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「セリーヌ」のショーに来た“エディ系男子”に突撃 「君たち一体何者なの?」

 エディ・スリマン(Hedi Slimane)による「セリーヌ(CELINE)」は2月末、2020-21年秋冬コレクションを男女合同のショー形式で見せました。ショーが男女合同になるということは……そう、“エディ系男子”がやって来ることを意味します。超スリムで容姿端麗だけど、ちょっと猫背で気だるそうな彼らを勝手に“エディ系男子”と私たちは呼んでいますが、一体彼らは何者なのか、そしてなぜエディはいつの時代でも彼らを夢中にしてしまうのか、疑問に思っている人は多いのではないでしょうか。ということで今回、「セリーヌ」の会場に来た“エディ系男子”にインタビューしてみました。

 ここで、エディと“エディ系男子”の関係についてちょっと振り返ってみましょう。エディが「サンローラン(SAINT LAURENT)」を手掛けていたときは、フロントローの前という超特等席に座り、あぐらをかいたり膝を立てたりしながら鑑賞する彼らを“ゼロ列目男子”なんて呼んでいたこともありました。エディは「サンローラン」を16年に去り、ロサンゼルスに移ってフォトグラファーとしての活動に専念したのち、18年に「セリーヌ」のアーティスティック、クリエイティブ&イメージディレクターに就任して、パリ、そしてファッション業界にカムバックしました。

 2年の“ギャップイヤー”を経て当時業界人が疑問に思っていたのは「エディはヒップホップ最盛期の今でも、若者を夢中にすることができるのか?」ということ。18年はストリートファッションシーンを率いるヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズ アーティスティック・デイレクターに就任した年でもありました。ロックを軸に不変のスタイルを貫くエディに、昨今の若者が夢中になるのかが気になるところでしたが、エディの「セリーヌ」デビューショーに来たゲストは“ゼロ列目”こそなかったものの、やっぱり細身&ピタピタで期待を裏切りませんでした。そして20-21年秋冬の会場にもやっぱり同じスタイルの来場者がいました。しかしこちらはインディーズロックバンドやフランスのスター事情に無知なので、彼らの正体は謎のまま。ドキドキしながら彼らに声をかけ、後日必死でググりました。

 会場に入ってまず話しかけたのは、フロントローに座っていたフランス出身の俳優のアクセル・オリアン(Axel Auriant)。彼はフランスのドラマ「スカム フランス(SKAM FRANCE)」のスターです。このドラマの登場人物は実際にインスタグラムのアカウントがあり、ストーリーと連動して更新されるのをフォローして楽しめる人気ドラマです。エディの魅力を聞くと「もちろんエディのスタイルは大好きだ。パリに戻ってきてからフレンチロックスタイルを『セリーヌ』に持ち込んで、今やそれが『セリーヌ』のスタイルになっている。『サンローラン』のころからも進化していると思う」と話します。現在22歳という彼にさらに詳しく聞くと「『サンローラン(SAINT LAURENT)』時代に『イヴ(YVES)』をとってロゴも変えたことが印象に残っている。その後ザ・ストロークス(The Strokes)や、僕が子どものころから聴いているロックバンドと一緒に仕事をしていることを知ったんだ。だから僕はエディのカルチャーと一緒に育ったみたいなもので、ここに来られてとてもうれしいよ」とのこと。なるほど確かにファッション大国フランスではブランド名が変わるとなったら国民的ニュースになりそうですし、好きなロックスターと仕事をしていたなら夢中になるのも納得です。ちなみにオリアンは俳優でありながらプロのドラマーとしも活動しており、マヌ・ディバンゴ(Manu Dibango)ら著名ミュージシャンのコンサートにも参加するほどの実力派です。

 次に話しかけたのは、スコットランドのインディーズバンド、メディシン キャビネット(Medicine Cabinet)のメンバー5人の中で一番“エディ男子”っぽかったジョシュア(Joshua)。彼がエディに初めて会ったのはロンドンのアーセナル スタジアムで、ショーに来ないかと誘われたそうです。後で調べればエディはジョシュアと、メディシン キャビネットのメンバーの一人であるアナ(Anna)をロンドンで自ら撮影しているではないですか!バンドのインスタグラムのフォロワーは2000程度でまだ曲もリリースしていないのに、一体どこから発掘してくるのかと思ったら、バンドのライブに自ら出かけているのですね。さらに感心したのは、彼らの前に座っていたフランツ・フェルディナンド(Franz Ferdinand)のフロントマンのアレックス・カプラノス(Alex Kapranos)が5人に「バンドの名前は?」とフレンドリーに話しかけ、同じスコットランド出身ということで盛り上がって記念写真まで撮っていたこと。この写真はアレックスのインスタグラムにちゃんと投稿されていました。しかもメディシン キャビネットのアカウントもタグづけしています。アレックスはエディの長年の友人でもありますが、若手を積極的にサポートする姿勢に心温まりました。こうしてエディのコミュニティーは広がっていくのですね。

 赤いボーダーのトップスがフロントローでも際立っていたのは、イギリス発のロックバンド、レッグス(Legss)のフロントマン、ネッド・グリーン(Ned Green)。エディの魅力を聞くと、「とにかくタイムレスなこと。長いことやっているのにカムバックし続けるのは尊敬する」と話します。さらに「エディのチームの一人がバンドの演奏を見たらしく、エディが俺たちを撮りたがっているって連絡が来たんだ。それまでは誰なのか全く知らなかったよ。その後シューティングしたんだけど、それが10時間くらいかかって、あまりにも長かったから俺もバンドのメンバーもウイスキーでめちゃくちゃ酔っ払った。それから(エディと)仲良くなってショーに呼んでくれたんだ」と続けます。前述のメディシン キャビネットと同様、エディは目星をつけたバンドマンたちを自ら撮影するのですね。それにしても多忙極まりないのに撮影に10時間もかけるとは……相当な情熱です。最後にネッドに写真を撮らせてと頼むと「俺のバンドのメンバーだよ」と、隣に座っていた2人と一緒にポーズを決めてくれました。しかし実はこの2人は全然バンドメンバーではないことが後になって判明しました。

 そうこうしているうちにショーが始まると、「このルックは最高」「これはやばい」などと盛り上がる声が聞こえてきます。その方向に目を向けるとやっぱり“エディ系男子”2人がいました!ショー終わりに感想を求めると、「最高だった。感動したよ」と興奮気味。2人は若干酔っ払っているようでしたが、時刻は21時過ぎ。ショーの前に飲みたくなる気持ちも分かります。早速エディについて聞いてみると「正直、彼のチームの一人が俺たちのバンドのライブに来るまではエディについて知らなかった」とのこと。なお、彼らのバンド名はレッグス……って、こっちが本物のメンバーじゃないですか。このジェイク・マーティン(Jake Martin)とルイス・グレース(Louis Grace)がフロントマンのネッドと別々の場所にいたのは、もしかして一杯引っ掛けていたから?などと想像してしまいました。ちなみにレッグスは初のアルバムを昨年リリースしたばかりで、4月末時点のインスタグラムのフォロワーは1000ほど。エディの才能の発掘力、さすがとしか言いようがありません。

 今回はとにかく見た目が“エディ系男子であることを基準になりふり構わずゲストに話しかけましたが、共通していたのはやはり音楽でした。そして他ブランドのショーのゲストと大きく違うのは、エディ本人や「セリーヌ」チームのメンバーやが実際にライブに足を運んでいること。さらに、エディ自身がきちんと時間をかけて彼らを撮影していたことです。今回のショーBGMを手掛けたソフィア・ボルト(Sofia Bolt)も、家のガレージで無料で行ったライブにエディのチームのメンバーがなぜか来ていたところから楽曲提供まで話が進んだそうです。

 一般的にショーに来る著名人やインフルエンサーの人選は、フォロワー数や知名度が基準の一つになります。ゲストのフォロワー数が多いと、年に数回の貴重なプロモーションであるショーをより多くの人に見てもらうことが期待できるからです。ブランドのキャンペーンに起用されたことがあるような関係の深い人物から、意外な人選のインフルエンサーまでさまざまですが、ブランドにとって意外とも思えるゲストをたびたび見かけるのは、SNSを通じてそのフォロワー、つまり新たな層にリーチしたいから。もちろんこれもマーケティングとして一つの正解でしょう。

 一方で「セリーヌ」はフォロワー数に関係なく、世界観の合う人物を招待します。ショー後、会場の前には猫背で煙草を吸うミュージシャンのような“エディ系男子”たちの姿がありました。数字だけではなく、隅から隅まで自分の世界観に徹するこだわりこそ、エディの現在の肩書きが「アーティスティック、クリエイティブ&イメージディレクター」である所以なのでしょう。若手ミュージシャンはエディによる恩恵を受ける一方、彼らがショーの場にいることは会場のブランドの世界観を形づくる一助にもなっているのです。

 エディは若手にスポットライトを当てる姿勢について、英「ヴォーグ(VOGUE)」にこうコメントしています。「今のメインストリームカルチャーは数重視のSNSのアルゴリズムによってプロモーションされたものだ。オルタナティブな声には耳も貸さない。悲しいことにマスコミは無名のものを認める努力をしない。私がファッションや写真を通してできることがあるなら、喜んで力を貸そう」。