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「グッチ」CEOが語る 生き残るための4つの変化

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 「変わらずに生き残るためには、自ら変わらなければならない」――ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサ(Giuseppe Tomasi di Lampedusa)著「山猫(The Leopard)」の一節だ。2021年で創業100周年を迎える「グッチ(GUCCI)」は、新型コロナウイルスによる危機を乗り越えどのように変化していくのか。マルコ・ビッザーリ(Marco Bizzari)=グッチ(GUCCI)社長兼最高経営責任者(CEO)がその展望を語った。

1. コレクション発表サイクル・方法の見直し

 20年5月、「グッチ」のアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)=クリエイティブ・ディレクターは、コレクションの発表回数を絞り、シーズンやデジタル活用について、既成概念にとらわれない考えを示した。この考えにしたがい、同ブランドは11月17~22日にデジタルファッションショーと映画祭を融合した「グッチフェスト(GucciFest)」を開催。7つの短編映画を通して最新コレクションを発表する。

 ビッザーリCEOは、「新型コロナウイルスの感染拡大前から将来について考えはじめていた。サーカスのようなコレクション発表にもはや持続可能性はなく、われわれはアレッサンドロには創造性を養う時間をあげたいと思っていた。そのためには、これまでとは異なる思考が必要だった。新型コロナウイルスはそれを加速させたに過ぎない」と説明する。

 「グッチフェスト」を今後も継続するのかという問いに対してビッザーリCEOは、ファッション業界と映画業界の協業について熱弁をふるいつつも、「将来のことはまた追って。限界や義務を設定しない、これが今の時代のやり方だ。アレッサンドロがどう感じるかにもよるし、『グッチ』にとって何が最適かを決めるのは彼だ。彼にはクリエイティブな才能に加えて合理性も持ち合わせている。われわれは激論を交わすときもある」と説明する。また顧客の関心を集め続けることの必要性は認識しており、特別なイベントとそれに合わせたコレクションのドロップは継続すると加えた。

 ビッザーリCEOは、必ずしも同社の戦略を他社で採用したときに有効だとは限らないと強調する。「各々の道を模索するべきだ。安全地帯に一生いることはできないし、だからといってそれだけを理由に変化を受け入れることもできない。崩壊ははじまっていて、それをどう解釈するかはブランドの組織やリーダー次第だ」。倒産寸前だったブランドをトム・フォード(Tom Ford)とドメニコ・デ・ソーレ(Domenico De Sole)のコンビが建て直し、15年にフリーダ・ジャンニーニ(Frida Giannini)からミケーレに交代したことでブランドの美学が完全に見直された経緯を踏まえ、変化は「『グッチ』にとってはより容易なこと」だと続ける。

2. コロナ禍で迫られる「大胆な選択」 卸縮小

 8月に発表された親会社ケリング(KERING)の20年1~6月期決算は減収減益となり、「グッチ」単体では売上高が前年同期比33.8%減の30億7220万ユーロ(約3778億円)だった。しかし、7〜9月期は同12.0%減の20億8780万ユーロ(約2567億円)にまで戻している。

 店舗が営業を再開してからは主要な市場で業績を伸ばしていることや、ECが非常に好調で、上半期はそれ以前と比べて51.8%の売り上げ増となっていること、同社の経常利益率が30%を超え回復を見せていることなどを踏まえ、「驚異の柔軟性を持つ会社」と称えた。「(ロックダウンなどの)規制第2波への備えも十分だ。困難な局面において大胆な選択が必要。四半期ごとではなく通年で物事を考え長期的な視点が必要」と説明する。

 その一例が販売網の整理だ。同社は卸の数を減らすことで希少性を高めるという戦略の下、21年中に卸の売り上げを全体の10%以下に抑えることを目指しているという。ビッザーリCEOは渡航制限に伴う観光客の減少をふまえ、地元の買い物客の購買につながる独立店との関係強化が重要だと説明する。

3. レストランの併設やビューティライン拡大 拡がる「グッチ」の世界

 同社はデジタルファースト戦略をとっているが、実店舗はこれからも重要な役割を担うという。店舗の差別化を図る一つの方法として食があるとビッザーリCEOはいう。18年1月に伊フィレンツェのメルカンツィア宮殿内にオープンした「グッチ ガーデン(GUCCI GARDEN)」内にレストラン「グッチ オステリア(GUCCI OSTERIA)」を併設したほか、その翌月にも米ロサンゼルスの店舗にミシュラン三ツ星を獲得したシェフを迎えてオステリアを立て続けにオープンしている。21年5月には東京にもオープン予定だという。

 ビッザーリCEOは、「グッチ」には可能性を秘めた未開拓の分野が多くあり、その一つがビューティだと話す。19年5月に発売したミケーレ監修のリップスティックやフレグランスは「非常に好調」だといい、21年には、カラーコスメやネイルアイテムなど新たなアイテムを展開すると明かした。

 また、21年にゲームカードやボトル、ギフトといった遊び心のあるアイテムを一部の店舗で販売し、ライフスタイル分野にも力を入れていくという。「アレッサンドロはホームラインとは呼ばない。『グッチ』の世界観を構築するために取り入れることを好む」という。

4.  「再生可能な農業からの調達こそファッションの未来」

 サステナビリティへの取り組みに熱心な同社は、10月から期間限定でラグジュアリーブランドのリセールサイト「ザ・リアルリアル(THE REALREAL)」とタッグを組み、「グッチ」のアイテムを集めた特設サイト立ち上げた。「ザ・リアルリアル」で「グッチ」のアイテムを委託または購入するごとに植樹1本分の寄付を行うという。

 さらに「グッチ」は11月11日にショッパーや包装箱などを生分解性素材を使用したものに一新した。紙素材はすべて持続可能な管理下にある森林からのもので、完全なリサイクルを可能にするため非塗工紙を使用している。またインクの使用量を減らすために製造工程のはじめから独自のグリーンに着色しているという。

 環境に配慮しているのは紙素材だけではない。ショッパーの持ち手は再生ポリエステル100%で、糊を使用せず結び目を作って紙袋部分に固定している。また、ガーメントバッグやダストバッグには再生コットンと再生ポリエステルの混合素材を使用。黒のグログランリボンはオーガニックコットン100%を使用している。

 気候変動が最大の課題であることに変わりはないとビッザーリCEOは話す。同社は18年からサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを実現し、基準値としている15年と比較して、温室効果ガスの排出量を19年は37%削減したという。また森林と生物多様性を保護するREDDプラス(森林減少と森林劣化による排出量の削減)プロジェクトにオフセット(相殺)することで避けられない残留排出量を補填しているという。「オフセットすることが唯一の方法だ」とビッザーリCEO。ホンジュラスの同プロジェクトを通じてマングローブの保護と回復に着手し、再生可能な農業にも注目しているという。再生可能な農業に切り替えることで全世界の年間二酸化炭素排出量の100%以上を吸収できるという最新の研究結果に触れ、「これこそファッション業界が進むべき方向性。再生可能な農業システムからの調達こそがファッションの未来」と語った。

 ブランド創業100周年という節目の年を控えビッザーリCEOは、ミケーレがノスタルジックな空気を避けたがっていると前置きしたうえで、「グッチ」創業の地であるフィレンツェを起点に1年を通してイベントを開催予定だと明かした。

 「2021年の『グッチ』は違うものになるだろう。1年前と比較しても、未来に向けて準備万端だ」。

YU HIRAKAWA:幼少期を米国で過ごし、大学卒業後に日本の大手法律事務所に7年半勤務。2017年から「WWDジャパン」の編集記者としてパリ・ファッション・ウイークや国内外のCEO・デザイナーへの取材を担当。同紙におけるファッションローの分野を開拓し、法分野の執筆も行う。19年6月からはフリーランスとしてファッション関連記事の執筆と法律事務所のPRマネージャーを兼務する。「WWDジャパン」で連載「ファッションロー相談所」を担当中

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