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パリコレ取材班が選ぶ私的ベストショーBGM 「スポティファイ」プレイリストも

 「WWDジャパン」3月16日号は、2020-21年秋冬のパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)特集です。特集内ではパリコレで見られた2大メッセージや、ムードを打ち出したブランドのコレクションを紹介しているほか、日本から現地に出向いた編集長やバイヤー、スタイリスト10人に聞く気になるトレンドなど、1冊で今季のパリコレが分かる内容となっています。

 紙面ではファッションについてとことん触れましたが、ここでは、書き切れなかったショーのBGMを紹介。パリコレ取材班が、それぞれよかったと思うBGMを鼎談形式で語ります。この記事に登場した曲は、「WWDジャパン」の公式「スポティファイ(Spotify)」アカウントでプレイリストとしてまとめています。プレイリストを聴きながら記事をお楽しみください(プレイリストに収録した曲名は太字で表記しています)。

【鼎談参加者】
向千鶴・編集長:2004年からミラノとパリを中心にコレクションを取材しているベテラン。 ポジフィルムでの撮影も経験している49歳
藪野淳・ヨーロッパ通信員:コレクション取材7年目の33歳。普段はベルリンに住みながら、ヨーロッパのファッションネタ全般を取材している
丸山瑠璃・ソーシャルエディター:パリコレ取材2回目の24歳。SNS運用を普段から担当しており、SNSを駆使した情報収集力は編集部内でもピカイチ

藪野淳(以下、藪野):「WWDジャパン」の公式「スポティファイ」アカウントができたんだね。

丸山瑠璃(以下、丸山):そうなんです、ほかにもさまざまなアーティストがブランドに捧げたトリビュートソングをまとめたプレイリストやおうち時間用のプレイリストもあるので、ぜひフォローを(笑)。さて、みなさん今季のパリコレのショーBGMはどこがよかったですか?

向千鶴(以下、向):「トム ブラウン(THOM BROWNE)」のBGMがすごくポジティブで、今季のキーワードである“ラブ”を象徴していたよね。サミー・デイヴィスJr. (Sammy Davis Jr.)の「Beautiful Things」やニナ・シモーン(Nina Simone)の「Here Come the Sun」、そしてフィナーレはビートルズ(The Beatles)バージョンの「Here Comes the Sun」ととてもロマンチックだった。前回の「ディオール(DIOR)」もフィナーレがビートルズの「Across the Universe」で、苦難の中で闘って勝ち取る平和の象徴としてビートルズの曲が使われることが増えているのかも。

藪野:ロマンチックということでいうと、「ニナ リッチ(NINA RICCI)」もよかったですね。ママス&パパス(The Mamas & the Papas)の「California Dreamin'(夢のカリフォルニア)」をディナイアル(Denial)がカバーした曲など名曲のカバーが多かったですが、どれもブランドのふわっとしたシルエットや布のドレーピングに呼応するかのよう。夢の中にいるような浮遊感が印象的でした。

向:「ミュウミュウ(MIU MIU)」もデヴィッド・ボウイ(David Bowie)の「Lady Grinning Soul」やルー・リード(Lou Reed)の「Berlin」など、みんなに愛されるようなメジャーな曲を使っていたね。服も1970年代らしいドレスが多かった。

丸山:「WWDビューティ」3月26日号の表紙にもなっていますが、ヘアもフィンガーウェーブでクラシックなムードがマッチしていましたね。「ディオール(DIOR)」も70年代でしたよね。

向:今回の「ディオール」のフィナーレはミーナ(Mina)の「Se telefonando」。コレクションはマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)の昔の日記が着想源になったそうだけど、この曲は66年の曲で、マリア・グラツィアが青春時代を過ごした70年代とマッチしているよね。

藪野:デザイナーの青春時代の曲といえば、「ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン(JUNYA WATANABE COMME DES GARCONS)」は説明不要なくらいブロンディ(Blondie)でしたね。ショーの冒頭は無音の演出でしたが、その後は「Heart Of Glass」や「Call Me」などブロンディのヒットナンバーが続きました。ヘアメイクのブロンドヘアと赤リップもまさにボーカルのデボラ・ハリー(Deborah Harry)で、アクセサリー感覚で着けるハーネスなど、服もロックなイメージ。ブロンディということは70年代末〜80年代初めですが、まさに渡辺淳弥さんが若い頃に聴いていた曲なのでしょうね。

そして、僕のベストは、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)。実は全部通して聴いたのは初めてかもというくらいちゃんと聴いたことがなかったのですが、気になるダークな雰囲気の曲を「シャザム(Shazam)」でチェックすると大体出てくるのはビリーの曲。「ヴァレンティノ」は弦楽器の生演奏とビリーの「all the good girls go to hell」などの音源を融合させていてすごくエモーショナルでした。

向:私は「スポティファイ」の「19年によく聴いた曲」プレイリストにビリーが出てくるくらい聴いているのだけど、ビリーの曲は大音量でみんなで聴くよりもイヤホンをつけて1人で聴くのが似合うよね。でも「ヴァレンティノ」が弦楽器を加えることにより、みんなで聴く音楽にしてしまったのは素晴らしいと思った。

丸山:ビリーは兄のフィネアス(Finneas)とベッドルームで音楽を作るところからキャリアをスタートさせているから、1人で聴くのが似合うのでしょうね。フェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)による新生「ケンゾー(KENZO)」も「Bad Guy」をリミックスして使っていましたが、ブランドの鍵でもあるユース感を今取り入れるならビリーがぴったりなのだなと思いました。今季のダークなムードにも通じていますが、ビリーも今の若者もとても現実的ですよね。アメリカでも広がる新型コロナウイルスの感染について、自身のインスタグラムで若者に外出しないように呼びかけていたのには心打たれました。

向:それでいうと、以前ビリーがコンサートでタンクトップで登場したのもよかったよね。彼女は普段体形を隠すようなぶかぶかな服を着ているけれど、肌露出ガールがビリーのファンから批判を受けているのを知り、「好きな格好をすればいい」と反論するためにタンクトップで登場したと聴きます。その姿勢に本当に頭が下がる。

藪野:なるほど。ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)も、今シーズンについて「私たちは皆人間で、私はどんなカテゴリーやジェンダーも、サイズも気にしない。自分の好きなものを着ればいい」と米「WWD」で話していました。ビリーの姿勢と重なる部分がありますね。

それから「ジバンシィ(GIVENCHY)」も暗い曲を使っていましたね。マックス・リヒター(Max Richter)の「3つの世界:ウルフ・ワークス(ヴァージニア・ウルフ作品集)より」からの曲でしたが、クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)の「ジバンシィ」は「クロエ(CHLOE)」時代から転じて、暗くエレガントだけど強い女性像。今季全体的にダークなムードでしたが、ファッション・ウイーク終盤の「ジバンシィ」でそのことを確信しました。

丸山:そのダークなムードで言うと、忘れてはいけないのが「バレンシアガ(BALENCIAGA)」。世界各地で起きている火災や洪水を連想させるような映像を天井に映した演出が印象的でしたが、BGMを手掛けたのは16年からデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)とタッグを組んでいる若きコンポーザー、BFRND。彼はトラックリストを公開しているのですが、オープニングの「Genesis」は角笛のような音が終末の訪れを警告しているようでしたし、途中の水に飲み込まれるような映像のときに流れた曲は「H2O」。空撮の連続映像から地球の映像に切り替わったときの曲は「New World」と、演出にぴったり。

向:ショーのBGMを手掛ける音楽家は普通、ショーの何日か前にイメージだけを伝えられることも少なくない中、BFRNDはコレクションの制作過程から何度もイメージのすり合わせをして、一緒にショーを練り上げるそう。まさに“デムナトライブ”のひとりなのでしょうね。「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」もダークなコレクションでしたが、BGMはミッチェル・ガービック(Michelle Gurevich)の「Party Girl」。パーティーガールというのに暗い曲なのですが、キャピキャピした感じではなく夜の社交場に行くような危うさがありますよね。

丸山:ダークなムードは、新型コロナウイルスの拡大でよりいっそう際立ちましたよね。香港拠点の「アナイス ジョルダン(ANAIS JOURDEN)」は渡航制限の影響で、見せるはずのコレクションが全てそろわなかった状態だったのですが、届かなかった分は急きょアニメーターにパターンを見せてバーチャルモデルがコレクションを着て歩く映像を制作し、会場のスクリーンに映し出しました。BGMはウォークス(VOX)が生演奏でフランク・オーシャン(Frank Ocean)の「Swim Good」をカバーしたのですが、電子的な歌声が映像にマッチしていました。

前回に続き終末後の世界を描いた「マリーン セル(MARINE SERRE)」もダークでしたね。BGMは、コレクションの着想源になったフランク・ハーバート(Frank Herbert)による小説「デューン/砂の惑星」の一説の朗読。曲ではないのでプレイリストには入れられませんが、その中には「月が友人となり、太陽は敵になる(The moons will be your friends, the suns your enemy)」という一説もあり、「トム ブラウン」の「Here Comes the Sun」とは真逆ですね。

藪野:夢の中にいるような浮遊感とダークなムードがコレクション同様、今季のショー音楽の2大要素といってもいいかもしれませんね。ほかはどこのBGMがよかったですか?

向:「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は、ウッドキッド(Woodkid)とブライス・デスナー(Bryce Dessner)が作曲した新解釈のクラシック音楽。国と年代を超えた民族衣装を着た200人の合唱団とのセッションで、歌でもあるけど刹那なアートパフォーマンスでもあり、二重にも三重にもメッセージがある。

藪野:「ルイ・ヴィトン」は前回もトランスジェンダーのアーティスト、ソフィー(Sophie)が歌う映像を背景に映し出していましたが、時代を汲み取りドラマチックな演出に生かしていますね。丸山さんは何がよかった?

丸山:「サンローラン(SAINT LAURENT)」が、モデルのウオーキングに合わせて動くスポットライトの演出はもちろん、演出とマッチした音楽もかっこよかったですね。かっこいい以上の音楽のボキャブラリーがなくて申し訳ないですが、16年からタッグを組んでいるフランス出身のDJでプロデューサーのセバスチャン(SebastiAn)が今回も手掛けています。セバスチャンが「サンローラン」のショーBGMやキャンペーンの音楽を手がける一方で、彼の新曲「Sober」のMVは「サンローラン」がプロデュースしていたりとお互いにサポートし合っている関係。アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)が37歳でセバスチャンが39歳なので、同世代でフランスのカルチャーを盛り上げている存在なのかもしれません。

向:「サンローラン」は昔からカルチャー、特にサブカルチャーを育てていこうという姿勢があるよね。「サンローラン」はリアルクローズを売るアパレルメーカーではなくスタイルメーカー、スタイルを作るブランドだから、とにかくかっこよくないとだめ。70年代の「サンローラン」がエッジーだったように、今のエッジーさを追求するとクラシックなどではなくセバスチャンのようなエレクトロになるのかもしれないね。スタイルを作るといえばエディ・スリマン(Hedi Slimane)の「セリーヌ(CELINE)」もそうだけど、音楽とつながりの深いエディの選曲はどう思った?

丸山:BGMはソフィア・ボルト(Sofia Bolt)の「Get Out of My Head」。70年代の曲かと思ったら、なんと18年リリースなんですね。パリ出身でロサンゼルスを拠点にするインディーロックミュージシャンで、彼女が家のガレージで行ったイベントに「セリーヌ」のチームメンバーが来て、エディに紹介したのだとか。ショーのわずか3週間前に連絡が来て、2分30秒の曲を22分に伸ばしたそうです。当日会場にも若いミュージシャンの姿が多かったですよね。彼らに話を聞けばエディやチームのメンバーがバンドの“ギグ”に来たそうで。

藪野:「ディオール オム」時代からそうだけど、エディはショーやキャンペーンのモデルにも若手ミュージシャンを起用しているしね。

向:エディが選ぶインディーズの曲って同じフレーズと音を繰り返すものが多いよね。ずっと聴いていると呪術的というか、洗脳されるような気がする(笑)。ずっと同じものを繰り返して染めていくみたいなところは、エディのクリエイションにもあるよね。「セリーヌ」はショーを通じて1曲だけを使っていたけれど、ルックごとに曲が変わった「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」はどう思った?

藪野:曲と曲をシームレスにつなげるわけでもなく、ルックが変わるタイミングでブツリと切って次の曲に切り替わるのは斬新でしたね。曲自体も「シャザム」での再生回数が1000回以下のものが多数。ジャンルもクラシックやポップスなどさまざまで、中には効果音のようなももありました。

向:ブツリと切れるBGM同様、コレクションもきれいに仕立てるわけでもなく、乱暴に形を作ってさまざまなパーツを積み上げるような手法。実はこれは植物など必然性のある形からインスパイアされていたそうだけど。これがリアルクローズになると、身頃を違う素材にブツリと切り替えたような服になっているのが面白かった。

藪野:やはりコレクションと音楽の関係は深いですね。