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ユースの旗手 ラッパーTohji「ファッションが本当の自分を取り戻してくれる」

 昨今、グラミー賞でラップミュージックが史上初の年間最優秀レコード賞と年間最優秀楽曲賞を受賞したほか、ラッパーがランウエイモデルや広告ビジュアルとして起用されるなど、ヒップホップがメインストリームの座を確立したことをまざまざと見せつけている。

 そんな時代の潮流の中でひと際異才を放つラッパーがいる。Tohjiだ。最近ではプロデューサーでシンガーの小袋成彬のニューアルバム「Piercing」に「Tohji's Track」を提供したほか、プロデューサー・DJとして世界的に活躍するムラ・マサ(Mura Masa)の2019年のジャパンツアーでは東京と大阪公演に同行するなど活躍が目覚ましい。また、ファッション誌「オーリー(Ollie)」(ミディアム)2019年10月号では表紙を飾り、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」の「ランドロード ニューヨーク(LANDLORD NEW YORK)」2020年春夏コレクションのランウエイを歩くなど、ラッパーとしてだけでなくジャンルレス、ボーダーレスに活動を続けている。

 東京を中心に全国のユースから圧倒的な支持を受け、19年を象徴するムーブメントにまで成長したといっても過言ではないTohji。新鋭ラッパーの彼に、インターネットが浸透しきった時代の楽曲の制作方法やリスナーとの関係性、「自分を取り戻してくれるもの」と語るファッションについて聞いた。

WWD:いつヒップホップを聴き始めたのですか?

Tohji:ヒップホップは中学のときから聴き始めました。当時の俺にはヒップホップは新鮮で、そのマインドセットが新しかったです。日本だったらSEEDAさんとか(キング)ギドラとか、海外だったらカニエ・ウェスト(Kanye West)とかもよく聴いていたし、ウータン・クラン(Wu-Tang Clan)みたいな古いアーティストも聴いていました。でもヒップホップだけが好きだったわけじゃなく、エイフェックス・ツイン(Aphex Twin、現代テクノ界の最高峰と評されるイギリス出身のDJ)とかTHE BLUE HEARTSみたいに気分に合うものは何でも聴いていました。

WWD:何か新しいことをやりたくて始めたのがヒップホップだった?また、ラッパーとして活動していくと決めたきっかけや出来事などはありましたか?

Tohji: 確かにヒップホップはずっと聴いていたけど、「ヒップホップをやろう」って意気込む感じではなかったです。ギターの弾き方やバンドの組み方も分からなかったから、それに比べるとラップは始めるのが簡単だったので自然とこの形になっていました。でも、音作りだけ生真面目にやっていくのは自分的にしっくりこなくて。USでエイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)やタイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)が音楽だけじゃなくてファッションとかビジュアルを取り入れる動きをしていて、いろいろな表現をごちゃ混ぜにするのが当たり前になってきてしっくりきました。

Tohjiの主催した「Platina Ade」のパフォーマンス

WWD:新世代の若手ラッパーやDJなど自身と同年代のアクトをそろえて、3月に主催したイベント「Platina Ade」は大きな話題になっていましたね。

Tohji:「Platina Ade」の2か月前に東京・恵比寿のバチカでイベントをやったんですけど、そのときの来場者は150人ぐらい。でもそれから2カ月後に渋谷のWWWで開催した「Platina Ade」には550人集まったんです。このイベントをきっかけに一気に自分のイメージに近づいた感じがあったし、東京に新しい流れができたと思う。

WWD:主催するイベントではジンの販売や、SNSで出店者を募ってフリーマーケットを開催したりしていますがその意図は?

Tohji:みんなが何かをノリで表現できる場所が作れたらいいなと思って。この前(OKAMOTO‘Sのオカモト)レイジくんにつないでもらって「リーバイス(LEVI'S)」と一緒にコラボアイテムを製作したり、原宿にできたフラッグシップのオープニングイベントでライブをしたんですけど、そういう大きなブランドと対等に仕事をしたり、今までよりも大きなフィールドに進出したときに、そこで自分たちがつかんできたものを別のところへ還元したいなって思っています。一瞬のエンターテイメントじゃなくて、本質的なカルチャーにしたいと思っているから、これからもそういった場所を作っていきたいです。

WWD:イベントにはどういった人たちが出店したのでしょうか?

Tohji:インスタで直前に呼びかけてフラットに出店者を選んだから、JUN INAGAWA(「ディーゼル(DIESEL)」や「ヴィーロン(VLONE)」などファッションブランドとも協業する20歳のアーティスト)みたいにすでに大きなブランドと仕事している人もいれば、絵を描き初めてまだ1~2カ月の子もいました。ステージは違っても、同じノリを持った人たちが一つの場所で仲良くなれればって思って。フリマがあった自主企画の翌月、「全感覚祭」 (バンドGEZAN主催の投げ銭式の音楽フェス)のライブ中にステージの上から観客席を見ていたんですけど、自分のイベントで仲良くなった人たちがモッシュの真ん中にいて、うれしくなりました。

WWD:SNSでもファンと積極的に交流を図っていて人とのつながりを大事している印象がありますが、ファンとの関係をどう考えていますか?

Tohji:俺は音楽以外にも映画が好きなんですけど、ほとんどの音楽とか映画は結局見終わっても現実はそんなに変わんないなと思っていて。膨大な費用と時間をかけて制作した映画やライブでも、その瞬間は楽しいし盛り上がるかもしれないけど、人生が変わるわけじゃない。その現実と切り離されている感じがすごく嫌で。そういう意味でリスナーとアーティストの垣根がなくなって、自然にお互いの感情や役割を行き来する感じがいいなって思っています。自分が表現する以上は、みんなの生活をみんなで変えたい。

アンチアンチアートが手掛けた「HI-CHEW」のMV

WWD:ベトナムの映像制作チーム、アンチアンチアートが手掛けた「HI-CHEW」のMVでは自身を堕天使に見立てた映像が印象的でした。昨年8月に発表したミックステープ「angel」のタイトルにかけている?

Tohji:自分にとってしっくりきたのがあのビジュアルでした。俺は、日本の古い不良ノリはあまり救いがなくて。「HI-CHEW」のMVで表現した天使と悪魔のような神秘的なものに救いを見出している気がします。今ってみんなすぐに自分たちを何かに当てはめている気がするんですけど、俺はフラットに世界中のノリが合う人に自分のクリエイティブを届けたいって思っているから、天使と悪魔みたいな普遍的でシンプルなものが自分にとってすごく大事だなって思いますね。自分が仲間とインディペンデントに活動しているのも、そういう枠とか壁にとらわれたくないからだし。

WWD:「angel」タイトルにはどのような意味が込められていますか?

Tohji:今ってなにもかもがぐちゃぐちゃで、新しい時代に向かって突き進んでいる黎明期だと思っています。音楽も面白いものがたくさん出てきて混沌としていて、“みんな違って、みんないい”みたいな雰囲気がある。だけど「結局俺らどうしたらいい?」みたいな漠然とした不安とか疑問もあると思っていて、自分に「ラッパーなのか?それともアートをやりたいのか?」って問うなら、答えは「YES」であり「NO」でもあるみたいな。そういうのを貫く言葉が “angel”でした。だから作品を通じて“エンジェルバイブス”を表現しています。

WWD:これまで発表してきたEPと「angel」はどういった点が異なりますか?

Tohji:ラップを始めた頃は、ずっと部屋にこもって一人で制作していて、ラップもトラックもMVも全部自分でディレクションして作っていました。でも今回リリースした「angel」は、トラックメーカーのMURVSAKI君と何カ月も一緒に生活して制作したのが一番大きな違いです。「自分が部屋にこもって培ってきたのを外に持っていったらどうなるかな」って思って。だから感覚的には自分の部屋から出て、“初めて外の世界と一緒に作った作品”というか。MVもこれまではMall Boyz(Tohjiが所属する映像制作やマネジメントなどを手掛けるクリエティブ集団)や友人と一緒に作ってきましたが、今回はノリが合う“外”の人たち、例えばベトナムの映像クルーアンチアンチアート (ANTIANTIART)やロシア人アーティストのアントン・レヴァ(Anton Reva)と作ったりしました。

「Snowboarding」のMV “ナイキiD(NIKE iD)”で制作したAIR MAX95を着用している

WWD:「angel」のアイキャッチなアートワークや収録曲「Snowboarding」のMVを手掛けたアントン・レヴァとはどのようなきっかけで共作に至ったのですか?

Tohji:昨年4月頃に渋谷・WWWで無料のレイブイベントがあって、ガバやトランスとかが流れるイベントだったんですけど、そこにたまたま来日していたアントンが遊びに来ていて、イベントが終わったあとにインスタでDMをくれたのが始まりです。あいつのインスタを見たらすごく面白くてその後もDMで連絡を取り合っていたんですけど、「angel」を制作している時期にちょうどロシアに帰国していたから、飛行機代と宿を用意して東京に呼び戻して、それで一緒に作品を作りました。

WWD:アートビジュアルのコンセプトは?

Tohji:“汚くて傷ついてもきれい”“気持ち悪いけど美しい”。“そのままの自分を肯定しろ”みたいな感じです。「キモいまんまでいけ!」みたいな。ほかに合わせるんじゃなくて、自分でかっこいいっていう思う何かを作って、トレンドをこっちからつくっていけって感じです。

WWD:18年に自身初のEPを出してから約1年で一気に19年を象徴するアーティストにまで駆け上がりましたが、心境の変化や人気の高まりを感じますか?

Tohji:体感としてはこの1年で5年間ぐらい経った感じがあります。知られることで、ファッション業界の人もそうだし、これまでは関わることが少なかった人たちが自分のことを知って声を掛けてくれるから、新しいチャレンジができてうれしい。

WWD:自分史の中で19年はどういう位置付けですか?

Tohji:ホップ・ステップ・ジャンプの“ホップ”です。昨年は自分だけじゃなくてチームのみんなとイベントをつくったりレーベル業務をやったりといろいろなチャレンジをしました。ただ企業やメディアから話を受けるだけじゃなくて、例えば「オーリー」の表紙撮影の時も「こういう服装でこのロケーションで、こういうライティングの方がかっこいいと思うんですが、どうですか?」って俺たちで提案し直してディレクションするようにしてます。企業とアーティストっていう関係じゃなくて、面白いことがやりたいって提案があったら俺らもフェアに乗っかっていく。その姿勢で大きなブランドとコラボレーションができたり、雑誌の表紙を飾れたのは大きかったけど、まだ初めてのことが多かったから、やっと準備が整ってきたかなって感じです。

WWD:最近ファッションブランドがアーティストを起用することが多くなってきていますが、どのように感じますか?

Tohji:人によると思うけど、すごいいいことだと思う。俺はやっぱどんどん新しい表現にチャレンジしていきたいから、それこそこの前の「ランドロード ニューヨーク」みたいにオファーをくれて、一緒にいろいろ作り上げたり新しい経験をする機会があるのはすごくうれしいですね。

WWD:「ランドロード ニューヨーク」2020年春夏コレクションのランウエイを歩いたきっかけは?

Tohji:俺が行ってる床屋に「ブラックアイパッチ(BLACKEYEPATCH)」の人も通っていて、その人が「ランドロード ニューヨーク」クリエイティブ・ディレクターの川西(遼平)さんを紹介してくれたんです。最初床屋からブッキングのメールがきた時はナゾでしたね。

WWD:シースルーやメッシュ素材を取り入れたライブ衣装が印象的なTohjiさんですが、衣装は私服ですか?

Tohji:ライブのときに着ている服は私服です。その服を着て動いているときにかっこいい服を選んでいる気がします。変わった素材や服を選んでいるつもりはなくて、機能性がある服が好きなんです。ダボダボだったら動きやすいし、シースルーとかメッシュも動いたときに涼しいから着ています。

WWD:好きなブランドは?

Tohji: 「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」が好きです。形が変わっているんですけど、でもただ奇をてらっているわけじゃなくて。作りがしっかりしているし、機能性を兼ね備えてるところが好きです。

WWD:今後ファッションの分野で取り組んでいきたいことは何かありますか?

Tohji:いつになるか分からないけど、どこかのタイミングで “ギア”みたいな服を作りたい。みんなが買える値段で、踊ったり動けるシンプルなかっこいいやつ。

WWD:Tohjiさんにとってファッションとは?

Tohji:本来の自分に戻してくれるものです。裸のときの自分はなにか欠けているって感じる部分があって。服を着るとその欠けていた部分がバチっとハマる感じがあるんです。ファッションは自分のいいところをよりよく引き立ててくれるので好きです。