「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事はWWDジャパン2021年9月27日号からの抜粋です)
笑顔に見える肌作り……スキンケアのテーマである。スキンケアでなぜ笑顔?そういう違和感さえもが、何だか新鮮に思え、ワクワクさせられる。いうまでもなく、スキンケアは終始脇目もふらずに若く美しい肌を追い求め、年齢と戦うことだけを考えてきた。それ以外の軸は全く持たなかったのだ。「笑顔に見える」など予想もつかなかったベクトル。でも確かに「どう見えるか?」という視覚的スキンケアが、これまで全く研究されてこなかったのは正直もどかしかった。肌の美醜をただ近視眼的に見るだけでなく、もっと客観的に大局的に「その肌がその人をどんな印象に見せているのか?」そういう視点を持つべきではないかと。雑誌レベルでは、幸せそうな肌、愛される肌が追求されてきたけれど、肝心の化粧品メーカーにそういう視点はあまりなかった気がする。
もちろん、どんな印象を作るにしても、肌は美しいことが大前提。ただ本来、肌ってもっと饒舌なものだと思うのだ。みんな第一印象で相手の肌を見て、人となりや暮らしぶりを瞬時に占っている。無意識のうちに肌を読んでいるのだ。とすれば、笑顔に見える肌は、まさに幸せそうな愛される肌、最も良い人生を送れる肌と言える。スキンケアもそこまでの広い視野で人をより良き方向に導いて、それこそ人生に関わるような大きなスケールを持つべきではないのか。
例えば「オルビス」は、大人肌を意識したシリーズ“ユードット”で「真顔が笑顔に見える肌の生き生き感はどこから来るのか?」を丁寧に分析し、“細胞一つ一つにエネルギーをめぐらせる”というアプローチを打ち立てて、笑顔に見える肌の条件一つ一つをクリアする化粧品を作った。また、「スック」の新しいスキンケアライン“アクフォンス”も“笑顔に見えるような肌”とはどんな肌かを研究した上で、「澄み切った艶肌」という一つの着地点を見つけ、そこに一気に持ち込むスキンケアを完成させている。これに先駆け、頬の“つや玉”こそが人が幸せそうな笑顔に見える決め手という研究結果を提示したのは、いうまでもなく資生堂。
そして今シーズン、絶対忘れてはいけないのが、笑顔になるシートマスク“スマイルパフォーマー”を発売した「カネボウ」。シートの強力な吸着力と特殊な構造で、顔の下半分をぎゅうぎゅう持ち上げ、笑顔を形状記憶させるものだ。紛れもなく笑顔になれるマスクは、口角を上げているだけでなんだか楽しくなってくるという、人間の摩訶不思議な生理を思い知らせた。
いずれにせよ、スキンケアが視覚的に人を笑顔に見せるばかりか、笑顔の効用を自分自身の情動にも同時にもたらすというエモーショナルなベクトルを持ったのは、本当に素晴らしいこと。ましてや笑顔が減り無表情化するコロナ禍だからこそ生まれてきた発想と考えれば、なおさらに心動かされる。現実にまだまだマスクが外せない今、口紅のトレンドを語るより、今シーズンは“笑顔に見える肌”について語ろう。
真顔が笑顔に見える人が、ズバリより良い人生を送ることになるのは、間違いないのだから。