フォーカス

「ボッター」が上々のパリコレデビュー 「ナイキ」との巨大シューズなどDIY精神溢れるハッピーなコレクション

 ルシェミー・ボッター(Rushmey Botter)とリジ―・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)のデザイナーデュオが率いる「ボッター(BOTTER)」が、パリ・メンズ・ファッションウイークで2020-21年秋冬コレクションを発表した。彼らは18年から「ニナ リッチ(NINA RICCI)」のアーティスティック・ディレクターを務めているが、自身のブランドでパリ・メンズ・ファッション・ウィークに参加するのは今回が初めて。

 筆者が彼らに取材をするのは今回が2度目だ。前回は「第33回イエール国際フェスティバル(33e Festival International de Mode, d'Accessoires et de Photographie à Hyères)」でグランプリを受賞した約2年前。ショー開始1時間前に筆者がバックステージへ入ると、「前にも取材してくれたよね?」と笑顔で挨拶を交わしてくれた。グランプリ受賞からの2年で心情に変化があったかたずねると、「自身のブランドのデザイナー、さらには『ニナ リッチ』を率いる立場として責任感は増したけど、心の内は変わらない。きっと僕らの関係性が何も変わらないからさ」と、少し離れた所に立っていたヘレブラーに目を向けながら答えた。彼らはビジネスパートナーであり、長年の恋人同士でもある。この2年でアントワープからパリへと拠点を移し、現在住居も共にしているという。

ポップでキャッチーなアクセが豊富

 環境や肩書きが変わっても、彼らのクリエイションの基盤はデビュー当時と変わらない。ハンドメイドでペイントや装飾を加え、身の回りにあるアイテムで自由にDIYを楽しむ精神だ。「アルト・ポーヴェラ(Arte Povera)による楽観的なバイブス」と、ボッターはブランドについて形容した。アルト・ポーヴェラとは、60年代にイタリアで始まった美術運動で、日本語では“貧しい芸術”と訳される。材木や石、古布など非芸術的な物に作り手の身体や思考を結びつけて表現される美術とされている。会場の真ん中にはキュラソー島(カリブ海に位置する島)を拠点にアーティストとして活動するティルゾ・マルタ(Tirzo Martha)が制作した、便器やタイヤ、扇風機がぶら下げられたアート作品が飾られており、ショーではルックを視覚効果で芸術的に見せる役割を果たした。

 今季のコレクションでは、カラフルなバルーン、商品値札の留め具、空気ビニールの中にパスポートを入れた小物などがアルト・ポーヴェラを示すアイテムと言えるだろう。ショー30分前のリハーサルで、モデルが着用した「ナイキ(NIKE)」とのコラボレーションによるスニーカーが故障するハプニングに見舞われた。分厚い靴底が外れて歩ける状態ではない。ボッターは釘と電動ドリルを持って急いで補修を施し、ショーには間に合った。予定にはなかっただろうが、結果的にそのスニーカーが最も「ボッター」らしいDIYに満ちたアイテムとなったようだ。ボッターが補修を行っている間、ヘレブラーはルックのスタイリングの最終確認や早着替えの練習を進行していた。通常バックステージには、フィッターと呼ばれるモデルに衣服を着用させる担当者が2ルックに対し1人程度備えているのだが、同ブランドに関しては29ルックに対して5人程度のフィッターしかいなかった。ボッターとヘレブラー自身がフィッティングからスタイリングまでをほぼ全て仕上げており、クリエイションだけでなくショーの作り方にもDIYの精神が宿っているようだった。

 「とにかく楽観的なメッセージを伝えたかったんだ」。ショー後の囲み取材でボッターがコレクションの詳細について説明する。「例えば、入院患者を励ますために贈り物として届けるバルーンって、人を元気付けるパワーを持っているよね。そんな風に『ボッター』はポジティブなエネルギーを、見る人や着る人に与えるブランドへ成長させたいという想いを込めたんだ」。続けてヘレブラーも口を開いた。「“醜い物を美しく見せる”ことこそ、私たちが日々学び、コレクションを通して見せ続けていきたいの」。故障したら補修して、長い期間をかけて育む——2人の関係性もブランドも、我流のDIY精神で無二の道を築いていくのだろう。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける