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IT賢者と徒然対談 Vol.2 今提案すべき「商品のソフトウエア的な価値」とは? 3つの伝え方を伝授

ムラカミ:首都圏および北海道の緊急事態宣言も解除され、全国の店舗営業が再開しつつあります。「そろりそろり」という擬音が付きそうなくらい、各社とっても慎重です。接客が仕事にも関わらず「こちらから、話しかけてはいけない」なんてルールを課さねばならないショップスタッフには、心の底から同情してしまいます。

CKR:「接客」の「接」が大きく変わりそうですね。私は、顧客接点の新モデルである「OMO(Online Merge with Offline.日本語では『オンラインとオフラインの併合』という意味)」が崩れ始めると考えています。フィジカルなモノを効率的に届けるだけの発想は、限界を迎えるからです。

ムラカミ:確かに多くの識者が、これまでのファッション&ビューティ業界は「店舗と同じものが買える」「店舗に行かなくても買える」「買ったものがすぐに届く」「店頭で確認してから買える」など、失敗せず、いち早くモノを手に入れるための「便利」ばかりを追求してきたと警鐘を鳴らしています。武庫川女子大学生活環境学部の井上雅人・准教授はコロナ終息後の未来について、「これからは、人と人とのコミュニケーションを円滑にするために趣味や思想をわかりやすく表現できる『便利さ』にも目を向けたほうがいい」とおっしゃっています。


CKR:これまでの「便利」は効果が計測できるので、施策化しやすいんですよね。しかし本当に取り組むべきは、井上准教授がおっしゃる通り、お客さまに意味のある価値を届けることです。価値とは、商品とお客さまとの関係性。関係性とは、「こんな風になれる」「仲間としてつながる」など妄想できることです。コロナ禍がもたらしたこと、それは商品とお客さまの関係性の変化です。物欲が減るなど人の消費意欲が変わり、店舗の安心・安全神話も崩壊しました。今改めて、「消費する意味」を伝える必要があります。店舗はもちろんECまで、消費活動を通じて関係性を育む場として見直す必要があります。


ムラカミ:確かに。業界は「こんな風になれる」と妄想させることを放棄し、妄想できる人だけを相手にしてきてしまいましたね。先日、友人と話をしたのですが、「オシャレになりたい人」のために存在していた業界が、いつの間にか「オシャレな人」しか参加できない世界に変わってしまったと感じています。


CKR:コロナ禍は、ズレを見直すチャンスです。モノを、効率的にさばくだけの発想から離れましょう。中心に据えるべきはフィジカルな商品ではなく、商品のソフトウエア的な価値。信頼する人がオススメする情報や、購入後の自分が享受できる価値を届ける方が重要です。それが伝われば、ECでも店舗でも関係ありません。皆、必死になって探します。ソフトウエア的な価値は、どのように見つけ、伝えるのか?具体的に3つお話しします。1つ目は、モノそのものではなく、モノの周辺に意味を与えることです。「購入したモノが、今、いくらで売れるか伝える」「支払ったお金が、どんな社会貢献につながっているか伝える」「導電性繊維の服を通じて、今の健康状態を伝える」などが一例です。モノは目的ではなく、意味を与える手段になるということです。

先日、iPhoneSE PRODUCT(RED)を即買いしました。スマホの買い替え時期でもありましたが、支払ったお金が新型コロナウイルス対策に寄付される点に後押しされました。モノ周辺の「意味」に心動かされたのです。

ムラカミ:以前CKRさんは、Air Podsを激賞していました。アップル信者ですね(笑)。確かにアップルは、「商品を買ったら、オシャレなグループの仲間入りができる」という、商品以上の価値を提供してくれます。

CKR:2つ目は、モノが変化に適応できるデザインであることです。アプリやソフトウエアの世界は、アップデートを繰り返し、市場に適応していきます。「コーチ(COACH)」が、ビンテージバッグをリメイクし「コーチ オリジナルズ」を発売した発想もまさにコレです。気分を変えるためのリメイクは、ファッションならではの発想です。そして3つ目は、物理的なモノではなく、デジタルデータの販売に振り切ってしまうことです。提供する価値がデジタル化すると、物流コストや製造原価に悩む必要がありません。しかも国境を簡単に越えることができます。“マーケットのケタ”も変わります。VRイベント「バーチャルマーケット」に伊勢丹新宿本店や「ウィゴー(WEGO)」が出店してアバター用の衣装を販売する試みは先進的です。全ての生活シーンがデジタルに置き換わることはありません。しかし、自分自身をデジタル化するシーンが増えているのは事実です。ARフィルターをかけてZoomのスクリーンに映る自分は、完全にデジタル化しています。LINEスタンプで自分の気持ちを表現するシーンは、プロモーションから販売流通までオールデジタルですよね。デジタルだけで製造流通を完結させる仕組みこそ、トライする価値アリです。

ムラカミ:「あつ森」も一例ですね。

CKR:まさにです。今後はこのようなソフトウエア的発想で、価値を流通させるビジネスが増えるのではないでしょうか。

ムラカミ:ファッション&ビューティ業界が3つ目さえ自分たちのフィールドと認識することができたら、「モノありき」という考え方さえ打破できるかもしれません。将来的には、ムダなモノが減って、サステナブルな社会が近づくかも(笑)。

CKR:モノとの距離を考えることが、サステナブルの出発点かもしれませんね。ところで、デジタルテクノロジーが、未だ対応しきれてない領域があります。生理的な欲求や、安全欲求を満たすことです。コロナ禍でリアルの安心感がポッカリ抜けた今、デジタルで生理的欲求や安全欲求に応えることが期待されています。思考停止して考えてこなかった領域に、デジタルで対応するチャンスが到来していると言えそうです。たとえば安心感の伝え方。リアルの手触りに頼るのではなく、お互いの信頼関係で応えてみる。心地良く眠りたい欲求には、フカフカのベッドではなく、睡眠データの解析とノンレム睡眠を刺激する周波数で応えてみる。今なら、市場に受け入れられるかもしれません。

ムラカミ:先日、ボディーワーカーと「Zoom飲み」をしたんです。彼はこれまでマッサージやヘッドスパ、シンキングボウル、オーラソーマなどを組み合わせた“ビスポーク・リラクゼーション”を生業としてきたのですが、身体的接触が憚られる今さえ、そんなに落胆していませんでした。聞けばZoomなどを使って音や言葉で綴るヒーリングなどに取り組んでいて、なかなかの盛況だそう。人の心を解きほぐすことで身体的ストレスを軽減する、という発想と経験があれば、物理的接触が制限されても仕事できるんですね。彼が、「『肩こりを治す』みたいな人たちは、キツくなると思う」と話していたのが印象的です。

CKR:Zoomを使ったヒーリングは、斬新ですね。ファッション&ビューティは、慣れや飽きで感動がなくなった状態に、活力を与える力があります。しかもすぐに形にでき、生活に溶け込むポテンシャルを持っている。今こそ知恵をしぼり、新しい行動する開始するときではないでしょうか?