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追記:なぜ彼女たちはドラァグクイーンになったのか? 写真家、ヨシダナギが美しさ、幸せの多様性を映し出す

 【追記4月15日】ヨシダナギの作品集「DRAG QUEEN -No Light, No Queen-」の発売日が4月30日から5月25日へ延期となりました。ならびに西武渋谷店での個展は4月21日の開催から、8月12日〜30日へ延期となりました。

 通説によるとドラァグクイーン(drag queen)の“drag”とは、“dress as a girl”の略語で、一般的に女装する男性をさす。近年では女性のドラァグクイーンも誕生し、アンダーグラウンドカルチャーという枠を超え、人間の多様性を世界に向けて表現するアイコンになりつつある。ショーでは最前列に座り、ファッションやビューティのキャンペーンにもドラァグクイーンが起用されている。また、ドラァグクイーン界のゴッドマザーと呼ばれるル・ポール・チャールズ(RuPaul Andre Charles)が出演するネットフリックスの番組「AJ & クイーン」も話題だ。

 これまでアフリカ大陸やブラジル・アマゾンをはじめとする世界中の少数民族や先住民族を撮影してきたヨシダナギが、フィルターを通してパリ、ニューヨークのドラァグクイーン18人に迫った作品集「DRAG QUEEN -No Light, No Queen-」(ライツ社)を4月30日に発売する。なぜ、ヨシダナギはドラァグクイーンに魅了されたのか?そしてなぜ彼女たちはドラァグクイーンになったのか?

 「実際にニューヨークとパリで出会った彼女たちの立ち姿には、言葉にできない美しさと強烈な存在感がありました。それは少数民族を見たときに感じたのとある種同質であり、複雑な歴史や自負を両肩に背負い受け入れた人間だけが発するものでした」と語る、ヨシダナギが見つめたドラァグクイーンとは。

WWD:少数民族や先住民族を撮り続けてきたヨシダさんがドラァグクイーンを撮影しようとしたきっかは?

ヨシダナギ(以下、ヨシダ):たまたま興味が湧いたアフリカ人を追いかけていたら、フォトグラファーとして5年が経っていた頃、周りからはそろそろ少数民族の写真以外も見てみたいと言われていました。ただ、彼ら以外に撮りたいと切望する被写体がなく、モヤモヤしていました。そんなとき、広大なオーストラリア大陸を舞台に、3人のドラァグクイーンが旅をするロードムービー「プリシラ(The Adventures of Priscilla, Queen of the Desert)」を観たことを思い出して、なんてカッコいいんだろうと思ったんです。そこから「ドラァグクイーンを撮りたい!」と思い立ちました。

WWD:具体的にはどういったところに魅了された?

ヨシダ:見た目だけではないカッコよさ、立ち姿が魅力的でした。生きざま、信念が刻み込まれている。人としての誇り、自信からくる迫力が美しい。それは立ち姿から匂い立つようで、少数民族や先住民族にも共通するものでした。外見だけではなく、人間としてのカッコよさです。

WWD:実際に彼女たちに会って感じたことは?

ヨシダ:私が思っていた以上に壮絶な人生を送っています。でも挫折を繰り返せば繰り返すほど美しくなる。傷ついたからこそ優しいし、気遣いもできる。普段人見知りの私でも、スムーズに撮影できました。彼女たちは朝が苦手なのでドタキャンもありましたが(笑)。ニューヨークは昨年2月、パリは昨年6月に撮影しました。

WWD :「少数民族を見たときに感じたのと、ある種同質である」とコメントしていたが、それはどういうことか?

ヨシダ:両者とも自由であるということ。そして自分を受け入れている。それは自分が育った国や民族の苦難の歴史を含めて。

WWD:それぞれ事情は異なると思うが、なぜ彼女たちはドラァグクイーンになったのか?

ヨシダ:この世の中に存在しているカテゴリー、枠は小さすぎる、決めつけられたくない――自己の表現として、自由になりたかったんだなと思います。性別も男でもない、女でもない、それが私。全てにおいて自由になりたかった。彼女たちと話して分かったのですが、私が出会った人たちの中には、女性になりたいと思っているわけではない人もいました。ちやほやされるときだけ女子でよい(笑)。トランスジェンダーというよりは、純粋なゲイの人もけっこういた印象です。ストレートの人も、女性もいます。ドラァグクイーン自体が自由で“ルールがないことがルール”。もともとカテゴリーを嫌うので、女性でも「やりたいならやれば?」という流れがここ10年くらいでできたようです。

WWD:撮影するドラァグクイーンをどのようにして選んだ?

ヨシダ:インスタグラムで地道に探しました。万国共通で、遅刻したり突然キャンセルしたりするため(笑)、多めに交渉しました。

WWD::ドラァグクイーンから学んだことは?

ヨシダ:人間くさくて傷つきやすく、くじけつつも強くてたくましい。将来の自分に対してモヤモヤしている日本人に、彼女たちの生き方は学ぶところがあります。私たちはつい知らないうちに自分で限界をつくり、自分に当てはまるようなカテゴリーを探している。彼女たちは、「自分たちはどこにも所属しない」ということを身をもって表現しているので、説得力があります。私自身も時に「自分は何やっているんだろう?」思うことがあったのですが、自分は自分のままでいいんだと背中を押されたような感じでした。彼女たちは強さとユーモアで苦難を乗り超えていると実感しました。

WWD::撮影において、これまでと異なることは?

ヨシダ:少数民族を撮影するときは朝の逆光を狙い、大自然で撮影することで彼らのオーラを映し出していましたが、ドラァグクイーンは朝が弱く(笑)、そして基本屋内の撮影だったため、その写真がヨシダナギの作品として見えるのか?ヨシダじゃなくてもいいのでは?という不安もありました。でも撮影を通して「あなたはあなたでいいのよ」というメッセージを受け取ったことで、肯定できました。「自己流でよい。これも私の世界観なんだ」と。ただ、どんな撮影においても、実物よりも劣化することは許されない。素敵な一瞬を切り抜くこと。そしてその人がすごく美しくカッコよく見えること。これは、私が撮影の際に常に心に留めていることです。

余談ですが、肉体感を演出するためにスポンジを入れたり、お尻を大きく見せたりして工夫しているところはまさにDIYだと思いました。ある意味、存在感で女性を超えなきゃいけない。まさにトランスフォーマーですね。「パリはオートクチュール文化だから衣裳は自分で作るの」と話すドラァグクイーンもいました。

WWD:彼女たちが背中を押してくれたと。

ヨシダ:「迷惑をかけなければ、何をやってもいい。あなたのドラマを生きなきゃ」と。素直でまっすぐ、そして愛情深い。「あなたもかわいいわね、でも私の方がもっとかわいいけど」と返してきますが(笑)。彼女たちは愛の詰まった人たちです。“ファンタジー” “ドラマ” “イリュージョン”、これらがよく会話の中で出てきた言葉です。

WWD::表紙について聞きたい。

ヨシダ:どうしても撮影したかったパリのコリーヌに何度もアプローチをして、ようやくOKをもらえました。20年以上キャバレーで演じているのですが、「でもドラァグクイーンの一員よ」と。分かりやすい装飾性のある華やかさではないのですが、カッコいいんです。

作品集のタイトルにもなっている“No Light, No Queen”は、ニューヨークのドラァグクイーンが言った「私、照明がないと化けものだから」とユーモアで言った言葉だったのですが、「クイーンには華やかなスポットライトがふさわしい」と再解釈しました。光に照らされて華やかに立つドラァグクイーンたち、これからステージが始まるかのような表紙にしました。

WWD:最後にドラァグクイーンとはどういう存在だと思うか?

ヨシダ:今回18人を撮影しましたが18人の“自由の女神”だと思いましたね。「自由になろう、個性を認めよう」ということ。自分の美しさの物差しに当てはめず、自分と違うことは受け入れる。それがドラァグクイーン。そして自分が美しいと思うものを愛せればいいんじゃない?その姿勢が美しいということです。

【お知らせ】東京・西武渋谷店の催事場で4月21日から5月10日まで、個展「DRAG QUEEN -No Light, No Queen- photo by nagi yoshida」を開催予定。(※なお、新型コロナウイルスの影響により、延期・中止・変更・入場制限の可能性があります。ヨシダナギ公式HPや各会場の随時ウェブサイトを参照ください)

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