ビジネス

教えて!パタゴニアさん 連載第8回 食品事業を通じて農業に“変革”をもたらす意義

 サステナビリティ先進企業のパタゴニアの担当者にその取り組みを聞く連載第8回。今回は、パタゴニアが2012年に立ち上げた食品事業「プロビジョンズ」について(日本では16年秋から販売)。オーガニック栽培された豆や野菜のスープ、フルーツがぎっしり詰まったエナジーバー、多年生穀物カーンザを世界で初めて使ったクラフトビール、天然のスモークサーモンやサバ、ムール貝など――なぜ、アウトドアブランドが食品事業に取り組むのでしょうか。連載第7回では熱心に取り組む農業について紹介しましたが、今回も引き続き農業の話をメーンに、近藤勝宏パタゴニア プロビジョンズ ディレクターに聞きます。

WWD:パタゴニアはなぜ食品事業を始めたのですか?

近藤勝宏パタゴニア プロビジョンズ ディレクター(以下、近藤):アパレル会社が食品について気遣うというのは奇妙に聞こえるかもしれませんね。私たちパタゴニアが行う全てのことと同じく“私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む”(編集部注:2018年12月に改訂されたミッションステートメント。以前のものは“最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する”)ことを目的にしています。創業者のイヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard)は、「手掛けたプロジェクトの中で一番重要なものだと言える」とも語っています。

WWD:なぜ食品事業への参入が重要だったのでしょうか。

近藤:今日の地球温暖化は、もはや議論の余地のない事実です。地球の気温が上昇し続け、沿岸地域は海面上昇に直面し、海は酸性度が増して生命を支えられなくなり、多くの種が通常の生息地で繁栄できなくなっています。気候変動の原因となる温室効果ガスをもたらしている最大の原因の一つが、世界最大の産業である食品生産にあります。そしてこの業界ほど変革の必要性を緊急に感じられる分野はありません。

WWD:食品生産の問題点についてもう少し詳しく教えてください。

近藤:効率と利益を最大化する中で、現代の工業型農業は年に一度の単作、有毒な除草剤、殺虫剤と農薬、遺伝子組み換えの種と化学肥料、持続不可能なほどの水の利用に依存してきました。そしてそれにより、地球が復元するよりもはるかに速いスピードで表土は損なわれ、空気も土地も水も汚れ、さらには炭素の排出量も増えて、昨今の急激な気象の変化にも耐性を持つことができません。

WWD:表土はどのくらい失われているのでしょうか。

近藤:この150年間に世界全体で半分が失われたといわれています。私たちの食品の95%が直接的もしくは間接的に土壌に由来している中で、まさに危機的状況です。世界各地では農地から流れ出した養分によりデッドゾーンと呼ばれる酸欠状態の海域が生まれ、生物多様性の損失にも大きな影響を与えています。

WWD:工業型農業によって生産された食品を摂取するリスクも叫ばれていますね。

近藤:抗生物質と成長ホルモンを摂取した肥育場の牛、身動きの取れないケージの中で育てられた鶏、化学物質に浸された遺伝子組み換え作物、風味や栄養よりも大きさと見た目や生育率が高いものが選ばれる果物や野菜など、このようなシステムで育てられた食品は有毒化学物質によって、人間と生態系への危険性の増大、栄養価の低下などのリスクがあります。私たち自身も多大なリスクを負わなければなりません。

WWD:「プロビジョンズ」はそのようなシステムに変革をもたらすためのビジネスということ?

近藤:はい。私たちは長い間、アパレルビジネスを通じて、調達、製造、販売をどのようにすべきかを学んできました。次はそれを食品産業に応用します。水や空気、土壌を再生しながら、野生動物を保護するような方法で食品が作られるようになったら――私たちが抱えている大きな課題の解決策になると考えています。

WWD:リジェネラティブ・オーガニック農法(土壌を修復・改善しながら自然環境の回復を目指す農法)にも取り組まれていますね。

近藤:リジェネラティブ・オーガニック農法は最も注目しています。できるだけ耕すことなく、被覆作物や堆肥、輪作や牧草と放牧を基本とした飼育を行うことで、土壌を健全な状態に再生しながら、大きな作物を生み出します。土壌が回復すれば水も少なくて済むし、干ばつなどの気象の変化にも耐性ができる。収穫量が落ちにくく、たいがいは低コストになります。また、健全な土壌では光合成を通して、より多くの炭素を土壌が吸収、固定してくれることが判明してきました。このような健全な土壌を再生する農業への転換により人間が毎年放出しているくらいの炭素を土の中に隔離することができるとも言われています。

WWD:生物多様性の保全にもつながりますね。

近藤:はい。本来その土地にいるべき動物を戻すことは土壌を健全に保つことにつながります。自由に歩きまわるバッファローがいるところの草は良く育つし、根も深くはり、地球で最も優れた炭素固定システムのひとつである大草原を復元します。

ロープで養殖されるムール貝は、生育中に海水をきれいにしながら、人間にとって美味なたんぱく質を生み出します。場所を定めた選択的な魚の収穫漁法は、個体数が減少している種に害を与えることなく、真に持続可能な魚の個体群を狙うことができます。

多年生で育つ古代穀物は肥料や農薬は少なくて済むし、耕したり種を植えたりする手間も省けます。何よりも重要な特質は土壌深くまで伸びる根が水や窒素、リンを吸収するとともに土をしっかりと固定して浸食を防ぎ、干ばつにも強くなります。加えて大気中の炭素を土壌に有機物として隔離することにもつながります。

これらの方法は決して新しいものではありません。得てして昔ながらの知恵や自然サイクルに寄り添った方法です。そして、そのようにして作られた食べ物には多くの利点があります。とてもおいしく、栄養価が高く、人々の健康に良いもの。さらには環境を再生して、生物多様性を促進して地球を救えるかもしれないものなのです。

WWD:パタゴニアはアパレルビジネスを通じて、長年環境や社会問題に警鐘を鳴らしつづけてきました。次は食を通じて警鐘を鳴らすと。

近藤:私たちが今経験しているパンデミックは地球からの警告のように聞こえます。果たして今までのように、まるで無限に存在するかのように地球資源を使い、大量に物を生産し消費するようなライフスタイルを止められるか――大きな変化を求められるでしょう。
けれど、人間は食べることだけはやめることができません。さまざまなシステムがいったんリセットされたこのタイミングで、生きるうえで欠かせない食の生産方法や私たちの日々の一食一食をより思いやりをもった、愛ある選択に変えていくことで、地球の抱える問題を解決していけると信じています。そして、「パタゴニア・プロビジョンズ」がその革命の一部になりたいと考えています。

答えてくれた人:近藤勝宏/パタゴニア プロビジョンズ ディレクター:1973年生まれ。神奈川県出身。95年、パタゴニア鎌倉ストアにパートタイムスタッフとして勤務。正社員として入社後、ストア、マーケティング部門のマネージャーを経て、2016年のプロビジョンズ上陸時に日本担当マネージャーになる。日頃からサーフィンやスノーボードなどを愛好し自然と親しみながら、仲間との有機栽培の米作りや家庭菜園などを通じて、より環境負荷の少ないライフスタイルを探求している

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

2022年春夏速報第二弾は、注目の3大ムードを解説 日本から唯一現地入りしたビームスのリポートも

今週号は、日本からパリコレ入りしたおそらく唯一のショップ関係者であるビームスの戸田慎グローバル戦略部長によるパリコレダイアリーからスタート。来年本格始動する海外ビジネスのために渡航した戸田部長が目にしたパリコレ、展示会、パリの街並みをお伝えしつつ、そこから感じたこと、業界人がみんなで再考・共有すべきファッションへの想いを存分に語ってもらました。トラノイやプルミエール・クラスなどの現地展示会の雰囲気…

詳細/購入はこちら