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徳島県でごみ問題に取り組む23歳 ファッション留学を機に環境ビジネスの世界へ

 日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言を行い、2020年までに焼却、埋め立てごみをゼロにする目標を掲げた徳島県上勝町。人口1500人、高齢化と過疎化が進むこの町にはごみ収集車も焼却炉もない。町民たちが自らゴミステーションにごみを運び、45分別することでごみの資源化に取り組んでいる。この17年間でリサイクル率80%を達成。残り20%の資源化をめざし、2020年5月30日に開業したのが「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」だ。同施設のリーダーとしてゼロ・ウェイストに取り組んでいるのが大塚桃奈さん。大学卒業したばかりの彼女が、なぜ上勝町でごみ問題に取り組むのか。

映画「ザ・トゥルー・コスト」を観て衝撃を受ける

――新卒でいきなり、地方のごみ関連施設で働くことになったわけですが、そもそも環境に関心を持ったのはどうしてですか。

大塚桃奈チーフ・エンバイロンメンタル・オフィサー(以下、大塚):もともとはファッションやデザインが大好きで、中学生のときにはデザインコンペに出品して賞をもらったりしていました。高校3年の夏休みにロンドン芸術大学に留学したときに、留学中に学んだことを社会にどう生かすのかを考える機会があり、ファッション業界が抱える課題を調べたのが、環境に興味を持ち始めたきっかけでした。服がどのように作られてどう消費されるのか。自分なりに服とどう向き合えばいいのかを考え、服を取り巻く社会や服と一緒にある生活、自然とのかかわりにも思いをはせるようになりました。デザインを学ぶのもいいけど、服がどのように社会のなかで関わっているのかをもっと知りたくて大学に進学したんです。

大学では公共政策を専攻、環境研究を副専攻し、大学2年のときにコスタリカ、3年のときにスウェーデンに短期留学しました。環境先進国のコスタリカは、再生可能エネルギー100%に取り組んでいて、山奥にあるモンテベルデという町の風景が上勝町とオーバーラップしました。またスウェーデン留学を通して自然に近い暮らしに触れ、モノを大量生産し、使った後に捨ててしまうというサイクルに疑問を感じるようになりました。

――大学で環境を学んだ大塚さんが、上勝町に移住することになった経緯は。

大塚:たまたま、ゼロ・ウェイストセンターの建築設計を担当されたNAP建築設計事務所の中村拓志さんが母の高校の同級生で、このプロジェクトに関わっておられることを聞き、上勝町のことを初めて知りました。上勝町はゼロ・ウェイスト宣言してから17年が経ちますが、活動を始めたのは1997年。自分が生まれた年に始まり、ずっと続いていることにも大きな衝撃を受けました。

大学1年生の冬休みに初めて上勝町を訪れ、翌年は、1週間上勝町に滞在しました。その後、スウェーデン留学中に現地コーディネートを依頼され、プロジェクトのメンバーの方たちとサーキュラーエコノミーの現場を見て回ったんです。そこで、環境循環型ビジネスには可能性があること、欧州では若い世代が取り組んでいることを知り、環境ビジネスにより関心を持つようになりました。

――ファッション業界はいろんな問題を抱えていますが、コロナ禍で一気に噴出し、業績悪化から倒産する企業も増えています。大塚さんは、ファッション業界のモノ作りに対して疑問を抱いていたんですね。

大塚:学生時代はファストファッションを楽しんでいましたが、ファッション業界の裏側を描いた映画「ザ・トゥルー・コスト」を観て衝撃を受けたこともきっかけのひとつでした。自分の着ている服の行き先やモノ作りの背景など、今まで考えたことがなかったことに気づかされました。そして、いろいろ調べていくなかで日本のフェアトレードやオーガニックコットン、地産地消を知り、これからはサステナビリティーやサーキュラーエコノミーがもっと大切な時代になるだろうと感じました。

ゼロ・ウェイストに取り組む企業とのコラボに期待

 「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」にはごみ回収・分別所のほかに、リユース推進のための「くるくるショップ」、町民交流や体験学習のための「コミュニティホール」、企業・研究機関向けに場所貸しする「ラボラトリー」、体験型宿泊施設「ゼロ・ウェイストアクションホテル HOTEL WHY」を併設している。

 ホテル宿泊者は、滞在中のごみを6分別し、チェックアウトの際にゴミステーションで分別体験できるのがユニーク。自然豊かな山奥で、体験を通して快適な暮らし方やごみのない社会についてゆっくり考えるひとときを過ごすことができる。
「ごみから学ぶ」をコンセプトに、同施設では生産者と消費者、町内外の人が出会い、交流し、つながることを目的に、サーキュラーエコノミーのプラットフォームをめざしている。

――ここでの大塚さんの役割は。

大塚:私ができることは限られていますが、上勝町がずっと取り組んできたゼロ・ウェイストの取り組みを次の世代と世界中に広めてつないでいくことだと思っています。いま上勝町はリサイクル率80%ですが、100%をめざしています。紙おむつなどリサイクルできないものについては、企業や研究機関の力を借りながら新しい技術で資源化に取り組んでいきます。ファッション製品については、リユースできるものは「くるくるショップ」で販売できますが、汚れていたり、ほつれていたり、繊維が混雑しているとリサイクルできません。そういう課題を解決していくために、いま、一緒に取り組んでもらえる企業や研究機関を募集中です。

――消費者も生産者もごみに対する意識が変わると、行動やライフスタイル自体が大きく変わります。

大塚:ごみが出ないものを作ることも重要ですが、どのようにして回収、分別、リサイクルされるのかがとても重要です。生産過程で環境負荷を減らせたとしても、捨てた後が一貫していないとなんの意味もありません。だから、ゼロ・ウェイストはひとつの自治体でなし得ることではないと思っています。作る側、使う側、自治体のすべてが関わっているのです。例えば、レジ袋の有料化もなかなか進みませんでしたが、政府が号令をかけて7月からスタートすると、一気にエコバッグを使う人が増え、意識が高まりました。

生活者全員が意識を変えないと、ごみはゼロにならないのです。上勝町は町民と自治体の努力で80%までリサイクルできるようになりましたが、この方法が他の地域にも広がることを期待しています。どうすれば、ごみをゼロにできるのか、それを考えるきっかけの場にしていきたいですね。

――そのためにも、まずは上勝町に来てもらうことが大切です。人が集まるとにぎわいでき、町の活性化につながります。

大塚:わさわざでないと来ない場所なので、WHYで学べることや体験できること、町の魅力をいかに伝えるかが、今後の運営のカギになってきます。例えば、最初にこの施設を考えたときに、サスティナブルアカデミー(環境教室)をひとつの柱にしようという話がありました。広島、長崎が平和教育なので、環境教育といえば上勝町といわれるようになればいいなと思います。「交流ホール」はラーニングセンターの機能があり、ワークショップや講演会ができるように作られています。

また、上勝町は過疎化が進んでいるので、新しい拠点が誕生したのをきっかけに、町外から移住したり、ビジネスをしたり、体験しに来る人が増えることを願っています。ここのコンセプトが「ごみから学ぶ」なので、上勝町と一緒にゼロ・ウェイストに取り組んでもらえる企業とのコラボをたくさん生み出していきたいですね。

特に私が環境の世界に関心を持つきっかけとなったファッション業界の方との取り組みにはとても期待しています。

橋長初代(はしなが・はつよ)/流通ライター:同志社女子大学卒。ファッション専門誌の編集を経てフリーランスのライターに。関西を拠点に商業施設、百貨店、専門店、アパレル、消費トレンド、ホテル、海外進出などの動向を「WWD JAPAN.com」「日経クロストレンド」などに寄稿。取材では現場での直感と消費者目線を大事にしている。最近の関心事は“台湾”と“野菜づくり”と“コロナ後のファッションビジネス”。「リモート取材が浸透すれば、もっと取材先を広げていきたい」

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