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仕事が絶えないあの人の、“こうしてきたから、こうなった” 美容室のサブスク展開の鈴木みずほジョシー代表編

 転職はもちろん、本業を持ちながら第二のキャリアを築くパラレルキャリアや副業も一般化し始め、働き方も多様化しています。だからこそ働き方に関する悩みや課題は、就職を控える学生のみならず、社会人になっても人それぞれに持っているはず。

 そこでこの連載では、他業界から転身して活躍するファッション&ビューティ業界人にインタビュー。今に至るまでの道のりやエピソードの中に、これからの働き方へのヒントがある(?)かもしれません。

 第7回目に登場するのは、美容室のサブスクリプション(定額制)サービス「メゾン(MEZON)」を運営するジョシー(JOCY)の鈴木みずほ代表。音楽配信や映画などさまざまなジャンルで“サブスク”によるサービスが増える中、「メゾン」が提案するのは提携の人気美容室をどこでも利用し放題の定額サービス。「髪に対して向き合えば人生が変わる、自信につながる」——鈴木代表は自身の原体験からそう断言します。ウェブ広告の会社員を経て起業をし、やりたいこととその思いに真正面から向き合い進んできた注目の経営者に迫ります。

WWD:以前はサイバーエージェントグループにお勤めだったのですね。

鈴木みずほ(以下、鈴木):不動産会社での仕事を経て、2012年に第二新卒で入社しました。転職エージェントに“成長できる会社”という条件で紹介してもらったのが縁です。でも正直なところ、最初は気が進みませんでした(笑)。当時のIT業界といえば華やかなイメージが強かったので、変な先入観を持っていて。それでもなぜ入社を決めたかというと、チャンスが与えられる会社であることを面接を通じて感じたからです。主力であったウェブ広告のサービスについて、私が感じていたマイナス面を面接担当者に正直に伝えたら、「それを考えるのが鈴木さんの仕事だからね。頑張って」と。入社も決まっていない相手にそう言葉をかけてくれる会社っていいな、ここなら必ず成長できるはず、と入社を決めました。最初の1年は営業職、その後の4年半は通信会社やデータ保有会社などと事業提携をしてウェブ広告の新しいサービス作っていました。新規事業開発はやらなくてはならないことも多く多忙でしたが、やりがいを感じていました。

WWD:手応えを感じながらも“独立”の2文字が頭にあったのでしょうか。

鈴木:会社には、いずれ起業をして辞めることを宣言して入社しているんです。退社したのは28歳です。小学生の頃から、祖父や父のような経営者になりたいと漠然と考えていました。その思いが特に強くなったのは、中学3年生のとき。父の会社の経営が傾き、生活が一変しました。それまでは何不自由なかったのがそうでなくなって。すると会社も家庭の雰囲気もとても変わっていきました。経営を立て直すためにもがく父の姿を見て、「人生を懸けてチャレンジできる仕事っていいな」「経営するってなんて面白い仕事なんだろう」と。子どものくせに、直面している家庭の状況をものすごく客観的に捉えていましたね(笑)。経営者が成長し続けない限り、会社の状況や周りの人の人生にここまでの影響を与えてしまうということや、良くも悪くも世の中にインパクトを与えられることに興味を持ちました。

美容室で自信をもらっている

WWD:2年前に起業して立ち上げた「メゾン」はどのようなサービスですか?

鈴木:美容室の定額制サービスです。「ケーツー(K-two)」「アピッシュ(apish)」など約400店舗の人気美容室で、プランによってシャンプー、ブロー、ヘッドスパ、トリートメントを定額で受けることができます。通える回数が決まったチケットプランを除けば、通い放題のプランは全部で3つ。平日にシャンプー・ブロー通い放題の1万6000円、全日シャンプー・ブロー通い放題の2万5000円、全てのメニューを通い放題の3万5000円のプランです。ユーザーは、提携美容室の中からその日の予定に応じて好きなところを選んで通うことができます。

WWD:なぜこのサービスを始めようと思ったのでしょうか。

鈴木:私の原体験がもとになっています。前職の頃は、表参道にある美容室に月に4〜5回通っていました。銀座や恵比寿で予定があったとしても、わざわざ表参道へ移動しなくてはならない。自分が行動する動線上に美容室が寄り添ってくれたらいいのに、と思ったんです。美容室は国内に25万軒と、コンビニの5倍もある。行きたいときに行きたい場所に美容室があるという状況をつくり出すことはできるんじゃないか——そう思いつきました。

月に何度も美容室に足を運ぶ私は、ただきれいにしてもらっているだけじゃなくて自信をもらっていたように思います。当時、大事な商談やプレゼンの前に美容室に行くと商談の成立率が上がることに気づきました。周りの女性に聞くと、3〜4カ月に1度しか美容室に行っていないことを知り、それはすごくもったいないと感じて。ならば、気軽に美容室に立ち寄るライフスタイルをつくろうと、サブスクリプションサービスを立ち上げました。

WWD:コンビニ感覚で美容室に通えるのですね。

鈴木:美容室が増え続ける一方で、お客さまの数はほぼ変わっていません。何が起こるかというと、結果的に美容室同士でお客さまを奪い合ってしまう。カット・カラーで3カ月に1度しか接点を持てないのではなく、日常的にシャンプー・ブロー・ヘアケアで来店してもらうことで美容室側に新たな役割を作ることができれば、美容室の売り上げも伸びるだろうと考えました。

WWD:なるほど。美容室の稼働率がぐっと上がりますね。

鈴木:美容室が抱える「集客」の悩みは大きく2つあると考えています。1つ目に、平日の稼働率。どんなに人気の美容室でも平日の昼間が埋められないことも多いと聞きます。カット・カラーは2〜3時間かかってしまうので、平日に行ける人は限られますよね。シャンプー・ブローのメニューなら最速30分で終えられます。「メゾン」利用者の内訳を見てみると、平日の12〜18時に利用する働く女性が最も多いんです。

2つ目は、リピート顧客をつくることの難しさ。クーポンサービスのシステムで集客せざるを得なくなってくると、お客さまにとっては”クーポン価格”が魅力であって、“人”ではなくなってしまいます。2回目に来てくれることはなく、より手頃なお店へ行ってしまう。一方、「メゾン」を利用してシャンプー・ブローで何度も美容室に通っていると、自然とスタイリストさんと仲良くなるんです。定額制のシャンプー・ブローで来店したお客さまが「今日は○○さんにカットもお願いしようかしら」と、アップセールスにつながっているという報告を多く受けています。クーポンで選んでいるのではなく“信頼”で選んでいく——そんな理想の形のお手伝いをしていきたいですね。

WWD:美容室側の金銭的なメリットはどのようなものなのでしょうか。

鈴木:お客さまにご利用いただくと、「メゾン」からは一定の割合を美容室へお支払いするような仕組みになっています。例えば1か月間毎日利用いただくと、美容室側に30日×単価分の収益が上がります。美容室は赤字のリスクがなく、利益を上げることが可能です。そういった仕組みにしたのは施術をしてくれる人たちに一番還元したいという思いからです。自分たち、提携先、お客さま、すべてが笑顔になれる“三方よし”の精神ですね。このビジネスモデルは、前職の新規事業開発の部署での経験が生きています。新規事業の立ち上げ時は、文字通り鳴かず飛ばず。自分たちの利益だけを追求していて、全くうまくいかなかった。でも誰もが幸せになるようなビジネス設計をすると車輪が回り始めたんですね。今のサービスを考える際、初めからこのビジネスモデルでいくと決めていました。

WWD:それぞれの美容室はスムーズにこのシステムを受け入れてくれたのでしょうか。

鈴木:はい。今も新たに美容室を開拓していますが、新規で提携してくださる確率は96%以上です。その理由は、カット・カラーの集客ではなく、今までにないプラスの価値を提供できているからだと思っています。

でも私たちが大事にしているのはオーナーさん以上に、実際に施術してくださるスタイリストさんがいかに「メゾン」のサービスを理解してくださるか、ということ。スタイリストさんは売り上げを追っているので、1回の来店でいくらのもうけが出るかという発想になるんですね。クーポンを利用する新客の来店では、カット、カラー、パーマをすれば2万円ほどの売り上げとなります。ただ、再来店の確率はスタイリストにより差が生じます。分かってはいるのだけど、目の前の2万円を魅力に思ってしまいがちです。なので、私たちが勉強会を開催し、中長期的な視点でお客さまを育てて行くのが「メゾン」です、という風に自分たちの言葉で伝えるようにしています。今後はユーチューブチャンネルも活用して、自分たちの思いや「メゾン」を利用してくださっているサロン側からのコメントなどを発信していきたいと考えています。

自分たちのサービスに自信を失いかけたことも

WWD:起業してからこれまでピンチはありましたか?

鈴木:3期目を迎えるまで、正直ピンチというピンチはなかったかもしれません。もちろん数字が思うように伸びなかったことはありますが、それを苦労とは思っていなくて。でも、去年の12月は苦しかった。いろいろな人に事業のアドバイスをいただくなかで、自分の事業に自信を持てなくなったことがありました。

そんなとき、足を運んだのはやはり美容室。そこで思い切って髪をショートにしました。髪を切ったら、考え方まで削ぎ落とされた気がしました。「このサービスで本当に幸せにしたい人って誰だったっけ?」とあらためて考えたときに、このまま進んではダメだ、と。関わってくださる人たちや私が幸せにしたいと思う人たちのためにも、私自身が自分たちの事業を誰よりも信じよう。そう意思を固めました。髪の毛が変わると、気持ちや人生まで変わるんだと身をもって実感しました。

だからこそ、髪を委ねる“人”が大事だよ、ということを伝えたいです。いろいろな美容室にクーポンを使って行くのもいいですが、美容師さんは言わば人生の伴侶。心から任せられる美容師さんと出会って、人生をリデザインしてもらうことで好転していくはずです。髪は素材美なので、たとえスッポンポンになっても付いてきます(笑)。そこが美しく自分にしっくりくれば、自分らしく生きられると思うんです。

WWD:ヘアにおいて女性を見て思うことはありますか?

鈴木:そうですね、日本の女性は髪へのプライオリティーが低いと感じます。髪よりも、ファッションやメイクといった外側の部分にお金を掛けている印象です。単純に髪をきれいにという話ではなくて、髪型を変えることで人生をデザインできるんです。私たちみたいなサービスサイドがそれを啓発していくことで、素材美を磨くことを推進できたらと思います。

WWD:次にどのようなことを仕掛けていきたいですか?

鈴木:ジョシーの存在価値は、“人に自信を提供すること”にあります。今、メンズ向けのサービスも絶賛準備中です。ただ、ヘアに固執するのではなくあらゆる形でアプローチできたらと思っています。その次に何をするかはあえて決めていません。たとえ今決めたことを3年後に実行しても、まったく必要とされていない可能性もある。その都度感じたことの中で、今ならこれだ!というサービスを堂々と発表したいと思っています。

WWD:今いる場所から新たなキャリアを積もうと考えている人にメッセージをお願いします。

鈴木:後輩や周りの女性たちから「会社を辞めようと思っているけれど、踏ん切りがつかない」という相談を受けることがあるのですが、そういうときには「会社を続けた方がいいよ」と伝えています。ドライに聞こえるかもしれませんが、本当にやりたいことなら体が先に動いているはずです。今は資金も比較的集まりやすく、起業もしやすい環境かもしれません。けれど、もし女性が起業という選択を考えるのであれば、よく考えた方がよいと思います。結婚、出産とライフステージが変わり、さらに会社をつくり組織を持って責任範囲が広がるとなると、本当に大変だからです。じっくり考えて、それでも自然と体が動いてしまうほどの熱量が溢れる何かで新しいことにチャレンジできたら、それはすごく幸せですよね。私自身ももがいてきたからこその、正直な気持ちです。

藤井そのこ:1984年、福島県生まれ。東京女子大学心理学科を卒業後、バーニーズ ジャパンに入社。7年間に渡りジュエリーやコスメの販売職を経験し、30歳でライターに転職をしフリーランスに。主に著名人インタビューや住宅の取材、料理ページなどを女性誌やウェブ媒体で担当。趣味はライブに行くこと、茶道