PROFILE: 小林琢磨/社長

ディセンシア、オルビスの社長を歴任し、巧みなデジタル戦略により経営改革を率いてきた小林琢磨社長がポーラのトップに就任してから1年が経過した。顧客構造を起点としたDXと抜本的な組織改革に加え、ブランド資産における選択と集中を進め、業績回復に向けた攻めの姿勢を強めている。
「Science. Art. Love.」が描く
ブランド価値の輝き
WWD:2025年は社長就任1年目となった。まず着手したことは。
小林琢磨社長(以下、小林):創業以来、人の手でお届けすることを理念としてきたわれわれにとって、ポーラの神髄をお客さまに熱量をもって届けてくれる約2万人のビューティーディレクター(BD)は圧倒的な資産であり、独自性だ。だが、コロナをきっかけに研修や情報伝達といったリアルなコミュニケーションが減少し、販売組織と本社との関係が希薄化してしまった。そこで1年かけて全国29カ所の事業所を回り、信頼関係の再構築に精力的に取り組んだ。
WWD:DXはどう仕掛ける?
小林:DXの本質的な目的とはデジタル化そのものではなく、企業やブランドの独自性や強みを最大限に発揮させること。われわれの強みであるBDや販売組織が有する接客力や経験値といった感覚的なものの再現性や生産性を、顧客データ基盤の整備やデータドリブンによって高めていく。さらにお客さまに購入接点の選択肢を多く持っていただくことが利便性を高め、結果的に高LTV(顧客生涯価値)につながるという判断から、26年からはEC事業を独立させず、BDによる対面販売を管轄するトータルビューティ(TB)事業に統合する。
WWD:これまでEC事業で成果を上げてきた小林社長にしては意外な判断にも思える。
小林:対面で時間をかけて築いてきた信頼関係には高い価値がある。企業はつい顧客不在の議論に陥りがちだが、リアル、デジタルといった“チャネル視点”にとらわれるのではなく、LTVを軸に顧客を真に理解することが重要。顧客構造を軸にした分析からLTVを最大化させることがブランド飛躍の鍵になると考える。25年1〜9月期の売上高構成比はTB事業部が74.2%(19年度は86.7%)、百貨店などを管掌するPS事業部が16.4%(同11.4%)、EC事業部が9.4%(同1.8%)だった。
WWD:ブランド資産価値先鋭化のための選択と集中に注力する。
小林:ポーラの優位性である基盤研究力や製品力は非常に高く、「B.A」やパーソナライズブランド「アペックス」といった主力ブランドも進化し続けている。反対に業績低迷が続く要因として、宇宙コスメなど話題性のある新領域への取り組みを重ねてきた一方で、ブランド価値が散漫になってしまったことが挙げられる。ポーラの本質的な強みはコア・コンピタンスでもある企業理念「Science. Art. Love.」の融合。これらを凝縮した主力製品や販売組織、顧客体験という強みを研ぎ澄まし、市場でのプレゼンスを高めていく。また、販売組織や製品力を生かすMD戦略の不在も課題だったが、25年から顧客戦略部をブレーンに据え、MDを戦略的に設計するチームを始動させた。さらに今年からは顧客インサイトを深く掘り下げるUXリサーチにも注力し、UI/UXの面でも顧客視点を推進していく。
WWD:女性中心の独自の組織もアセットの一つだ。
小林:その通り。ポーラは創業から女性の活躍によって成長してきた企業だ。これまでTB事業は委託販売モデルで成り立ってきたが、近年は法人化も支援している。本社がマイノリティー出資し、ショップオーナーに社長として活躍いただくことで売り上げ配分や投資判断などを自身で柔軟に決定できるようになる。多様な働き方やリーダー像がある中での幅広い選択肢となるだろう。
WWD:プレゼンスの向上に、銀座の旗艦店も重要な役割を担う。
小林:25年12月にポーラ ギンザをグローバルフラッグシップとしてリニューアルした。世界的建築家の妹島和世氏や音楽家の渋谷慶一郎氏ら国内外で活躍するアーティストの方々を起用した、文字通り「Science. Art. Love.」を象徴する体験型店舗。顔と体の全身トリートメントを行う新トータルケアサービス「リセンスエステ」もおかげさまで予約が取れないほど好評だ。ハイプレステージブランドカテゴリーでは、研究領域のサイエンスはもちろん、アート性やリベラルアーツを重視する顧客との価値観の共鳴が重要。ポーラが持つアート性とクリエイティビティーといった独自性と体験の融合を、来年以降も強く打ち出していく。
WWD:海外展開についてはどうか。
小林:現在11の国と地域に進出している海外展開も積極的に進める。中国を引き続き重視しながら、タイ、マレーシア、インドネシアなどのアセアン諸国を戦略的重点地域として位置付ける。百貨店での基盤を維持しながら、総合ビューティ・コスメ専門店にも展開し、ブランドプレゼンスを高めていく。
個人的に今注目している人
日本以上に欧州でトップバレエダンサーという高い地位を築いている。長い歴史と伝統に敬意を払いつつ、バレエを現代の表現で解釈する「バレエザ・ニュークラシック」を主宰。既存の型を壊すのではなく、伝統を土台に現代的なアート性を重ねる姿勢を貫く。25年12月にKバレエ トウキョウを退団。若くしてリスクを取り挑戦を続ける点が、資産を生かしながら進化を目指すポーラの姿勢と重なる。
1929年に静岡市で創業。企業理念である「Science. Art. Love.」を軸として、「B.A」「リンクルショット」「ホワイトショット」「アペックス」などのスキンケアやメイクブランド、エステなどの美容サービスを展開。創業者の「最上のものを一人一人にあったお手入れとともに直接お手渡ししたい」という思いを大切に、一人一人の顧客と向き合い、美を提供する。2024年12月期の売上高は927億円
ポーラお客さま相談室
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