否両論だった。しかし今季は、「時代のムードをくみ取っている」と高評価だったようだ。

 ヴァネッサ・フリードマンは、「キウリは“バー”ジャケットのループにはまっていたが、解放されたようだ」と述べた。「シアーなタキシードシャツ、グラフィックが描かれたビニール素材のミニスカート、オートクチュールのイブニングドレスの下には肌と同じ色のボディースーツを着用させることで、下着や胸を見せないようにした。これは、真のフェミニストの意思表示の一つのようであった。『ナンセンスのゲーム』と掲げられたスローガンは、ファッションに対しての見解をこっそり揶揄しており、メゾンが前進していることを表していた」。「ル・フィガロ」のエレーヌ・ギヨーム(Helene Guillaume)も同じく“前進”という言葉で評価した。「キウリは、私たちが前進するために、過去は養われた貯水池であることを再び思い出させてくれた」。サラ・モーアも「ビンテージ・リバイバル主義ではなく、現代性を宿している」と賞賛する。「スニーカーやフラットのクロスレースのサンダル、モダンなメリージェーンに至るまで、キウリは実用的なデザイナーであり、この瞬間のムードを読み取ることに目を向けている。60年代のユースクエイク(若者たちの行動が巻き起こした社会の地殻変動)について聞いたことがない若い女性にとって、ここには関連することがたくさんあるのだ」と締めくくった。

 60年代と現在の社会背景を重ね合わせて読み解くジャーナリストは多く、なかでもスージー・メンケス(Suzy Menkes)は自身のインスタグラムに書いた講評で、避妊薬について触れた。「2022年の夏、脚を露出することに驚きはないが、1960年代にスカート丈の上昇は、アティチュードの変化とピル(避妊薬)の登場の両方を伴って女性の自由を象徴していた。歴史上初めて、女性は選択する権利を持ったのだ。(中略)出産に関する問題が起こっている現在のアメリカでは、このショーは表面的には明るい一方、いくつかの深い意味合いも感じた」と記した。避妊薬は60年にアメリカで初めて認可された。アメリカのドナルド・トランプ(Donald Trump)前大統領は人工妊娠中絶禁止を政治公約の一つに掲げて当選を果たし、アメリカでは避妊・中絶に関する問題が再浮上。ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領になった現在も、中絶を禁止する州法の施行と反対派の間で衝突が起こっている。欧州では、ポーランドで同様の問題が発生しており、昨年に中絶厳格化の法が制定された。

 男性であるゴドフリー・ディーニーは、スポーティーなルックに着目し、キウリに取材を行ったようだ。「非常にグラフィックなショーは、大胆で鋭いスポーツの感覚を持ち合わせていた。キウリは『スポーツは女性の解放に重要な役割を果たしてきた。女性は好きなスポーツを行うためや、オリンピックなど国際大会に出場するために戦わなければならなかったことを覚えておく必要がある。そして、それは今でも続いている。女性がスポーツをすることを許されていない国はまだたくさんある』とため息をついた」。ショーに登場したランニングシューズやバミューダパンツ、ボウリングバッグなどは“ディオール バイブ(DIOR VIBE)”という新ラインとして、2022年春にスタートする。

 今季の「ディオール」には、女性の権利や命に関する問題など、さまざまな議題が込められているようだ。掘り下げていくと重いテーマが潜んでいるものの、表面的には“深刻なマインドから自分を解放したい”という、アフターコロナ時代の入り口にいる私たちの気持ちを後押しする極めてポジティブな内容である。筆者は、“ファッションをゲームのように楽しむ”という提案には賛同するし、勝敗の結果ではなく、こんな時代にファッションで自分自身を解放する“過程”を楽しみたいと思った。

LOEWE
“ボディシェイプの衝撃”、再び

 レッドカーペットもカフェもゲームボードもない、無機質な空間で行われた「ロエベ(LOEWE)」のショーが、結果的には今シーズンで最も印象に残っている。おそらく、リアルのショーとデジタルの映像から感じ取れる感覚に、最も差が生まれるショーだったからだ。なぜなら、彫刻的で不自然なプロポーションや、ランウエイの入り口から出てきて奇妙なシルエットが浮かび上がる瞬間、正面の緊張感と後ろ姿の遊び心といった、三次元での表現が際立っていた。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)は今季、ルネサンス期の画家ヤコポ・ダ・ポントルモ(Jacopo da Pontormo)の作品から着想を得て、美術様式“マニエリスム”をファッションで表現した。それは、世界が再始動するこの瞬間の複雑さと混乱の表現でもあったようだ。アンダーソンは「神経症的な精神を持ったポントルモの絵に触発されて、コレクションをヒステリックに見せたかった。なぜなら、今この瞬間が奇妙だから」と語っていた。

 複数のデニムジャケットのドッギングや、ドレスの穴から足を出す変形デザインは過去にもあったものの、全体として実験的で斬新なスタイルだ。スージー・メンケスは「『コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)』が25年前にファッションの歴史を作って以来見られなかった、“ボディシェイプの衝撃”を生み出した」と表現。「パワフルなショーは、ファッションの感覚と緊張感を強調しているように見えた。並外れたショーとして見られるだろう」と7枚の写真のキャプションに記した。サラ・モーアもアンダーソンをたたえた。「バースデーケーキのロウソクやマニキュアのボトル、せっけんの形をしたヒールのシューズ。硬いテディベア生地のラベンダーのバッグ。“意味”をなすものは何もなかったが、それがこのコレクションの大胆さと魅力だ。私たちは非現実的な時代を生きている。アンダーソンはそれを理解し、反映させている。このようなファッションの実験は、最近では非常に珍しいこと」。ゴドフリー・ディーニーは、今季の主要4都市の中で「AZファクトリー(AZ FACTORY)」をのぞいて「最も魅力的で、ほかよりもはるかに優れていた」と絶賛。エレーヌ・ギヨームは、スペイン生まれのブランドである「ロエベ」の芸術的感性に言及した。「最後の1秒までゲストを魅了し続けた。スペインの超現実主義、サルバドール・ダリ(Salvador Dali)、ルイス・ブニュエル(Luis Bunuel)、なかにはクリストバル・バレンシアガ(Christbal Balenciaga)の要素もつかんでいた。(中略)胸の形のシリコンを取り付けたドレスは、イヴ・サン・ローラン(Yves Saint Laurent)が1969年に彫刻家クロード・ラランヌ(Claude Lalanne)と共同制作した作品にも匹敵する出来栄えだ」と絶賛した。一方で、ヴァネッサ・フリードマンはやや冷めた反応で「活気に溢れ、不快だった。“神経質、サイケデリック、ヒステリック”とアンダーソンはショーノートに書いた。あぁ、そうだろう。Welcome to now」という感想だけ記した。

 知的で不気味で奇妙なコレクションは、消費者にとっては好みが分かれるだろうし、コマーシャルピースにどのように落とし込まれるのか現時点で明確ではない。ただ、「ロエベ」が新しいステージへ駒を進めことと、アンダーソンは派手な会場装飾に頼らず、ルックのみで見る者に訴えかけることができる、優れたデザイナーであることは確かだった。

GIVENCHY
マシューの手腕に賛否

 「ロエベ」でアンダーソンが高い評価を得られるのは、メゾンの歴史が皮革職人によるレザーグッズで始まった点にもある。オートクチュールで始まった「ジバンシィ(GIVENCHY)」や、上記に挙げたブランドでは、批評家による判断基準は少し異なる。それは主にサラ・モーアが述べた通り、遺残を守り、滑稽に見せず、品位を落としていないかを見ているようだ。最近では親会社のコングロマリットが遺産を守ることを重視していないように見えるケースもあるが、本来は創業者の精神や美意識を受け継いでいることが重要なはず。そのためにクリエイティブ・ディレクターは、メゾンの歴史と創業者のデザインを深く理解していなければならない。今季の「ジバンシィ」は、その点でジャーナリストから批評を受けた。

 ヴァネッサ・フリードマンは「昨今のファッション業界はサイクルが速く、“ビンテージ”は昨シーズンを含み、10年前の作品を遺産の一部としてみなされる」と明記したうえで、「これによりメゾンの王冠を相続したデザイナーに、遺産を継承しないといけないという重圧を軽減することができた。しかしそれはまた、何らかの断絶を生み出した」と、自身の見解を続ける。「鮮やかな色と絵のシンボルで知られるアメリカ人アーティストのジョシュ・スミス(Josh Smith)とのコラボレーションはクールだった。しかし、かつてオードリー・ヘプバーン(Audrey Hepburn)のエレガンスに根ざしたオートクチュールブランドの『ジバンシィ』と、スミスに何の関係があるのかと尋ねられたとき、マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)は驚いた様子でこう答えた。『この協業は私にとって本当に個人的なことです』。今の彼には十分な理由なのだろう。問題は、ウィリアムズが就任してから1年経った今でも、彼の『ジバンシィ』が何であるかがほとんど不明であるということ。(中略)多くの材料をミックスしたコレクションは興味深いが、思慮が足りず無分別で、全てを融合させるには不十分だ」。エレーヌ・ギヨームも同じようなことを述べている。「現代はSNSで個性を主張し、その中のみで生きている人もいる時代で、ファッションは目立つための道具にすぎないのが現実である。その意味で、ヘプバーンが着用したブラックドレスは、今日のデザイナーの評価を上げたり下げたりするポップスターや、インフルエンサーにとってほとんど魅力がない。(中略)ウィリアムズの演劇的でインスタ映えするスタイルは、創設者の紳士なアティチュードと、後に引き継いだクリエイティブ・ディレクターらの何にも関連性が見られない」と批評。しかし、アトリエで制作された職人技を感じるディテールや仕立てについては評価した。スージー・メンケスは、その他のブランドに比べて圧倒的に少ない1枚だけの投稿でコメントした。「ウィリアムズによる『ジバンシィ』初のリアルショーで私が最初に行ったのは、優雅な紳士だった創設者のことを頭から一切取り除くことだった。来シーズンにオートクチュールを発表予定のデザイナーは、歴史が予期していたものとは異なる道を歩んでいる。(中略)だから私は歴史を無視して、服そのものを見ることにした。すると、それらは非常に素晴らしかった」と評価した。「ヴォーグ・ランウエイ」でもアンダース・クリスチャン・マドセン(Anders Christian Madsen)が肯定的な見解だ。「ウィリアムズが描いた死神を含むスミスの作品では、2人の間の創造的な対話が最も雄弁に表現され、複雑なニットウエアと革のトップスと結合し、透明な生地のフィルターを重ねて一種の幻想を生み出していた。ルックは“ただの”ストリートウエアだったが、テクスチャーに対するウィリアムズの情熱を表していた。ストリートウエアのデザイナーがクチュリエになりつつある昨今、ウィリアムズはこのような実験のためにアトリエを上手く利用するだろう」。

 ユベール・ド・ジバンシィは、クリストバル・バレンシアガに憧れてデザイナーを目指し、その後も師の教えを聞き続けて成長したのはよく知られていること。現在もその構図は引き継がれており、ストリートウエアのデザイナーがクチュリエになり、「バレンシアガ」の後を追って「ジバンシィ」がクチュールを再開させる。LVMHとケリング(Kering)のパワーゲームも含めて、来年1月に発表が噂されている『ジバンシィ』のクチュールには、いろいろ意味で注目が集まりそうだ。

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