ファッション

高級ブランドも注目する日本発の紙パック水、仕掛け人はマックイーン好きの元商社ウーマン

 「市場にないならやってみよう」――コンパクトサイズの紙パック入りナチュラルウオーターの販売を始めたハバリーズ ジャパン(HAVERY’S JAPAN)が注目を集めている。環境保全や循環型社会が求められる中での紙パック入りナチュラルウオーターは、発売前から多くのメディアに掲載され、ラグジュアリーファッションブランドやラグジュアリーホテルなどから問い合わせが殺到しているという。脱プラが進む中で起業したのは27歳の矢野玲美社長だ。「ファッションが大好き。中でも『アレキサンダー マックイーン(ALEXSANDER McQUEEN)』のジャケットがお気に入りで5着持っている」という彼女。取材当日もお気に入りの「マックイーン」のセットアップに「足形がぴったりでハイヒールでも疲れない」という「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」のパンプスでさっそうと現れた。

WWD:ハバリーズ ジャパンを立ち上げたきっかけは?

矢野玲美ハバリーズ ジャパン社長(以下、矢野):大学卒業後に技術系商社に就職して海外を行き来する中で、意識が変わりました。というのは、欧州では紙パックがクールで、プラスチックだったとしても再生プラスチックが当たり前、バージンプラスチックは恥ずかしいという価値観を目の当たりにしたからです。見渡してみると日本には紙パックのミネラルウオーターがない。市場にないならやってみよう!と思い立ち、今年6月に会社を立ち上げました。家業がペットボトルのミネラルウオーター製造のOEM専門メーカーで、水業界の知識がありました。ペットボトルをはじめとしたプラスチックごみによる海洋汚染が広く知られるようになり、脱プラ製品への注目も集まっています。“1本の水から世界が変わる”というスローガンを掲げていますが、身近なことで社会や環境問題の解決に貢献したいという思いから立ち上げました。

WWD:紙の匂いが飲料に移るとして、水の紙パックは難しいというイメージが強いですが、どのような加工技術で実現しましたか?また環境負荷はペットボトルと比べて低いですか?

矢野:「どうせ臭いでしょ?」と考える方も多く、思い込みが大きいこともありますが、実際に「海外で紙パックの水飲んで臭かった」という体験をされている方もいます。臭いけど製品化されている現状もある。私たちは、日本テトラパック社が開発した紙パックを用いています。内面に専用のフィルムを使用したアルミをコーティングした紙パックで、光を遮断して品質を保っています。飲んでいただくとわかりますが、匂いません。

WWD:これですね。冷やしてご用意いただきましたが……あ、ホント無臭ですね!

矢野:そうなんです。ぜひ試していただきたかったんです。紙包材はFSC認証(責任ある森林管理の企画を満たした森林から生産されている証明)を得ていて、使用後はトイレットペーパーなどにリサイクルされる仕組みが確立されていました。キャップ部分はポリエチレンですが、他のものを現在開発中です。環境負荷に関しては、紙パックはライフサイクルアセスメント(LCA)評価でも製造工程や運搬においても環境負荷が低いという結果が出ています。

WWD:すでにディーン&デルーカ(DEAN & DELUCA)やナチュラルローソン、アマゾンや楽天での販売が決まり、外資系と国内のラグジュアリーホテルや外資系ラグジュアリーファッションブランド、大手航空会社でも導入を検討しているとか。

矢野:ええ。ありがたいことにメディアにも多く取り上げていただき反響がありました。紙パックを回収できるスキームまで備えているところにも支持をいただいています。10kg程度空のパックが貯まったら指定工場に着払いでお送りいただければ、紙部分はリサイクルすることでトイレットペーパーや紙ナプキンに生まれ変わります。アルミとキャップ部分のポリエチレンは熱回収されます。身近な水で循環型社会に貢献できるという点が強みです。また、1本につき1円が世界自然保護基金(WWF)に寄付される仕組みにしました。

WWD:ハバリーズという名前の由来は?

矢野:わかりにくいですよね(笑)。家業の水源地、大分県の羽馬礼(はばれい)からとっています。羽の生えた馬――すなわちペガサスを家業のコーポレートワークに使っていますがそれをアレンジしました。実は家業の新規事業として立ち上げることも検討しましたが、脱プラ廃プラを目指しているのできっちりと線引きして別会社にしました。

WWD:採水地も羽馬礼ですか?

矢野:いいえ、実は違うんです。提携先の佐賀の水源地です。

WWD:パッケージデザインに込めた思いは?

矢野:当初は、ハイブランドに向けてシンプルでスタイリッシュなデザインで進めていました。でも一部の人のためのものではなく、みんなに飲んでもらいたい、誰もが手に取りやすいようなものにしたいと考えが変わりました。親しみがあり、かわいらしくて共感が持てるもの――エコやビーガンを想起させるようなイメージではないことも意識しました。サステナビリティは、取り組む人とそうでない人とのギャップがありますが、そうでない人を呼び込むためには、“持ちたいデザイン”であることが重要だと考えました。ギャップに橋を架けるような存在になりたい。

WWD:ファッション業界へのアプローチを強化されていますが、なぜファッションだったのですか?

矢野:マーケティング会社とリサーチするなかで、最も可能性がありました。ファッション業界はヨーロッパの流れをくんでいるので、感度が高い。雑誌ひとつとってもサステナビリティ、環境、気候変動といった言葉が並んでいます。「ハバリーズ」を意識改革のツールとして展開したかったという思いもありました。持ちたい、格好いい、スタイリッシュというイメージが重要だったからです。

WWD:現在サイズは330mL一種類のみですが、サイズ展開の予定は?

矢野:0.5L、1リットルL、2Lも考えています。

WWD:日本では環境意識がまだまだ高いとはいえませんが、取引先や消費者とはどういうコミュニケーションを心がけていますか?

矢野:相手と場面に応じて変えています。それは自分自身の服装や話す内容も含めてです。もちろん、環境意識が高い方とはとことん本音で話しますが、ビジネスの場では環境問題の現実というよりは何がメリットかについてか伝えます。たとえば、身近なところでのサステナビリティをうたうことができます、需要があるからもうかります、役に立ちますといったように訴求しています。私自身のゴールは環境保全なので、プロセスよりも結果を重視しています。日々営業する中で、相手を見極めるためにも、まずは相手の話を聞き出すことが重要だと感じています。

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