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購入単価は最大3倍 ジールスのAI接客が挑む日本的“おもてなし”の再現

生成AIの進化によって、オンライン接客も大きな転換点を迎えている。これまでECサイト上の接客ツールといえば、あらかじめ設定された選択肢をたどるシナリオ型チャットボットや、問い合わせ対応を目的としたチャットサービスが主流だった。そんな中、“接客”に特化したAIエージェントの開発を手掛けるジールス(ZEALS)は、テキストや音声で顧客と自由に対話し、ブランドを代表する“接客担当者”として商品提案や相談対応を行うAI接客エージェント「Omakase AI(おまかせAI)」を提供している。同サービスは2025年1月に米国で先行ローンチ。日本では同年6月に本格展開を開始した。

すでに大手化粧品企業やD2Cブランドなどで導入が進み、接客を受けた顧客の購入単価は平均で10%以上、ケースによっては3倍に向上しているという。1月には、新機能「AIカメラ」をパーソナライズヘアケアブランド「MEDULLA(メデュラ)」に国内初導入したと発表。AIカメラによる髪や肌の視覚情報と音声を組み合わせたマルチモーダル接客を実装した。一方で、「何がこれまでと違うのか」「美容部員は不要になるのか」といった疑問も聞かれる。ジールスでマーケティング責任者を務める渡邊大介・執行役員に、美容業界におけるAI接客の現在地と今後の可能性を聞いた。

WWD:改めて、「Omakase AI」の概要を教えてください。

渡邊大介ジールス執行役員(以下、渡邊):簡単に言うと、ブランドやサービス、企業を代表してAIがお客さまと直接やり取りできる「接客AI」です。従来のチャットボットは、裏側に人がいて返信するタイプや、選択肢をたどるシナリオ型が主流でした。一方、「Omakase AI」は完全自由応答に対応しています。テキストチャットと音声チャットをワンタッチで切り替えられる点も特徴です。電車の中ではテキスト、自宅では音声といった使い分けができます。

普及フェーズの米国で先行ローンチ
反響はコスメ業界が突出

WWD:米国で先行ローンチしましたが、米国で評価された部分はどこですか。

渡邊:特に音声のクオリティーです。米国ではテキストチャットのAI化はかなり進んでいましたが、音声で提供しているプレーヤーはほとんどいませんでした。そこで、音声のクオリティーで勝負しようと考えました。米国では比較的小規模の企業に受け入れられています。一方、日本ではエンタープライズのお客さまが中心です。

米国では一昨年くらいから近しいプレーヤーが存在しており、大企業はすでに何らかのAIを使っているケースが多かった。少し遅れて、中小企業が「そろそろAIをやらなければ」と動き始めた流れがあります。日本では2025年がAIエージェント元年と言われましたが、前半に動いたのはアーリーアダプターの企業やブランドが中心でした。26年はマジョリティへ移行し、中小企業にも広がると見ています。

私たちはサンフランシスコに法人を構え、現地で採用もしています。開発スピードなどを、すでに普及フェーズに入っている米国の水準に合わせることが重要だと考えています。

WWD:米国での先行ローンチのフィードバックは?

渡邊:ローンチ後、大きな壁にはぶつかったという感覚はありません。ただ、「これがないと使いこなせない」「これがあるともっといい」というフィードバックは多くいただきました。優秀なエンジニアが日米におり、早ければデイリー、遅くても数日単位でアップデートしています。25年1月末に米国でサービスインしてから、1年で100以上の機能をローンチしています。毎週何かを出している状態です。AIと一緒に開発すると、これほど早いのかと実感しています。

新たに“目”の機能を拡充
AI接客の強みと弱みとは?

ジールスでマーケティング責任者を務める渡邊大介・執行役員

WWD:日本でサービス提供を開始してから反響はいかがですか。

渡邊:反響は非常に大きいです。受注・導入を含めると日本だけで3ケタに迫る企業から引き合いをいただいており、サービスローンチから約1年としてはかなり強い数字だと見ています。D2C、トラベル、人材、教育など幅広い業界から問い合わせがありますが、特にコスメ領域の関心が最も強く、次いでアパレルです。

WWD:1月に発表したAIカメラ機能はこれまでなかったサービスですか。

渡邊:私たちの認識では、なかったと思います。もともとロボットに搭載するAI、いわゆるフィジカルAIの開発の中で、ロボットが自律的に動くためにカメラ機能を開発しました。その副産物として、ウェブでも使えるのではないかと考え、“逆輸入”した機能です。人間は目を持って接客している以上、AIも目を持たなければ人間に近づけない。

WWD:化粧品業界では、ブランド体験と販売拡大の両立が重要です。スキンケアのように感覚的・個別的な対応が求められる領域で、どこまで細かく対応できるのでしょうか。

渡邊:大きく3つの要素があると思っています。1つ目は、自然なコミュニケーションです。テキストや音声におけるスピード、トーン、自然さです。2つ目は、ユーザーをどれだけ認識できるかです。声だけでは声質や発話内容しか分かりませんが、カメラがあれば肌を見て評価できます。人間は目で判断しているので、AIも目を持つ必要があります。

3つ目は、得た情報をどう処理するかというナレッジ、インテリジェンスの部分です。現時点で人間を完全に代替できるわけではありませんが、ブランドの世界観を大事にする企業にも使っていただける水準にはなっています。特に重要なのはナレッジです。コスメ企業には美容部員向けの接客クレド、マニュアル、教育動画など、知的財産が多くあります。それらをAIに学習させ、接客品質を整えています。

WWD:人間とAI接客を比較したときの強みと弱みは何ですか。

渡邊:AIの一番大きな強みは、時間帯を問わないことです。24時間365日、インターネットさえあれば対応できます。美容部員が働いている時間と、お客さまが相談したい時間は必ずしも一致しません。朝や夜に対応できるのは大きな優位性です。もう1つは品質の安定です。美容部員にはレベル差がありますが、AIはナレッジを共通化すれば一定品質を保てます。

弱みは、人間の深さです。その人のことをどこまで理解してコミュニケーションするか、偶発的なやりとり、例えば共通の趣味の話から一気に関係性が深まるような接客は、まだ人間の方が強いです。ただ、今は偶発性よりも、品質を整えることが重要です。コミュニケーションの質も、3年ほどで人間と変わらないレベルに近づく可能性があります。

AIはブランド人格を再現できるか
日本的おもてなしのカギは“先読み”

WWD:AI接客において、ブランドの世界観はどう表現されますか。

渡邊:私たちはコミュニケーションAIなので、ビジュアル的な意味での世界観は無色透明に近いです。ただ、ブランドの世界観は視覚だけではありません。トーンや話し方も重要です。例えば、「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」のようなブランドで、「渋谷109」の店員さんのような接客をしたら、ブランドの文脈には合いません。そこで、AIの性格を設定できるようにしています。ナレッジが脳みそだとすると、その知識をどのような性格で扱うかを設定できます。冷静なコンサルタント、明るく元気な大阪のおばちゃんのような設定も可能です。

WWD:日本仕様として工夫していることはありますか。

渡邊:「おもてなし」は米国にはそのまま置き換えられる言葉がありません。私たちは一つの定義として、英語でいう「anticipation」、つまり先読みだと考えています。例えば、ロボットの文脈では、人がジャケットを脱いだら、何も命令されなくても手を差し伸べる。これがおもてなしだと定義しています。AI接客でも、ただ「クレンジングオイルを探しています」に対して「あります」と答えるだけではおもてなしではありません。「クレンジングオイルを探しているということは、こういう悩みがあるのでは」と逆質問するような形です。

ただし、日本的なおもてなしが米国で良い体験になるかは検証が必要です。文化によって良しとされるコミュニケーションは違います。そこはローカライズが非常に重要です。ロレアル(L’OREAL)も英語圏ではAIビューティアドバイザー「Beauty Genius」のような取り組みを進めていますが、日本やアジア圏には別のカルチャーがあるため、ローカライズされたパートナーが必要とされています。

WWD:取得したデータをどうパーソナライズに活用するのですか。

渡邊:まず、AI接客の中で取得した情報、例えばテキストや音声の対話内容、カメラで認識した内容は、そのセッション中にAIが記憶します。人間でいう短期記憶です。例えば「渡辺です」と名乗れば、渡辺さんとして認識して対話します。肌荒れに悩んでいるなら、それを前提に接客します。さらに深いパーソナライゼーションには、既存の購買データや会員IDとの連携が重要です。以前にクレンジングを買っていれば、それがなくなるタイミングで提案できますし、その商品と相性の良いオイルを勧めることもできます。

もう一つ重要なのが「感性検索」です。従来は「肌荒れ」「スキンケア」「クレンジング」のように悩みやカテゴリー名で検索していました。しかし、人はもっと曖昧な感情や雰囲気で相談することがあります。例えば「43歳で最近運動を始め、収入にも余裕ができてきたので、化粧品ブランドを変えたい」といった相談は、従来の検索では答えにくい。こうした感性や雰囲気を理解し、商品につなげることを目指しています。

WWD:「Omakase AI」導入企業が、運用して感じる課題は何ですか。

渡邊:人間と比較されるので、「この発話は不自然」「この場合はこの商品ではなく、こちらを勧めてほしい」といったフィードバックが多いです。ブランドごとのこだわりがあります。あとは、ユーザーに使ってもらえるかどうかです。ウェブ上で音声接客を受ける体験は新しいので、まだ慣れていない人もいます。いきなり音声で接客されると驚いて離脱することもあります。また、ChatGPTやGemini、Claudeと何が違うのかを示すことも重要です。ブランドサイトに来て使う理由を明確にしなければなりません。違いはナレッジにあります。ChatGPTなどはウェブ上の公開情報から回答しますが、ブランドが言ってほしいこと、言ってほしくないことの制御はできません。「Omakase AI」はブランド側に寄り添ったサービスです。

WWD:AI接客は、誤った提案をしないように設計されているのでしょうか。

渡邊:基本的には誤った提案しない設計ですが、100%とは言えません。99%なくすためにプロダクトと運用を磨いています。重要なのは、これはAIであると認識してもらうことです。人間でも間違うことはありますが、AIには厳しい目が向けられます。AIによる接客であり、間違う可能性があることを周知した上で、品質を高めていくことが大切です。

ECは“早く買わせる”から
“納得して購入してもらう”へ

WWD:導入ブランドにおいて、顧客の購入単価やセット購入率、リピート率などに違いは出ていますか。

渡邊:一番明確に出ているのは購入単価です。ウェブサイト全体の平均値と、「Omakase AI」の接客を受けた人の平均値を比較すると、悪くても10%程度上がっています。中には3倍ほど上がるケースもあります。理由は2つあります。1つは、リアルタイムで疑問や課題を解消でき、納得購入につながること。もう1つは、会話の中でセット販売が自然に起きることです。お客さまが納得した上で、ブランドが推奨する買い方をしているので、LTV(顧客生涯価値)も高くなる可能性があります。以前のシナリオ型でもLTVは伸びていたので、自由応答型AIではさらに伸びると見ています。

従来のウェブマーケティングは、いかに早く買わせるかに特化して進化してきました。クーポンやタイムセール、限定オファーなどを駆使してCPA(顧客獲得単価)を下げる方向性です。一方、「Omakase AI」は一度立ち止まって会話し、納得して購入してもらう。真逆のアプローチです。

WWD:AI接客が進化した先で、美容部員との役割分担はどうなりますか。

渡邊:AIが進んだ先は、人が人らしい仕事をできる世界だと思っています。夜間や早朝など、人間が対応しにくい時間帯はAIが担う。一方、人はより人間らしい接客に時間を割く。そこで得られた知見やデータをAIが学習し、さらに良くなる。そういう役割分担になると思います。人に求められるスキルも変わります。AI対人間ではなく、AIを育てる人間という立ち位置が出てくるはずです。美容部員が「このAIを自分が育てている」という感覚を持てる会社は強いと思います。組織図の中にAIをどう位置付けるかも重要です。AIエージェントなので、1個、2個ではなく、1体、1人という単位で考えています。AI対人間の構造を作る会社はAIが浸透しにくいと思います。

WWD:今後、AI接客が普及していく中で、ブランドが競争力を維持するために重要なことは何ですか。

渡邊:フィジカルデータです。AIは基本的にウェブ上の存在なので、リアルな空間を認識しにくい。美容部員が店頭でどの位置に立ち、どのタイミングで声をかけるかといった現場の判断や、混雑時の雰囲気、接客の空気感などは、人間は理解していますが、AIはまだ理解できません。この1、2年は、現場のデータ、まだデータ化されていないものをどうデータ化するかが重要になります。今後、多くのブランドがAI美容部員のようなものを出してくると思います。セフォラ(SEPHORA)やロレアルも取り組んでいますし、日本のトップブランドも何らか出してくるでしょう。そうなると、AI美容部員がいること自体は珍しくなくなります。差別化は、今までデータ化できていなかったものをデータ化できるか、本当に気持ちの良い接客をマニュアル化できているかにかかっています。

今後はアバター設定も進めようとしています。実在する人物の動画を学習させ、インタラクティブなAIアバターにすることもできます。将来的には、ブランドを象徴するビューティコンサルタント像や、D2CブランドであればインフルエンサーをAI化するような展開も考えられます。

WWD:米国ではオープンAIが小売企業との連携を進め、ChatGPT内で商品発見から購入までを完結させる“会話型コマース”の実装が進んでいます。美容領域でも、ロレアルがオープンAIと連携し、ChatGPT内でのバーチャルメイクなどを進めていますがどのように見ていますか。

渡邊:とても良い取り組みだと思います。オープンAI、Claude、グーグル(GOOGLE)のようなプラットフォーマーが直接ブランドと組むプロジェクトは増えていくはずです。その中で、私たちのような会社がどういうポジションを取るべきかは考えています。私たちはもともとコミュニケーションデザインをやってきた会社です。ウェブ接客によってLTVが高くなるといった知見も蓄積しています。オープンAIやグーグルはシステムの会社です。システムの会社が良い接客を作れるかというと、そこには疑問があります。私たちはコミュニケーションの会社なので、コミュニケーションの会社がAIを扱ったときに、より良いAI接客を作れるのではないかと考えています。

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