サステナビリティ

教えて!パタゴニアさん 連載第7回 本気で農業に取り組む理由

 サステナビリティ先進企業のパタゴニアの担当者にその取り組みを聞く連載第7回。今回は、パタゴニアが熱心に取り組む農業がテーマです。気候変動や人口増加に伴う需要増大への対策として、 “リジェネラティブ・オーガニック農法”(土壌を修復・改善しながら自然環境の回復を目指す農法)に注目し、2017年には、他の米国ブランドとともにリジェネラティブ・オーガニック認証制度を作り、農地の切り替えを推進。なぜ、今農業が重要なのでしょうか。木村純平・環境・社会部門リジェネラティブ・オーガニック リサーチ担当に聞きます。

WWD:パタゴニアが農業に注目した理由を教えてください。

木村純平・環境・社会部門リジェネラティブ・オーガニック リサーチ担当(以下、木村):「新しいジャケットは5年か10年に一度しか買わない人も、一日3度の食事をする。われわれが本気で地球を守りたいのなら、それを始めるのは食べ物だ」――これは創業者のイヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard)の言葉です。農業は、繊維や食物を生み出す、私たちに必要不可欠な産業です。しかしながら、工業型農業は土壌劣化などのさまざまな問題を引き起こしており、気候変動の主要な原因の一つになっています。

WWD:パタゴニアは農業を「問題」ではなく、「解決策」へと転換するために、健康な土壌を構築する環境再生型有機農業、リジェネラティブ・オーガニック農法への切り替えと普及を推進していますね。

木村:リジェネラティブ・オーガニックは、気候変動と闘うとともに、増加する人口を支えるための食物を供給し、さらに地球の健全性を維持することのできる最も効果的な方法の一つだからです。また、人口増加に伴う需要の増大に応えるためにも必要です。20年の世界人口は78億人に上り、50年には97億人に達するといわれています。私たちは今後、食の変化はもちろん農業の生産性を向上させる必要があります。

WWD:従来の工業型農業が抱える問題とは?

木村:工業型農業は地球環境を犠牲にしながら、生産力の向上を図ってきました。しかし、現在世界中で広く行われている従来の工業型の農業は、化学肥料や農薬、遺伝子組み換え技術やプラスチック資材の利用、大型耕耘機やかんがい設備などの多投入型の工業的システム、単一栽培のような効率を求めた農地利用を採用しています。そのため、生産と輸送で膨大な量の化石燃料を使い、地下水汚染や河川の富栄養化、土壌汚染や健康被害といった問題を引き起こしています。

またグローバルな問題として、農地拡大を原因とする森林減少によって生物多様性に悪影響を及ぼし、安価な窒素肥料の合成と使用によって窒素循環を乱しています。これは、私たちが21世紀に優先的に取り組まなくてはならない重大な環境問題です。工業型の従来農業は、「私たちの繊維や食物を生産する」ことを理由に、地球環境を食いつぶしているのです。

WWD:工業型農業は、外部環境に高い負荷をかけるだけにとどまらず、土壌を劣化させています。

木村:土壌が劣化する根本的な原因は2つあります。1つ目は農地を頻繁に耕すことで土壌侵食を促進し、肥沃な土壌そのものを物理的に失ってしまうこと。2つ目は、土壌のさまざまな機能を担う土壌有機物が年々減少してしまうこと。そのため、これら2つの課題を克服しなければ、持続的な農地利用はできません。

WWD:持続可能性を考えると工業型の従来農業は、多数の課題や問題を抱えていますよね。

木村:ええ。しかし、幸いなことに私たちには選択肢があります。それは、それらの問題に個別に対応するのではなく、これまでの歴史と最新科学に基づいて、多くの問題を根本から解決できる農業システムへと切り替えていくことです。それが、パタゴニアがこれから国内でも取り組むリジェネラティブ・オーガニックです。

WWD:改めてリジェネラティブ・オーガニックについて教えてください。

木村:リジェネラティブ・オーガニックは、時間をかけて土壌の有機物を増やすことで気候変動への適応と緩和を同時に実現します。また、農業従事者や牧場に長期的な経営安定をもたらし、レジリエンスのある生態系と地域社会を築くことができます。結果的に世界中の何十億もの人々に食と衣類を提供するという役割を果たしながら、地球と人間の健康の維持に貢献できます。必要なものを生産し、それと同時に土壌を健全化することによって、温暖化の原因である炭素を土壌中に隔離できるのです。

WWD:パタゴニアはその農法を推進するために国際認証制度を支援しましたね。いわゆる環境再生型農業(リジェネラティブ農法)とリジェネラティブ・オーガニックにはどのような違いがありますか?

木村:環境再生型農業は概念的なものであるために認証制度はなく、農薬や化学肥料、遺伝子組み換え技術などの利用も自由です。もちろん、これらを利用していない農業者もいます。そのため、リジェネラティブ(環境再生的)が意味するものが明確ではありません。不耕起栽培などの一部の管理方法を個別に採用しただけで「リジェネラティブ」という言葉を使うことにより、用語としての混乱を招いています。

WWD:なるほど。リジェネラティブ・オーガニック認証はどのような基準がありますか?

木村:認証に基づいた有機農業を基盤として、そこにリジェネラティブな管理方法を追加的に要件化することで厳格に定めています。これは①土壌の健康、②動物福祉、③社会的公平性の3つの柱から構成されています。必須条件は有機認証の取得で、「土を守ること」を重視した認証制度であるため、「なるべく耕さない省耕起栽培または不耕起栽培であること」「植物による土壌被覆が農地の25%以上を占めること」「生産者が作物の種類と作付けする場所を周期的に変える輪作を行い、3作物種以上の作物または多年生作物を利用していること」「リジェネラティブな(再生を促す)管理方法を3つ以上採用していること」など。この農法は全体論的な農業手法を促進することで、①気候変動緩和の方策となるように土壌有機物を増やし、植物と土壌により炭素隔離を行うこと、②動物福祉を向上させること、③農業者・牧場主・労働者に対して経済的な安定と公平性を提供することを目指しています。この認証制度は、リジェネラティブ・オーガニック・アライアンス(Regenerative Organic Alliance)という団体によって管理・運営されます。

WWD:私たちが抱えるさまざまな問題の解決への鍵の一つになる農法ですね! 一方で導入が簡単ではないではとも思います。

木村:私たちはリジェネラティブ・オーガニックを普及する道が容易ではないことを理解しています。気候風土や伝統的な農業技術、地域社会やサプライチェーンなど、多くのことに深い注意を払う必要があります。しかし私たちは、食や衣類とさまざまな害悪を生み出している農業という産業を転換させなくてはいけない時期にいます。そうしなければ、気候危機はより一層深刻化し、従来型の農業により引き起こされる深刻な環境問題はなくならず、土壌劣化により生産量が低下し続けることが明らかだからです。

健全な土壌は地球を救いながら良質な食べ物と衣類を生み出し、そして私たちの生命の健康と健全な環境を育みます。つまり、健康な土壌を育むことは地球・農業者・食べる人、地球に住むすべての人々と動植物を育むことなのです。

答えてくれた人:木村純平/環境・社会部門リジェネラティブ・オーガニック リサーチ担当:群馬県出身。「生態学に根差した再生可能な農業」を専門に研究。「リジェネラティブ・オーガニックに非常に強い共感と自身の専門性との整合性を感じ」2020年3月入社。リジェネラティブ・オーガニックに対する共感者・賛同者・実践者を国内に増やし、農業とその生産物(繊維と食料)を環境再生可能なものへと移行するサポートを行う。好きなアクテビティーはジョギングと陸域の自然散策。自身は、環境負荷の少ない食生活への挑戦、家庭ごみの堆肥化とミミズコンポストを、自然の則した農法での畑の管理を行う

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