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コロナ休業中の在庫消化に手応え アダストリアが描く「ファッションロスのない世界」

 大量生産・大量廃棄といった従来型のアパレルのビジネスモデルに、社会から厳しい目が向けられるようになっている。これを受けて各社さまざまな策を講じているが、ここ数年、福袋の廃止、セールの抑制などで在庫圧縮を進めてきたのが、「ニコアンド(NIKO AND…)」「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」などを運営するアダストリア(福田三千男会長兼社長)だ。今春は同社も店舗休業を余儀なくされたが、いまだに在庫過多に苦しむ競合他社もある中で、アダストリアは在庫コントロールに一定の手応えを得ている。在庫問題は、サステナビリティやCSR(企業の社会的責任)の意識にも直結するもの。同社のCSR担当役員である福田泰己取締役に聞いた。

WWD:毎年作成しているCSRレポートの2019年度版では、CSRポリシーとして「ファッションのワクワクを、未来まで。」を策定した。ビジョンとしては「ファッションロス(衣料品廃棄)のない世界」も掲げている。その意図は?

福田泰己取締役(以下、福田):アダストリアは上場が04年ということもあって、創業間もないヤングカジュアルファッションの会社と見られることもあるが、実は1953年に創業した企業だ。100年企業を目指す中で、「なくてはならぬ人となれ、なくてはならぬ企業であれ」を理念として掲げている。アパレル産業はモノ作りによって環境に負荷を与えてしまう部分もある。それを認識しつつ、「なくてはならぬ企業」となるべく、本業の中で負荷を一つずつ減らし、改善していくことを目指している。ただし、それを責務や義務として行うのではアダストリアらしくない。あくまで楽しんで行ってこそだ。それで、「ファッションのワクワクを、未来まで。」というポリシーを策定した。

毎年、CSRレポートは株主総会(5月)を目途に作成しているが、ポリシーやビジョンを策定したのは今回から。従来のレポートはその年に行った活動内容を紹介するのみだった。そこがこれまでとは違う点だ。ビジョンとして掲げた「ファッションロスのない世界」というワーディングは、お客さまと社員のどちらにとっても分かりやすい。他にも「未来に繋がるものづくり」というビジョンのもと、25年までに使用する全コットンをサステナブルなものに切り替えるといった目標も設定している。目標が具体的になったことで、サステナビリティの意識をより行動に移しやすくなったと思う。会社のPL(売上高や損益)よりも、CSRがまず大命題としてわれわれの中になければならないと、いっそう感じられるようになったと思う。

WWD:7月1日からのプラスチック製ショッピングバッグ有料化に合わせて、アダストリアでは50万枚のエコバッグを客に無料配布した。また、買い物袋を辞退した客にポイント還元する取り組みは、既に5年間継続してきている。

福田:CSRやサステナビリティというとどうしても重々しくなりがち。われわれはコーポレートスローガン「Play fashion!」のもと、お客さま目線でどういったアクションならばサステナブルで同時に楽しめるかを考えている。エコバッグの配布もその一環だ。洗濯して繰り返し使えるおしゃれなエコバッグをご提供すれば、お客さまには喜んでいただけるし、結果としてプラスチックごみも減らせる。そうした考えで、50万枚という少なくはない数のエコバッグを工場にあった残反を生かして生産した。これも通常なら「1枚あたりの工賃はいくら」といった考え方が先行してしまうものだと思うが、サステナブルな取り組みを楽しんで進めることができるようなムードになっている。

WWD:そうは言っても、CSRと経済活動の両立において難しいと感じる面もあるのでは?

福田:当社は生活者と近い目線を持った社員が多く、環境に無配慮で収益をとにかく追求する、といった考え方がそもそも薄い。「とにかく儲けたい」というような変な考え方の人がいない会社だと思う(笑)。若い世代の社員も多いため、彼らにとっては、「とにかく儲けたい」といった価値観自体が楽しくないんだと思う。だから、CSRを実現するために会社をコントロールをしているという意識はあまりない。

「春物の消化は例年通り、もしくはそれ以上の結果に」

WWD:アパレル業界の大量廃棄には、一般社会からも厳しい目が向けられるようになっている。

福田:アダストリアでは、少なくとも在庫の焼却処分はもう行わないと決めている。残った在庫は当社が出店していない地域のオフプライスストアで販売したり、第三国に輸出する業者に販売するなど、何らかの再利用やリサイクルにまわす。もちろん一番いいのは売り切って在庫をゼロにすること。しかし、店頭を商品で埋める以上、どうしても在庫ゼロにはならない。ゼロに近づけるために最大の努力をし、それでも残ってしまったものは、当社で手掛ける「キッズローブ(KIDSROBE)」という子ども・ベビー服のレンタル事業や、在庫をアップサイクルして販売する「フロムストック(FROMSTOCK)」事業に生かしている。このような、在庫にまつわるさまざまな施策や事業のアイデアが、17年にスタートしたアダストリア・イノベーションラボなどを通して、社内で有機的、自発的に生まれるようになってきた。

WWD:デベロッパーの反対を押し切り、18年初からは福袋販売も中止した。福袋のために新たに商品を生産し、それを大量に余らせるようなアパレルビジネスのあり方は、あまりにも無駄が多いという考えからだった。セールを前提とした大量生産の仕組みについても、ここ数年変えようと努力してきている。

福田:セールの抑制にしても、期末在庫をいかにゼロに近付けられるかがカギだ。在庫に関しては、当社は業界内の平均よりもかなり高い水準で残さず進めることができている。ただ、今年は店舗が自主休業となった4、5月に相当な金額の在庫を抱えてしまったことは確かだ。休業を受け、既にできあがった商品を工場に発注キャンセルするケースも業界内では聞いた。ただ、当社は(福田三千男)会長の号令のもと、4、5月分の全量をキャンセルせず、工場への値引きも求めなかった。その分夏物の発注量を抑えることで在庫をコントロールし、春物を売り切るようにと指令が出た。その結果、春物の消化は例年通り、もしくはそれ以上という結果になった。

WWD:アダストリアの7月の国内既存店売り上げは前年同月比19.9%減だった。夏物の発注量を抑えたことで商品が足りず、その結果売り上げを落としたとも見受けられたが、無駄に作って余らせるよりも、売上高を落としてでも売り切れる量を作るべきという考え方を象徴していると感じた。

福田:夏物の発注量を抑えた結果、在庫が薄いのではないかという懸念は確かに出ていた。ただ、今年に関しては在庫コントロールがよくできた方だと思う。特に6月は“リベンジ消費”で各社好調だったと思うが、それでも春夏の在庫をさばききれなかった企業はあったと思う。セールが長期化して価格は崩れており、安いから売れたという部分もある。秋以降、適価に戻った時に状況がどうなるかはまた別の問題で、今後もしっかり見ていく必要がある。

WWD:休業中の在庫の発注キャンセルについては、SNS上で批判を集める企業も出た。これまでなあなあで済まされてきたいびつな業界の商習慣が、いよいよ許されなくなっている。

福田:今は企業の姿勢が筒抜けになる時代だ。休業してしんどいのはどの店も同じだし、小売りが厳しければ工場だって苦しい。そこに発注キャンセルで商品を突き返すような動きはサステナブルではない。それでコロナ禍は切り抜けられたとしても、今後そういった企業にどこまでお客さまや取引先、社員がついていくのかは疑問だ。アダストリアは、「なくてはならない企業」という理念があるからブレないんだと思う。サステナブルはもちろんこれからの世の中のキーワードだが、真摯であること、公平・公正であることも同様だと思う。どこかが苦しい時には助けるという姿勢が、お客さまからも取引先からも共感を集める時代だ。発注キャンセルや大量廃棄などの問題で、世の中のファッション業界を見る目は厳しいが、個別の企業の問題を業界全体の問題と捉えられてしまうと、店頭で頑張って働いている人(販売員)たちがつらい。だからこそ、当社なりに世の中に対してできるアクションをしていくことが肝要だと思っている。そうすれば、世の中のファッション業界を見る目も変わっていくはず。うちの社員には出戻り(他社を経験し、再び入社する人)が多いが、そんなふうに戻ってきたいと思われるような企業であることが大事だと思う。

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